バーキンで夕食を
投稿が遅くなり申し訳ございません。
「リオン、やってくれるんだな。じゃあ、兄ちゃん仕事に戻るから、後は頼んだぞ」
という言葉を残し兄は去っていった。どうやら仕事の休憩中に顔を出していたようだ。
とりあえず、俺とヴァンは作業に取りかかった。まずは、ヴァンの描いた絵をもとに型を引く。これが地味に大変だ。そもそもかばんはパーツの数が異常に多い。ハンドル、表、裏、側面、底面、蓋など切り返しがあればその数だけパーツが増える。そのパーツ一つ一つを、組み立てれば絵の通りのかばんに仕上がるように脳内でイメージしながら線を引く。特に今回は見たことも聞いたこともないかばんを作るから余計に大変だ。想像できない部分はヴァンに設計を確認しながら、型を作る。
その間にヴァンはうちにある金具の在庫を確認し、棚から必要な金具の在庫を持って来て、足りない金具のリストアップを済ませ、見せてきた。ほんと使えるやつだな。
今回は環や鋲など、よく使う金具はうちでストックしてあるもので事足りる。ヴァンが選んだものをみると、このかばんは艶銀鍍金のものを使うのだろう。
足りないのはやはり特殊な金具、ベルトの両端に使う金具とベルトを止めるための金具のようだ。
「日頃よく行く金具屋がございますので、ちょっと行って相談して参ります」
「なら費用は兄貴に請求するし、型もできたし、俺も行く。というか、俺が抱えて連れてきたし、ここがどこだかわからないんじゃないか?」
「あら、失念しておりましたわ。ここはシェスターのどの辺なんですの?」
「ここは、二郭の南東だ。リズ通りと十七番街の交差点が近い」
ちなみにここシェスターは城郭都市で、城を中心に貴族が住む一郭、平民が住む二郭に別れている。
北から順に横線に一番街から二十一番街があり、縦の通りにもそれぞれ名前がついているので、何番街の何通りといえばどこにいるかがわかる。
「でしたらわたくしの懇意にしております金具屋、エイベル金物店が近いですわね。」
「ブランドンのじじいのところか。それならうちも仕入れてるところだから有り難い。場所もすぐ近くだし、行こう」
こうして二人でエイベル金物店へと向かった。
エイベル金物店に入るといつも通りブランドンのじじいがいた。
「おや、ヴァンじゃないか。頼まれてる釦ならまだできてないぞ。と、リオン。お前ら知り合いだったのか」
「色々あってお知り合いになりましたの。おじさま、今日は釦のことで来たのではございません。ちょっと、家具に使う部品を見せて頂きたいのです」
「家具?ヴァンは洋裁店で働いてるんじゃなかったのか。まあ、うちはもちろん家具用も扱っているが。家具用は奥の棚だ。どういった金具を探してるんだ?」
ブランドンは奥の大きな棚を指した。
「扉を内側から閉める内鍵と南京錠ですわ」
「おう、それならあるぜ。ほらよ。でもヴァン。こんなの洋裁店で何に使うんだ」
「今日は俺の分だ。うちの店に付けといてくれ」
「リオンが使うのか。ますます訳がわからねぇ」
「ふふふ。秘密ですわ」
ブランドンのじじいをあしらいながら俺たちは金具を手にエイベル金物店を出た。そうか。あの金具は扉に付ける内鍵だったんだな。確かにあれならネジで生地に取り付けられるし、錠として開け閉めが可能だ。
店に戻ると、次は出来上がった型をもとに生地を裁断する。ちなみに俺はこの裁断の工程が好きだったりする。流行りの大量生産であれば、ここで紙型を元に金型を作って、生地を何枚も重ねて金型を押して裁断し、一度で大量の生地を裁断するところだが、あいにくうちは売れない少量生産の工房だから、一つ一つ挟で切って、裁断していくしかない。しかし、先程作ったパターンに沿って切っていくので、ガイドがある分、何も考えずに集中して作業に没頭できるから俺は好きだ。ひたすら腕を動かして、そうして俺はひたすらパーツを裁断していった。
