バーキンで夕食を
連投するつもりで温めてた2話と3話のデータが全部飛んでしまい、一から書き直しました。
だめぜったい、書いたら取ろうねバックアップ
肝に命じます
突然、木の幹のように落ち着いた焦げ茶色の髪に春の優しい空色の瞳のイケメンさんが入って来ましたわ。わたくしの好みのイケメンさんでは無いでのすが、どうやらハスキーボイス少年のお兄様みたいですわね。見た目の色味は、濃淡あれど似てらっしゃいますが、お声の方は、残念ながらお兄様は耳に残る素敵な低音ボイスですわ。
まあ!恋い焦がれる女性に送るバックですって。わたくしの腕がなりますわね。ぜひともやってみたいですわ。
ふむふむ、ハスキーボイス少年のお兄様のお話からすると、お仕事をバリバリこなす出来女な方なんでしょうね。外交官的なお仕事かしら。となりますと、他国とのお仕事ですから語学の辞書なんかはもちろん契約書やら輸出入の書類やら、たくさんの機密溢れる書類を持ち歩きますわね。けれど一見、可憐なご令嬢とのことですので、ベースは綺麗めエレガントに、華奢なアクセントをちりばめつつ、ビジネスのかっちり感を出して、、、そうですわ!あれにしましょう。
「そのお話、このヴァンがしかとお聞きしましたわ。わたくしにプロデュースさせてくださいまし」
◇
「いや、あんた素人だろ。やめときな。これはそんなに簡単な話じゃない。かばんってのは他の装飾品と違って、呆れるくらいたくさんのパーツを複雑に組み立てて仕上げるのに、たいした数が売れることもない。どうしても値が張ってしまうから、何個も買えるのは貴族か商人くらいだしな。この店だって、親父がいなくなってからはてんで売れやしなくなって、残りの生地はもうこの革1枚だけ、そろそろ店を閉じようかと思っていたところだ。」
「何を言ってるんだリオン。資金なら俺が働いた分で何とかするから続けろよ。父さんの残した店だろ。父さんが突然いなくなって、まだ若いお前に任せきりにしてしまったのは悪かったと思ってる。でもお前は昔から手先が器用だし、俺とは違って才能あるし」
「才能なんて無いからこの店は潰れそうなんだ。俺は兄さんの重荷になりたくないんだよ。」
パンッ!!
乾いた大きな音がした。どうやらあいつが手を力いっぱい叩いたようだ。
「そこのハスキーボイス少年。あなた、才能ありますわよ。」
いつの間にか店に飾ってあった俺の作ったサンプルを持っている。
「この縫製の正確さ、切り口の丁寧な塗り、よく考えられた補強材の入れ方、そのどれをとっても、何年も修行をしたとしても才能がないとこれほどまでのことはなかなかできないことですわ。だからこのお話、ぜひやっててみるべきですわ。ですので、その残りの生地とやらを見せてくださいまし」
こいつ、ほんとにただの町人か?言い方丁寧だが、自分の意見をはっきりと言うことに慣れているし、言葉に迫力がありすぎる。
俺は思わず、残りの生地を差し出した。
「漆黒の牛革ですわね。いい色と艶ですわ。硬さは少し足りないから芯材で調整する必要があるかしら、、、何か描くものをくださる?」
ペンと紙を渡すとささっと何かを描いて渡してきた。
表から見るとそのフォルムは台形をしていて、横にはたっぷりのマチがあり、たくさんの書類が入りそうだ。表裏それぞれ長めのハンドルが縫製されて、女性なら肩で持つことができるのだと思う。
かばんの裏から表にかけて、開口部の上に蓋があって、その形は「M」の文字のように左右に溝があり、ハンドルの上からでもかぽっと蓋を閉じられるように設計してあるようだ。
かばんの上部にはぐるりとベルトが回っており、ベルトの両端には長方形の孔のある金具が取り付けられている。
これはどうやって使うのだろうか。バッグの表にはベルトを通すための環が上部の左右にあって、その間には先端に輪が付いた楔のような突起物の金具がある。蓋には、これらと重なる位置に孔があり、蓋を閉じれば、環と突起物がにょきっとっ出てくる仕組みなのか。なるほど、蓋を閉じてこの環にベルトを通し、端を突起物に通してベルトを閉じられるのだろう。
突起物の先端の輪は回転するとご丁寧に解説図が描いてあり、向きを水平にすれば、ベルトの先端の金具の孔の形と合致してベルトの付け外しができるし、垂直にすれば差し込んだベルトが外れず、固定することができる仕組みなのだろう。
気づくと俺は夢中になってそいつの描いた絵をみていた。
俺は気付いたんだ。
俺に足りないものに。
それを持っているのは、こいつなんじゃないか?
「ヴァンといったな。俺はリオンだ。年は16だが幼い頃からこの工房で親父とかばん作りをしてきたから、かばんについては割りと詳しいつもりだった。素人なんて失礼なことを言って悪かった。俺はあんたの描いたかばんに惚れた。俺にこれを作らせてくれ」
「わたくしの方こそ、差し出がましいことを言って申し訳ございません。わたくし、かばんには少々思い入れがございまして、ここに来て、懐かしいことを思い出して、なんだか嬉しくて、あなたの気持ちも考えずに発言してしまいましたわ。本当にごめんなさい。ですが、最初からプロデュースしたい、と申し上げておりますわ。もちろん喜んでお手伝いします、リオン様」
こうして俺とヴァンとのかばん作りが始まった。
ちなみにヴァンさん17歳です。