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番外編『エロスとブリ大根と幼馴染みと』(前編)

「なぁ、せっくすって知っているか」

 放課後、後ろの棚からランドセルを取り出していると、横から急に声をかけられた。

 見上げると、立っているのは横にも縦にも巨大な男子であった。身に着けている迷彩柄のタンクトップはパツンパツンに張りつめて悲鳴を上げ、偉そうに組まれた腕は(たる)のように太い。

 訳知り顔で見下ろしてはいるが、瞳には知性の欠片もなく、ハリボテの城、という言葉が頭に浮かぶ。

「入るクラスを間違えているぞ、エリィ。もう秋になるんだから、いい加減に自分のクラスくらい覚えろ。ここは三組、そしてお前さんは四組。あんだーすたんど?」

「クラスは間違えてねえよ! あと、そのエリィって呼び方はやめろって前から言っているだろ」

 と言って、彼はその妙に長い襟足(えりあし)を左右に揺らした。キューティクルがベストコンディションなのが最高に腹立つ。たぶん『襟足・長い』で画像検索したらトップにコイツが出てくる。これ以上、検索エンジンを汚すのはやめろ。

「なんかあれだよな、日曜日にスウェットで出歩いているだらしない両親に挟まれた息子って感じの髪型だよな、それ」

「俺の両親に謝れ!」

 本当にその通りだったみたいなので、なんともコメントしづらい。

「ぼ、僕は、わ、悪くないと思うよ、ほら、人の目を気にしない唯我独尊の人って感じがしてさ……」

「へたくそなフォローはやめろ。目元が大爆笑してるぞ、口元がひくついてんぞ」

「で、なにしにきたのよ。もう帰るところなんだけど」

「お前に会いに来たんだよ」

 言葉だけを切り取れば情熱的なセリフだが、むさ苦しいヤンキー予備軍の男子に言われても殺意しかわかない。

 エリィは小憎(こにく)らしい笑みを浮かべ、

「んで、話を戻すが、さっきの質問の答えは?」

「耳にしたことはある」

 嘘だった。知らない言葉だった。いや、どっかで耳にしたことはある気がするが、それが何の意味を持つのかはさっぱりだった。だけど、正直に申述(しんじゅつ)して目の前の阿呆(あほう)男子に無知をさらすのはなんとなく悔しくて、曖昧(あいまい)な回答で誤魔化(ごまか)す。

「へっへーん。ま、おバカの〇〇にはわからんだろうよ」

「底辺同士が知識量で争うのは虚しくならんかね」

 僕の苦言は耳に入っていないようで、エリィは得意げに鼻をこすっている。さすが問題児、人の話を聞かない。

 やれやれと肩をすくめる。

 このはた迷惑な巨漢の名前はエリィという。

 隣のクラスの悪童(あくどう)で、時折、彼の悪行が風の噂で流れてくるから、学内の知名度はそこそこあるだろう。

 ま、悪行つっても、どれもこれもしょーもないイタズラばかりだ。

 カツラ疑惑のあった一組の担任教師に黒板消し落としトラップを仕組んだり、学校のマドンナに恋をするピュア男子相手にニセのラブレターを送ったりとかそんなん。

 ちなみに、一組の担任は本当にカツラだったし、校舎裏に呼び出された男子は背後から現れたエリィを見て号泣したらしい。やっぱ悪童だな、コイツ。

 そして、問題児同士ってのは何かと顔を合わせやすい。

 ガミガミ説教されている最中に、ふと横を見ると、同じくガミガミ説教されているエリィがいる。そんな場面が何度もあった。

 その度に、まーたアイツか。若い時分(じぶん)からあんな頻度でやらかしているなんて。きっとロクな大人にならないんだろうな、とか思っていた。

「〇〇にだけは言われたくねえよ」

 その遭遇(そうぐう)率も手伝ってか、今まで一度も同じクラスになったことないのに、エリィとは自然と知己(ちき)を得ることとなり、今のような奇妙な関係を築いてしまったというわけだ。たぶん、こんな繋がりはさっさと切り捨ててしまった方が僕のためになるのだろう。

