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第42話 向き合う関係



 一周目の時は、監禁をやめさせた後に屋敷の者達の事について話をした。けれど言い合っている内にちょっとした火事が起こって、それの影響でイベントが途中で強制完了。

 二周目である今は一周目と違う流れでここに辿り着いてているから、前と同じようになるとは限らないが……。


 説得を急いだほうがいいかもしれない。


 私は勇気を出して踏み込む事にした。


 もう一歩、彼に近づく。

 対照的に、トールは下がった、


「トール! 皆を信じて、私は貴方が心の底から望んでいるような関係にはなれないけど、家族だと思ってるから」

「お嬢様、それは……」

「貴方は、向き合わなくちゃいけないんだわ」

「……っ!」


 トールは目に見えて表情を歪ませて、心の内と葛藤し始める。

 彼の心を揺らすなら、やはりこの方法しか思いつかなかった。


 やがて俯いたトールがこちらに歩いてきて、私を抱き寄せた。

 和解ではない、拒絶の意思で、だ。

 肉体的な距離はこんなにも近いのに、心は遠いまま。


 トールの息が耳をかすめて、首筋にかかった。


 彼の息づかいがはっきりと聞こえてくる。


「駄目だって分かったから、私を操るの? 今までの思い出も、積み重ねてきた関係もなかった事にするの?」

「……っ。やはり、知って来られたんですね」

「ええ。そのためにあれを置いたんでしょう? トール、怖がってる内は何も手に入れられないわ。貴方が私達と線を引いている内には、本当に欲しい物は何も手に入らない」

「……」

「ねぇ、こっちへきて。私と同じ目線で同じ物を見て、貴方の世界は狭すぎる。線を引いた貴方は、自分でその場所に固執してしまっているのよ」

「……っ」


 顔は見えないが、彼から洩れる苦し気な声と悩む声が内心を教えてくれた。

 彼が今どんな表情で、どんな心情でいるのか私には分かる。 


「私以外の皆を好きになって。アリオも、ウルベス様も、他の使用人達も」

「……そうしたら、貴方は私の物になってくれるんですか? アリシャ様」


 涙が私の首筋に零れた。

 温かい熱が伝わって来て、まるで彼の心の荒れ具合を表すかの様だった。


「それは約束できないわ」


 トールが身動きして首筋に歯を立てるが、私はかまわずに続けた。


「けれど、90パーセントくらいは可能性があるんじゃないかしら。きっと頑張った貴方は誰よりも魅力的な人になるはず思うから」

「残酷な言葉だ」

「真実よ。信じられない? なら……」


 私は袖をまくり、つい最近怪我した腕の包帯をとる。

 傷口を押せば血が流れた。


「操れば分かるわ」

「……」


 そう、そうすれば真実は判明するだろう。

 その状態の私に。どう思っていたかを聞けばすぐに解決だ。

 操られて命令されるままになってしまえば、彼に嘘はつけない。

 けれどそうしてしまえばもう、元の関係には戻らない。


「お嬢様にとって私はどんな人物なのですか?」

「頼れるお兄さんで、かけがえのない家族で、しっかりものの使用人で、とても魅力的な男性」


 彼は動かず悩み続けた。


 ややあって、彼は身を離す。

 向かい合ってそこにいたのは、いつものトールだった。


「……まったく、ウルベス様がいるというのに罪な人ですね。そんな事を言われたら脈があると勘違いしてしまいますよ」

「そう? 私は本当に嘘なんか言ってないわよ、今は男性として好きじゃないけど、純粋な可能性でいえば、一番長く傍にいた貴方のほうが有利だと思ってるもの」


 嘘なんかじゃない。

 そう伝わるようにまっすぐ見つめた。


 トールは泣きだしそうな表情で視線を落とす。


「まったく、そういう事を言わないでくださいよ」


 彼の顔は明るい。

 これならきっと大丈夫だろう。

 吹っ切れたような目の前の彼の表情を見てそう思う。


「じゃあ、これから私と一緒に真犯人を捕まえて。貴方の力が必要なの……」


 私は手を差し出す。

 トールは、私の手を掴んでくれた。


「もちろんです、何て言ったってお嬢様の……いいえ、私の想い人の願いですからね」


 今までの自分から一歩踏み出した事が彼自身にも分かったのだろう。

 トールは私に笑顔を見せてくれた。


「お嬢様、ありがとうございました」



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