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第33話 新しいイベントのようです



 この画用紙のイベントは、ゲームで知っていたものの前回は起きなかった。

 だから今回も起きないかもしれないと思っていたが……。


 予想できなかった事態に困惑してばかりではいられない、私がやる事は決まっているのだから。

 後に待つ悲劇の結末を回避する為に、最善だと思う行動をとるしかないだろう。


 物置の使用人達に「仕事を続けて」と言い、作業に戻らせる。


 いったん部屋の外に出た私の隣には、落ち込んだ様子のトールが立っていた。


「大切なものの管理を……、杜撰な。なんという失態……」


 とぎれとぎれに聞こえてくる言葉は、誰かへの怒というよりも自分のふがいなさを責めるものだった。


 心ここにあらずといったその様子は、まるで魂が抜けてしまったかのような有り様で、つい心配になってしまう。


 そういえばゲームでも、魂が抜けている絵が描かれていた。


 ゲームをやっていた時は、そんな大げさなと思っていたけど、生身のトールと接していればよく分かる。


 彼は真面目で几帳面だから、誰かからもらった物を杜撰に扱う事なんてしない。物の管理は普段からしっかりやっているから。


 だから私は彼の肩に触れて、声をかけた。


「大丈夫? トール」


 我に返った彼が顔を上げて、こちらを見つめる。

 弱々しい表情から、いつもの表情へ戻って頭を下げた。


「はっ、すみません、お嬢様。お嬢様からいただいていたものを知らない間に紛失してしまうとは、情けない限りです」

「良いのよ、見つかったなら。それに、トールはちゃんと大事にしてくれたんでしょう? そこを疑ってなんかいないわ」

「ええ、それはもう。嬉しいのですが。しかしなぜ……」


 首をひねって考え込むトールだが、答えは分からないらしい。


 ならばとにかく、事情を調べなければならない。

 トールは攻略対象の一人だ。

 本来なら雨の中で「使用人仲間の探し物をする」という別のイベントが起きて、この話が始まっていくのだが、違う面から問題が起きてしまったのなら柔軟に対処するしかない。


 たかが紛失物、と放っておいてとんでもない出来事に発展させたくはない。


 むしろ逆に、良い機会だと思うべきだ。

 シナリオの行方やらなにやら関係なしに、いつもお世話になっている彼に何かしてあげたいという思いがあったのだから。


「さっき聞いてみたんだけど、お掃除している人達は、どうして物置にあったのか理由が分からないって言ってたわ。だから、聞くなら他の使用人達よね。一人ずつ地道に当たっていきましょう」

「はい、そうですね。でもよろしいのですか?」


 こちらの提案に一度は頷いたトールだが、自分の用事につきあわせてしまう事に罪悪感を感じている様だった。

 彼は、最初は一人でやるつもりだったのだ。


 私は指で軽くトールの額を弾いてみせる。


「水臭い事を言わない。私とトールの仲でしょう? いつもお世話になってるんだから、これくらいさせてくれないと、私の方が罪悪感で潰れちゃいそうになるわ。難しく考えないで、気楽に一緒に散歩している風に考えればいいのよ」

「屋敷をお散歩ですか……」


 腑に落ちないといった風の使用人。

 トールは自分の失敗は自分で何とかしたいと考える人間だ。

 極力人の助けを借りたがらないし、子供の頃はともかく、成長した今の彼には何でも自分一人でこなせるだけの器用さがある。

 責任感の強い彼のそういうところは美点であるのだが、私は少し寂しく感じていた。


 だから、私はトールを納得させるために、少しだけおどけた口調で、今思いついた言い訳を言葉にした。


「たまには自分の家を散歩してみるのだって良いでしょう? 幸いな事に私は貴族で、この屋敷はそれなりの広さがあるんだもの。自分の家の状況を把握するのも立派なお仕事。違うかしら?」

「……確かにその通りです。やれやれ、まったく……。お嬢様には敵いませんね」


 屁理屈みたいな言葉だが、聞いたトールは苦笑を漏らした。

 諦めた様子の彼は、私が同行する事を了承してくれたようだった。



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