「よく言うぜ。絡んでくるのは、いつもそっちからだろう」

 ご明察。

 生憎と小生(しょうせい)、奇人変人が大好きなのだから仕方がないでござろう。

「〇〇、放課後は暇だろう」

「暇じゃないよ。これから河川敷に草野球をしにいくんだ。最近は、隣町の学校のやつも参加してくれているから、ついに外野を配置できるようになったんだぜ。良かったらエリィも来いよ」

「野球はまた今度だ」

「なら、サヨナラだ」

 と、ランドセルを背負って帰ろうとすると、ロックし忘れてだらしなく垂れていたカブセを掴まれた。

「やめい、教科書が落ちるだろう」

「お前のランドセルに教科書が入っているわけないだろう。始業式の時からずっと置き勉だろうが」

「あ? さっきからなんだお前その態度は。僕に対してこれ以上、無礼な行いを続けるのならば、氷の女王にお願いして学校から追放させっかんなマジで。なんせ、俺と女王はマブだからよぉ……」

(おどし)し方が生々しいな。そして、あくまで他力本願的で自分の手を汚さないところが実に〇〇らしい……」

 同じ穴のムジナにまで引かれてしまった。心外である。

 ま、そもそも僕と氷の女王さまの間に、関係らしい関係はない。強いて言えば無関係。たぶん、僕のことを路傍の石程度にしか認識していないだろう。

「わかった、降参。その、桃の節句(せっく)? だっけか。僕にはわからんよ、答えを教えてくれ」

「どうして、ひな祭りになるんだよ。せっく、じゃなくて、せっくすだよ」

「どっちでもいいわい。んで、意味は?」

「俺もよく知らない」

「おい」

「だから、その正体を確認しようってわけよ」

 彼が浮かべる下卑(げひ)た笑みを見て、「あ、ろくなことじゃないんだな」と一瞬で理解できた。こやつはきっと、不健全極まりないことを仕出かそうとしている。僕を悪の道に引き込もうとしている。

「元から悪だろうよ」

 勘弁してほしい。模範的な健全ボーイの僕にはそんな道は相応しくない。不埒(ふらち)(ただ)れた放課後よりも、汗水垂らして白球を追いかけている爽やかな放課後が似合うに決まっている。

「ありもしない虚像をつくりあげるな」

 といって、太い腕を僕の首に絡ませてくる。

「いつも死んだ魚みたいな目をしているくせに、何が爽やかな放課後だ。今さら、健全な道を歩もうたって、そうはいかんぞ」

「失礼極まりないな。そもそも僕の目をパクっているのは魚さんサイドであって、なんならライセンス使用料を徴取(ちょうしゅ)したいくらいだよ」

 ギブギブ、と彼の腕をタップしながら考える。

 ……そうだなぁ。

 たまにはエリィと遊んでやるのもいいかもしれない。最近はかまってあげられなかったし。飼い犬だって、しばらく散歩しないでいるとストレスがたまって反抗的になるっていうしな。ここらでガス抜きしておかないと。

「誰が飼い犬じゃい」

 と、腕の力がぐっと強くなる。

 僕はわあわあ叫びながら、タップする手を速めたのだった。


 学校から商店街の方へ向かう道すがら、ちょっとした大きさの公園がある。

 いかにも寂れた感じの公園で、まともな遊具はひとつもなく、公園らしい要素といえばすみっこに設けられた砂場くらいだった。

 だが、その砂場でさえも、長らく遊び手を失っているせいで砂がカチカチに固まっており、雑草まで生えている始末。

 ベンチも木目(もくめ)が荒くて肌をチクチク刺すので、ご年配の方の憩いの場としてさえ機能していない。子どもにも大人にも見放された、ヒューっと木枯らしが吹く様がよく似合う、まさに場末(ばすえ)といった公園であった。

 その入り口付近に、ふたりの男子が立っていた。

 両者とも鼻が低い、のっぺりとした顔立ちをしていて、黒目がやたらと大きく、黒豆を想起させるような、つぶらな瞳が印象的だった。いわゆるおぼっちゃん刈りと呼ばれるその髪型は、近所の床屋で整えてもらったものだろう。

 見覚えがあった。たしか、同じ学年の生徒だ。エリィと同じ隣のクラスの……。

「名前はなんだっけな……喉のあたりまで出かかっているんだけどな……たしか双子の……」

「「双子じゃないから」」

 ハモって否定された。どうやら双子じゃないらしい。

 ……え? マジで? こんなに似ているのに? もはやクローンってレベルで同じなのに?