◇
リオン様が妙に集中して裁断されてる間、わたくしは裁断できたパーツに合う芯材の選定と調整を行いましたわ。かばんは意外と硬さに左右されるものなのですの。かっちり仕上げるか柔らかく仕上げるかによって、かばんのイメージは180度変わってしまいますわ。
また、材料によっても伸びる方向やその硬度が変わってきますので、都度その材料を見て、仕上がりを考えて、芯材を選んで調節しますわ。
さらに、部位によっても仕上げ方が変わりますので、(例えば底面なら荷物を入れてもしっかり自立するように硬質樹脂を入れたりしますし、ハンドルなら太めの柔らかい紐を入れたりしますの)このパーツがどこに使われるのかも考慮しながら芯材を決めていきますわ。そうやって工房にある芯材をリオン様が裁断したパーツに合わせていると、また「リリーン」とお店の鈴が鳴りましたの。
「リオンちゃんただいま。お母さん今日もお仕事がんばったわー」
と金茶の髪に透き通った氷のよう冴えた青の瞳を持つ猛烈美人な女性が入って来られましたわ。社交界でたくさんの美人を見てきましたが、これほどまでの美人はなかなかお目にかかれませんわね。この方がリオン様のお母様なんでしょうか。どちらかというとリオン様よりお兄様に似てらっしゃいますわ。リオン様はお父様似なのでしょうか。
「まあ!まあ!まあ!リオンちゃんったら、可愛い女の子連れ混込んじゃって。リオンちゃんももうそういうお年頃なのね。お母さん少し寂しいけど嬉しいわー」
「おかえり、母さん。疲れたからって何寝ぼけたこと言ってるんだ?ヴァンは男だ」
「「はぁ~?」」
これにはさすがのわたくしも驚きましたわ。男装をしているとはいえ、ずっと素で話しておりましたのに。わたくしそんなに女子力が足りてないでしょうか。ちょっと地味に落ち込みますわ。
「ヴァンちゃんって言うのね。私はエヴァンジェリーナよ。イーヴィって呼んでちょうだい。うちの息子がほんとにごめんなさい。我が家の子達はちょぉぉぉっと鈍感なのが玉に傷なのよ。でもリオンちゃんはまっすぐで男気あるから昔から結構モテるの。家事も人並み以上、むしろプロ並みにできるし、ヴァンちゃんのお婿さんにどうかしら?」
あら?イーヴィ様ってお名前ってなんだか聞いたことがございますわ。確か、、、え、でも、そんなことって、いえ、そんなはずありませんわ。きっとお名前が同じだけですわ。
「イーヴィ様。所以あってリオン様のお仕事をお手伝いさせていただくことになりましたヴァンと申します。このことは、男装をしておりましたわたくしがいけないのです。リオン様に誤解を与えてしまいまして。しばらくリオン様のお仕事のパートナーとしてお世話になります。よろしくお願い致します」
「まあ!なんて丁寧な子なの!!ますますお嫁さんに欲しくなっちゃったわ。そうだ、今日はお土産があるのよ。ヴァンちゃんもぜひ召し上がって」
「ヴァン。お前ほんとに女だったのか、、、それは悪かった。」
「リオンちゃん。女子には謝るだけじゃだめなのよー。ほら、これ渡して」
リオン様がイーヴィ様から渡された包みを渡してきましたわ。包みを開くと、白い小さな粒がたくさんついた丸いお団子が入ってましたわ。 ま、まさか、、、
「ヴァンちゃん。これ最近巷で有名な胡麻団子ってお菓子なの。ぜひお召し上がりになって」
まさかこれが探し求めていた胡麻団子なんですのね。
イーヴィはヴァンさんより押しが強いんじゃーです。