第七話
遅くなりました。
すません
ブンッ
自分の腰くらいある右腕が人智を超えたスピードで振り下ろされる。
そのまま受ける気はないので腕に乗って膨れ上がって原型を留めなくなっているの顔に、右足を『ピタリ』と当てて黒い泥を放出させて立ったままの怪物に顔を上に向けさせて、まるで地団太を踏むように左脚で連続で踏みつけて漆黒の怪人は怪物を倒す。
「はぁっ!!」
それでも怪物は立ち上がってきたので、一旦距離を取って闇を闇で塗りこむ様に腕が洪水を起こさせ怪物を捕らえようとする。
だが怪物は呻きながら近くに倒れていたどこの組織かわからない手下を掴んで。
「おおおぉぉぉぉっ!!」
まるで人形でも投げ付ける様に、洪水の流れを氾濫させてそれを防いだ。
「ホントに人を投げるのが好きな怪物ですね。
『人を人に目掛けて投げないような人になりましょう』と、学校で習わなかったのですかね?」
だが、その考えも途中で中断される。
「ちぃ!」
怪物が自分の視線の目の前に飛び込んで来たからだった。
慌ててガードの為に闇を身体に練りこむが、どうやらまともに腹部を殴られたようだ。
それに気付いた時には身体中に衝撃を走らせ宙に浮いた。
闇に包まれているとはいえ、魔力による防衛本能でケガはないだが、痛みを消すように出来ていない。
さらに追撃の為に飛び掛って来るのが辛うじて見えたので、闇で身体を固める事を強めた。
今度は半ズボンを履いてむき出しになったヒザが顔面に文字通り『目に入った』のでスピードが上がった原因が下半身も膨れ上がったことがわかった。
だがおかげで数メートルを吹き飛ばされてしまい、倉庫の壁に背中から衝突してめり込ませて、埃が舞い上がりあたりを霧の世界に変えた。
「ふう…」
静寂の中、おもわずため息が出てしまった。
どうやら元の位置に戻ったらしい。
「おおおぉぉぉぉっ」
こちらを探しているのか、さっきから怪物が咆哮を上げていた。
今度は完全に身体を闇で固めていたので痛みは無いが、ある意味揉みくちゃにされていたので、ホントに怪我のないのか確認していると、頭がクラクラと目眩を起こしていた事に気がついた。
どうも脳の方は揺れているようだったので、しばらく休ませてもらう事にした。
すると倉庫の外側からだろうか、何やら騒がしかった。
「…ボス、しっかりしてくださいっ!!」
その声に耳を傾けながら倉庫から出て見てみると、さっきのボスを抱きかかえて手下が身体を揺さぶっていた。
どうやらホントに吹き飛ばされた連中の中に生き残りがいたようだ。
そんな事にも驚いたのは言うまでもないが、さらに驚いた事にボスも「ううっ」とうめきを声を上げながらまだ生きていた。
「うわ、ああ…。」
騒がしかったせいで怪物に気付かれたのだろう。
ズシンと音を響かせながら、怪物がこちらに向かって来た。
「どこを見ているのですか!?」
怪物の頭上近くにある積荷に目掛け、闇を交差して貼り付けて。
思い切り引っ張って積荷を崩す事で足止めをする。
「ちくしょう、何なんだよ。お前らっ!?」
まったく降りて来て目が合った途端にコレだった。けなげにもボスを守るように前に出てそんな罵声を浴びせる。
当然、戦う気は毛頭ないので何回かボスを指差して『しっ、しっ』と手を振るとようやく敵ではない事を理解してくれた。
「すっ、すまねえっ!!」
そう言って、ボスをおぶってふらつきながらその場から離れていく手下。
「おおお!!」
見送っていると積荷から上半身だけを出して雄叫びが聞こえた。
この程度で倒せるモノではないと思っていたが、中の荷物がよほど足場を複雑にしているのだろう積荷の中で足掻いていた。
こちらとしてもこんなチャンスを逃すワケにはいかないので闇を投げた。
狙いは胸に刺さったままの鉄パイプの穴。
まるで掃除機で吸い込むように闇が穴へと入っていく。
「!!!!」
怪物が足掻きだす。
積荷から脱出を試みる為ではない。
自分の中で膨れ上がっているものから逃げる為だ。
…鉄パイプの中間部分を膨張させたのだ。
「が、があああ!!」
もがく怪物、手にした積荷をこちらに投げてくるが集中をやめない。
「がががが!!」
その時、手が輝きだし頭上に掲げだした。
「東方術!?」
剣の形を形成しだしたので、それが東方術だとわかった。
これ以上長引くとなにが起こるか分かったモンじゃなかったので、勝負を決める為にさらに膨張を強める。
しかし…。
剣を形成していた光が急に膨らみだして。
「くうっ!!!」
爆発を起こし、暗闇の魔法使いは光に飲まれた。