「……わ、悪い悪い。顔立ちも似ているし、勘違いしていたよ。僕は〇〇っていうんだ。おふたりさんの名前は」

荻野(おぎの)だよ」

萩野(はぎの)だよ」

「やっぱり双子じゃないか」

「「双子じゃないから!」」

 ハモって否定された。どうやら双子じゃないらしい。

 ……え? マジで? こんなに息ぴったりなのに? 数年後くらいに、ふたりは実は幼い時に生き別れた双子の兄弟だったという驚愕(きょうがく)の事実が判明しそうな気がするけど割とどうでもいいし全然興味が持てないし誰も得しなさそうなので終わりにしようそうしよう。

「今日は、この四人で作戦を決行する」

「作戦ってほど、たいそうなものでもないけどね」

 萩野くん(荻野くんかもしれない)が冷静に指摘する。

 僕は帰りたい気持ちを必死に押さえつけて訊く。

「エリィ、これから何をするのか端的に話せ。くれぐれも作戦名とか、うざったい要素は付け加えるなよ」

「わかったわかった」

 質問を受けて、エリィは空っぽのランドセルから、一枚の円盤を取り出した。西日を反射して目にまぶしかったので、射光を手で遮る。

「せっくすの秘密は、これをみれば判明する」

 彼は、ふふんと鼻を鳴らし、得意げに話し始めた。

 事の顛末(てんまつ)はこうだ。

 ある日の放課後、エリィ少年はトボトボと帰り道を歩いていた。たくましい身体を猫背にして終始ため息を吐きながら、何やら憂鬱なご様子。

 なぜなら、返却された算数のテストが二十二点と惨憺(さんたん)たる結果であったからだ(ちなみに僕は十八点だった)。

 エリィの両親は、お世辞にも頭がよろしいとは言い難かったが、子の勉強面に関するしつけはやたらと厳しかった。

 勉学では堕落していたであろう自身の少年少女期のことはすっかりとわきに追いやって子を責め立てるのはいかがなものか、というエリィ少年の至極真っ当な指摘には耳を貸さないだろうし、仮に口にしたらチョークスリーパーを決められることは明らかであった。

 途方に暮れていた彼は、自宅への近道である住宅街裏の空き地を歩いている途中に、悪魔のささやきを聞く。

 ——この残念テストを捨ててしまえばいい。

 悪童という生き物はとかく悪の道に堕ちやすく、エリィ少年は即座に助言に従い、ランドセルからテストを抜き出すと、くしゃくしゃに丸めて草むらに投げてしまった。

 満足感を胸に立ち去ろうとしたが、この少年、妙に律儀なところがあり、「でもポイ捨てするのは良くないよな」と思い立ち、捨てたテストを回収しに草むらに分け入っていった。

 そして、つま先に何かを小突く感触。

 視線を下げると、幾多の雨に曝され日焼けを繰り返した、カピカピに干からびた成人誌があった。表紙の色は薄れ、文字は輪郭を失い、ページは反り返っているうえに所々くっついてしまっていた。

 まともに読むことができなさそうな一品であったが、羞恥心の入り混じった好奇心からそれを蹴り上げてみると、表紙がめくれ、一枚の円盤がフリスビーのように地面を滑空した。

「それがこれってわけよ」

 穴の部分に指を差し込み、見せびらかすように僕らに見せた。

「ってことは、それはつまりエロエロな代物ってことかい」

 荻野くん(萩野くんかもしれない)が顔を赤らめて、わなわなと震えている。どうやら事前に聞かされていなかったらしい。同じく初耳だった僕も無言で抗議の視線をよこすが、問題児はどこ吹く風で、

