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第26話 公園で待ちぼうけくらっています



 アリオに別れを告げた後。

 私は寄り道をした。


 小さな店に入って、あらかじめ頼んでいたものを受け取る。

 それはここ数年で名前を上げるようになった幼なじみへのプレゼントだ。

 黄色の包装紙でくるまれた小さな箱を、ポケットの中にそっとしのばせる。


 そして次に向かったのは、公園。アリオ達の楽団が名もない楽団だった頃に練習をしていた、見晴らしの良い場所。

 昔の彼等はここや大通り、そして小さな店などで演奏してお金を稼いでいたのだ。


 アリオとの約束の場所はここで間違いない。

 彼等が公演に来た時は、必ずここにきてアリオと二人で景色を眺めながらおしゃべりしていたから。


 遊具で遊ぶ子供達を眺めながら、端っこにあるベンチに着席。


「お嬢様、そろそろ帰りませんと」

「もうちょっとだけ」


 そんな風に急かしてくるトールをなだめながら待つ事一時間。

 来たばかりの頃にいた子供達は全員帰ってしまっていた。


 待ち合わせのアリオはまだ来ない。

 後片付けで手間取っているのかもしれない。

 あるいはひょっとしたら、ここに来るまでに財布を落としたり、盗られたり、道を間違えたり、迷子の子供を見つけてしまったりしているのかも。


 だが沈み始めた夕日を見て、私だけは彼の遅れの意味するところが分かった。

 ゲーム画面で見たのとそっくりの景色。


 やはり今日だ。

 アリオ関係の大きなイベントが起きるのは。

 アリオのイベントは、夕方の公園で発生するのだ。


 不意に足元から鳴き声が聞こえて来た。


「にゃーご」

「あら?」

「猫? こんな所にもついてきたみたいですね」


 距離を保ちながら身をかがめて視線を下げればそこには、いつも屋敷にいる猫がいた。


「いつまで経ってもお嬢様が帰らないから、催促しに来たのではないでしょうか」


 よほど私とアリオの事を邪魔したいのか、嬉々として帰宅の話を絡めてくるトール。

 これを機に……とでも思ったのだろうか、彼は猫を抱き上げようとするのだが、それを見て短く忠告しておいた。


「トール、迂闊に近づくと引っ掻かれるわよ」

「う……」


 わずかな躊躇いを見せるトール。

 彼も他の者と同じように被害に遭っている。


「本当になつかないのよねこの子……、でも同じ馬車にはついて来てくれるんだから『大嫌い』よりはまだ『嫌い』の方なのかしらね」

「どちらも大差ないように思えますが」


 ちょっとだけ近づいてじっくりと観察してみるが、猫の心境など分からない。

 この黒猫とも仲良くなれれば良いのだが、とっかかりすら掴めないのだから困ったものである。


 そんな風に不躾に眺めていたからだろうか。


「ぶにゃあ!」

「あっ、お嬢様に何て事を!」


 走り寄ってきた猫が、私の手に思いっきり噛みついてきた。


 それを見たトールが、私と猫を引き離そうとするが、私は強い口調で彼を止める。


「トール、大丈夫だから! 私に任せて」

「ですが……」



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