第十四話 伏見雫の想い
伏見 雫が自宅に押しかけてきたのは、文化祭翌日の日曜日だった。
「今度こそ、話を聞いていただきます!」
高校に入ってから見なくなった、中学時代の快活で強引な口調に戻って、彼女は有無を言わさないぞと目に強い光を湛えていた。
その勢いに気圧されて玄関のドアを開けたままぽかんとしていたら、さっさと彼女は玄関に入ってしまう。
「ちょっと待て!」
慌てて彼女の腕を掴み強引にこちらを向かせると、彼女は泣きそうな顔でこちらを見た。
泣きそう?
違う、泣いていたんだ……
目元が赤く腫れている彼女を見て、思わず手を離す。…
「司さん、話があるので部屋にお邪魔していいですか?」
家の中に入って、彼女は伺うように僕を見た。
家族がいるときは自分の部屋にも入れたが、今日は誰もいない。
「今日は家に誰もいないから、居間の方がいい。」
とぼそっと言った。
頷くと素直に居間に行こうとする彼女に、
「今さら何しに来た?」
と問う。
「言いましたよね。あなたとお話がしたい。」
振り返りもせずにそう言うと、彼女はスタスタと居間へ入っていった。
「どうしてあの時、神社の石段から後ろ向きに落ちるような危ない真似したんですか?」
居間のソファに座り、一応はと紅茶を出して勧めたところで、彼女が紅茶を見つめながら言った。
顔色が真っ青だと思ったが、何も感じなかった。
「君こそどうして、あの場に来たんだ? 小金沢が君を呼んでいたわけではないんだろう。」
「マコ兄…誠さんが、司さんと電話で話しているのを、弟が誠さんの部屋に遊びに行っているときに聞いてたみたいで、誠さんは私には何も言ってくれなかったので、様子を探っていました。
あの時もこっそり跡をつけていて、あの場に居合わせたんです。」
「そう、それで聞いちゃったんだね。僕が小金沢を置いて逃げたことを。」
小金沢が飲酒して喧嘩したあの事件、他校生に絡まれていたのは僕だった。
ぶつかったと因縁をつけて、所謂カツアゲしようとしていた他校生3人に小金沢は僕を助けようとして殴られ、殴り返し乱闘事件となったのだ。
「僕は助けてくれなんて、頼んでいない。」
助けてくれたのが小金沢でなければ、感謝出来たのかもしれないとは思ったが、小金沢に助けられるのは業腹だった。
あの神社に小金沢に呼び出された時も、小金沢はその時のことなんか別にいいと言い、どうして雫とちゃんと話をしてあげないのかと言った。
自分がしたことで誤解を与えたと謝り、雫とは幼馴染以上の感情はないときっぱりと言った。
彼女と仲直りしてほしいと頼んできた。
そういうところに彼女が惹かれているのかと思うと、余計に自分が惨めな敗北者になった気がした。
そこに雫が飛び出てきて、小金沢と他校生との喧嘩の原因が僕であるなら、皆に説明してほしいと言った。
ああ、やはりと思った。
彼女は小金沢を選ぶのか。
僕は境内に登る石段を背に、彼らと話をしていた。
ふと、このままこいつらの前で、おまえ達のせいだと言いながら死んだらどんな顔をするんだろうと思った。
だから、階段から飛び降りた。
彼らが伸ばした手を振り払って、下まで落ちた。
「もう、信じてくれないかもしれませんが、
私はあなたが好きなんです。」
彼女が泣きながら言った。
「マコ兄じゃない。司さん、あなたが好きなんです!」
今更なんだ…
と思いながらも彼女の泣き顔を見て、ほんの少しだけ心が揺れるのを感じた。
あと一話で最終回です。
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