「おうよ。ま、俺らも高学年になるし、そろそろ大人の秘密も知っておくべきだろ」

「でも、こういうのはよくないって先生が」

「先公がなんだよ。もしかして萩野、ビビッてんのか」

「び、ビビッてはないさ。あと、ぼくは萩野じゃなくて荻野なんだけど……」

 相変わらず紛らわしいな、とボヤキながら荻野くんじゃない方に目をやり、

「ところで萩野、例のブツは持ってきたか」

「一応」

「よし、それじゃあ場所を変えよう」

 公園の中心に、ボーリング球を半分に切って、ところどころに大小の穴を開けたような謎のオブジェがある。

 僕たち四人はその中に入り、円形になって座った。

 秋になったとはいえ、まだまだ夏のしっぽが飛び出ているような時期である。オブジェの中はムッとした空気に包まれていて、男子四人が密集するのには精神衛生上よろしくない環境だった。

「今日は一日中ヒヤヒヤしていたよ。見つかったら没収だしね」

 そう言いながら萩野くんがランドセルから取り出したのは、二つ折りのポータブルDVDプレイヤーだった。一目で安物とわかるプラスチック製のそれは、かなり傷んでいるように見える。

「兄貴の部屋から持ってきたんだ。古いけど、電池も取り換えておいたし、問題なく起動できるよ」

 セッティングを始める萩野くんを一瞥してから、僕は横に座る荻野くんをじっと見つめる。

「な……なんだい、〇〇くん。ぼくのことを凝視して」

「いや、それで荻野くんは何を持ってきたのかなって」

「いや、ぼくは別に何も……」

「は? じゃあ、何しに来たのキミは。そこはお菓子やらジュースやらを出す場面じゃないの? 無いなら、すぐに買ってきてよ」

「何も持ってきてないのはキミも一緒だろう!」

 うむ、これで覚えた。萩野くんは有能で、荻野くんは無能。よっし、ようやくふたりの区別がついたぞ。

「あ、なんかディスクが入っている。多分、兄貴のかな」

 口が開いたプレイヤーの中には、別のソフトが入っていた。

 萩野くんは元から入っていた円盤を慎重に取り出し、ランドセルの上に置いてから、エリィの円盤をセットする。

「そもそもこれ、再生できるのかな。捨てられてから大分経っているんでしょ?」

「さあ、まだ再生していないからわかんねぇや。もしかしたら映らないかも」

「計画性皆無だなおい。せめて再生できるかくらいはチェックしなかったのか」

「う、うるせえよ。家のテレビじゃこんなもん観れないだろう」

 意外とチキンだなコイツ。いや、エリィの両親がおっかなすぎるだけなのか。

「それじゃあ始めるからね」

 と、萩野くんが再生ボタンを押す。

 モノがチープなせいか、光度をマックスにしてもやたらと薄暗く、僕ら四人は身を寄せ合って画面を注視する必要があった。

 しかし、

「始まらないね……」

 ▷マークを連打してみるが、画面は一向に変わらず。

 悪い予感が当たってしまった。

 僕は真横にいるエリィを素早く羽交い締めにした。

「よし、極刑(きょっけい)。今から、そのうざったい襟足の断髪式を行う」

「なんでだよ、おい、離せ離せ!」

「僕の貴重な放課後を潰した罪は重いのだ」

「ハサミならあるよ」

「よくやった荻野くん。茶菓子を持ってこなかった非礼はこれでチャラにしよう。よし、エリィ。辞世(じせい)の句を読め」

「だああぁ! やめろ! 他はどこ切ってもいいから襟足だけはやめろ! 襟足だけはっ!」

 体格差があるのでホールドするのにも難儀する。「どうどう」と暴れ馬をなだめる武士の気持ちがわかるぜ。

 狭苦しい屋内闘技場で死闘を繰り広げていると、

「ねぇ、これって、せっくすって読むんじゃないの」

 萩野くんが、元々プレイヤーの中に入っていたDVDの印刷面を僕らに見せる。過激でよく意味のわからない文章の中に『S』と『E』と『X』の三つのローマ字があった。しかし、悲しい(かな)、三人どころか四人もいるのに文殊(もんじゅ)の知恵は発動せず、低偏差値の頭は英語の読みに今いち確信が持てなかった。

