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第22話 不幸な少年



 ひたすらもふりながら手のひらの感触に浸っていると、この部屋の脇に備え付けられている化粧台に視線が向く。

 その台の上に見覚えのある硬貨があったからだ。

 

 それは、本物ではない。子供がままごと遊びで使う様な玩具のコインだった。


「アリオ。まだやってたのね」


 彼はそのコインを手に取って宙に弾く。手のひらで受け止めたが、結果は裏だった。

 運試し。

 それは彼の幼い頃からの習慣だった。


「今日もハズレだったよ。俺って本当に不運だよね。お嬢とは大違いだ」

「……」


 今日「も」……。

 おそらく昨日もこれと同じ事をして裏だったのだろう。


 アリオは運がない。

 その運のなさは、かなりの筋金入りだった。

 くじ引きをすれば必ず外れだし、道を歩いていればスリに目を付けられたり、ケンカをふっかけられたりしている。


 それだけならまだ笑い話ですむのだが、何かを学ぼうとすれば良い師に恵まれず、欲しいと思った教本は必ず売り切れ、知識や技術が身に付いたとしてもそれを発揮する場所に恵まれないでいた。


 今はこの部屋の中でじっとして話をするだけだから分からないが、本来のアリオは何かをすれば必ず不運な目に遭うという……そんな生活を送っているのだ。


 だが、アリオはそんな自身の境遇にへこたれることなく、己の性格と努力を積み重ねて頑張って来た。


「アリオは偉いわね。だから、ご褒美になる様にと思ってマッサージの仕方を勉強してきたの。どうだったかしら」 

「え、本当? どうりでいつもより気持ちいいと思ったよ。お嬢はやっぱり良い子だなぁ。だったらもっと撫でて俺を気持ちよくしてほしいな」


 ほらと、差し出されたのはふさふさしっぽ。

 ぎゅっと掴むと、耳と同じくフワフワな手ごたえが返ってくる。


 この時の為に培った技術が効いているのだろう。アリオは目を細めて、気持ちよさそうにされるがままになっていた。


 顔の良い攻略対象がそんな無防備な姿を見せてくれるのは、若干反則気味である。なんの反則かは知らないが。

 信頼して身をゆだねてくれるのは、私が気心の知れた幼馴染みだからだろうか。それとも……。


 何気なく視線を向けると、他の団員の「やれやれ」みたいな視線。

 皆、片付けが終わってしまったようだ。


 傍にはアリオが片付けるはずだった、彼の得意である打楽器が目についた。

 そろそろやめた方が良いかもしれない。


 そんな私達を見ていたトールが、口元をひくつかせながら声をかけてくる。


「お嬢様……」


 低い声音と、視線で咎められた。

 だがアリオには、もっときつい視線で睨みつけている。


 名残惜しいのだが、私は仕方なく手を離す事にした。


「何だよ。トールはいっつもやかましいな。黙っててもうるさいなんて、小姑以上だぞ」

「お前が私を煩くさせるんだ。大人しくしてほしかったら、お嬢様に近づかないでほしいんだが?」


 不満げなトールとアリオのケンカは、放っておいたらいつまでも続いてしまうだろう。


「二人共、そこまで。もう帰るからケンカしない」

「えー」

「ほっ」


 残念がるアリオと、安堵するトール。

 対照的過ぎる二人の反応を見ながら、私は別れの挨拶を口にする。


「じゃあね、アリオ。時間を使わせてごめんなさい。特別講演、楽しみにしてるわ。また会いましょう」

「うん、俺……今度も頑張るから。絶対見に来てね!」


 屈託のないアリオに背を向けて、他の者達に頭を下げた後、部屋から出て行く。

 最後に扉を閉めようとしたら、使用人が横着。子供みたいにアリオに向かって舌を出したトールに先に閉められてしまった。



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