第5話 婚約者様がやってきました
翌朝。
普段通りに過ごした後に私は、来客をもてなす事になった。
部屋を出ると、こちらの身支度を手伝ってくれた使用人の男性トールがついてくる。
五つ年上の男性で、短い黒髪に茶色の瞳をした、素朴な顔つきをした男性だ。
幼い頃からこちらの世話を任されているので、何を言わなくともある程度の意思疎通は可能だった。
ただし、過ごした年月が長いせいか、こちらに対して過保護で、なおかつ小言が多いのが気になる。
そのトールが話しかけてきた。
「お嬢様、この間リンガス地方からフラクト茶の茶葉が送られてきましたが、ご用意いたしますか？」
「そうだったわね、じゃあ頼んでおきましょう」
トールの提案を受けた私は、近くを通りかかった使用人に用事を頼んでおく。
彼等にも彼らの仕事があるだろうから、私が自ら厨房に行って頼むと彼らが萎縮してしまうので仕方がない。
ついでにお持て成しのお菓子も……と追加で頼んだ後、出迎えの為に玄関へ向かう。
屋敷の入り口、開けた場所には待ち人が立っていた。
姿を現せば、相手の視線がこちらへと向かう。
待ち人の正体は私の婚約者だ。
「君と会うのは三日ぶりだな。元気にしていただろうか、婚約者殿」
私の名前を呼ばずに婚約者殿と呼ぶ彼……三歳年上のその男性の名はウルベス・ジディアラーツ。
「お久しぶりですわね。ウルベス様」
私は彼と挨拶を交わして頭を下げる。
背後に控えているトールからも、こちらと同じように身動きするような気配が伝わってくる。
「お会いできて嬉しいですわ」
ウルベスは、短い緑の髪に、長くとがった耳、明るい翡翠色の瞳をした男性だ。
そして、人間離れした（よくできた鑑賞人形の様な）造作をした顔をしていて、モデルの様なすらりとした体格をしている。
種族は人間とエルフの混血であるハーフエルフだ。
普段は兄と同じ騎士団で働いているが、放っておくといつまでも真面目に働き続けるとかで、今は休暇を取得中だという。
「休暇はまだ？」
「ああ、イシュタル殿は一足早く戻られた様だが。会われたかな？」
「ええ、兄とは昨日話しましたわ」
「それは良かった。彼にはよくしてもらった。君と話したがっていたので、訪問日をずらしたのは幸いだった」
「あら。そんなお気遣いなさらなくても構いませんのに」
兄の心は広いはずだ。兄弟水入らずの時間を少し害されたくらいで、揺らぎはしないだろう。
ちなみに良くしてもらったとは、その時までハーフエルフのまったくいなかった騎士団に、ウルベスが兄に声をかけられ、組織に引き入れてもらった……という事だ。