「とりあえず、再生してみる?」

 僕がそう提案すると、三つの頭が上下した。その肯定は知的探求心から来るものではなく、単にこのままお開きになるのは味気ないという消極的な理由からだった。特に、自身の落ち度を追及されたくないエリィはぶんぶんと頭を振っていた。

 プレイヤーにDVDをセットし、蓋を閉じる。続けて電源ボタンを押すと、画面に淡い光が灯った。

 後は、再生ボタンを押すだけになった。

「最後くらいは主催者に華を持たせてやるよ」

 そう言って、エリィの方へプレイヤーを寄せる。

 ゴクリ、と生唾を飲み込む音とともに、彼の喉仏が波打つように隆起する。

「それじゃあ……いくぞ」

 爆破スイッチを押すみたいなテンションでの物言いであったので、なんとも奇妙な緊張感に包まれる。

 そして震える指先が再生ボタンに触れる瞬間、

「ちょっと待ってほしい」

 と、制止の声が上がった。

 発言者は意外なことに萩野くんだった。彼は複雑な表情をしながら、歯切れの悪い口調で続ける。

「もしも……もしもの話なんだけどさ、これがエロエロな代物だったら、ぼくの兄貴もエロエロな人ということになるのかな」

「まあ、なるだろうな」

「ぼくの兄貴は、いつも大人しくてマジメで勉強もできて誰からも尊敬されていて、そんなエロエロな代物を持つような人じゃないんだ」

「ニュース番組のインタビューに出てくる、容疑者についての印象を話すご近所さんみたいな感じになるな。もう最後まで突き進むって決めてるんだ。水を差すんじゃない」

 自分の失態をうやむやにしたいエリィは冷淡にあしらい、ボタンを押そうとすると、萩野くんがひしと腕に抱きつく。

「や、やっぱり無理だ。どうか、ご勘弁を。もし自分の兄貴がエロエロだと知ったら、今後、どんな風に接していけばいいのかわからない」

「うるせえ、引っ付くんじゃねえよ」

 まとわりつく腕を振り払うと、萩野君は「よよよ」としくしく泣き出してしまった。

 さすがのエリィは同情する様子を見せ、彼の肩を優しく叩く。

「安心しろ、萩野。もしお前の兄貴がエロエロな野郎だとしても、少なくともここにいる〇〇よりはマシなのは間違いない」

「こんな人間のクズと比べられたって、なんの慰みにもならないよ」

「おい、言ったな萩野くん、言ってしまったな」

 そこから、さらにひと悶着。

 結局、初めの状態に戻るまでかなりの時間を要した。

 十二回の延長戦まで続いた野球の試合後のように疲弊しきる中、僕は最終的な決断を下した。

「……とりあえず、見るだけ見よう。エロエロじゃない可能性もあるわけだし」

 疲れ切った顔で、皆が同意する。

 そして再度、四人はDVDプレイヤーに向き合うこととなった。

「それじゃあ、今度こそいくぞ」

 隣であぐらをかくエリィが物々しく言った。

 表情が硬いのは、禁止されているルールを破る抵抗感からだろう。

 真の悪党ならば、こういう局面でも躊躇(ためら)わないのだろうけど、僕やエリィみたいな小悪党には荷が重い。十八禁のアイコンを見ると、二の足を踏んでしまう。誰に迷惑をかけているわけではないのに、不安になる。

「一蓮托生だかんな」

 慣れない四字熟語を使って、エリィが再生ボタンを押す。

 よし、これで何かあった時はコイツに全責任を押し付けられるな。いつだって、計画を実行したヤツが一番の責任を負うのだ。ふっはっは。

 何はともあれ、ようやく破廉恥(はれんち)な上映会の幕が上がった。

 ……上がらない方が良かった気がする。

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