第六話
そうして、さらに数日が過ぎ…
レフィーユはみんなの予想を裏切る事無く口実通りに、この学園の治安部に入った。
そうして噂以上の実力と働きを見せた。
当然、治安も上がると同時に人気も上がるのも、仕方がないわけで…
レフィーユが学園の正門をくぐろうとすると人だかり。
下駄箱を開こうとするとファンレター。
その量が日に日に増え続け、学園の生徒手帳に新しく彼女に対しての校則が書き加えられた頃。
自分は何をしていたかというと、夜の埠頭にて倉庫の壁に腰を掛けていた。
…別にたそがれているワケじゃない。
「高そうな車が4台、取引先の相手はトラック1台…?」
何故、自分がここにいるのか後で話すが、ここで情報収集の為にうろついているとこういう場面に出くわす。
だが、その取引は明らかに『おかしかった』なぜなら相手側の護衛がまったくいないのだ。
「おい、治安部にチクられないよう。
警戒しろ」
ボスらしき人物が部下に命令しだしたのを見て、手下がこちらに向かって来たので、手を空にかざして倉庫の屋根に『闇』を投げて貼り付け、ジャッキの要領で自分の身体を引き寄せて屋根によいしょと上がる。
警護の人に目撃されなくてすんだが、おかげで取引の会話が聞こえなくなって、何を取引をしているのかも目視ができなくなった。
だが、取引の内容より、どうして相手の取引先は護衛がいないのだろうか?
それだけが妙に気になったので首だけを出して取引現場を少し見ていると、車の多い方がさらに部下に対して命令をした。
トランクを出したので、お金の話だったのかと思ったが相手側は何か言っていた。
取り引きに何かしらの不具合が生じたのだろう。
おそらく警護の規模や、取引に出向く人数で足元を見られたのだろう。
自分の直感を裏付けるように周りをさらに取り囲む、部下たちとニヤニヤと勝ちを確信するボス。
…だがそれに対し取引先はあまりにも冷静だった。
相変わらず会話の内容が遠くて聞こえないが、その取引先が縄で縛られた人物をトラックの荷台から連れ出されて来た。
「人質?」
だがボスの方は冷静だったので、違うようだった。
何をするつもりなのかボスはせせら笑うように聞きながら右手を上げると、手下達は武器を作り出したり、その手に火や氷をまといだした。
そして周りの包囲を更に縮めだしたのをみた取引先は、注射器を取り出したらしく、足掻く人質の首筋に注入した。
『があああああああああっ!!!!!!』
途端に悲鳴を上げ、あっという間に倒れこみ取引先から離れていき、ボスの足元で倒れる人質。
一体何がしたかっただろう、ボスもそう思ったのか足蹴にしながら聞いている。
その時、灯台のサーチライトがやってきたので、影が映るのを警戒して身を潜めた。
『ぎゃあああああああああ!!』
その時、さっきとは別の悲鳴が聞こえた。
思わずサーチライトの事を忘れ、首を出して見ると、さっきの人質が身体を膨らませ、ボスの片足を明後日の方向になるくらい握り潰して、左手で身体を持ち上げていた。
「うわああああっ!!!」
激痛も手伝っているのか、ここまで悲鳴が聞こえてくるその声に、我を取り戻したのか手下の一人が手にした刀で切りつけるために、背中に向かって飛び掛った。
『がああああ』
手にした『ボス』を、地面にめり込むくらいの勢いで振り下ろして叩き落とした。
『ごあああああああああっ!!』
もう自覚がないのだろうか人質だったモノが雄たけびを上げる事によって、上半身だけが更に膨れ上がり着ていたすでにピチピチだった服が破けだした。
さらに右腕はもう膨れ上がり過ぎて、柱のようになっていた様を見て。
やらなければやられる…
その周囲にいた人物の誰もがそう思ったのだろう、一斉に怪物に飛び掛ったが、声にならない雄たけびを上げる怪物は右腕だけでなぎ払い、数人を吹き飛ばし壁に叩き付けられる。
「ひるむな!!」
一人の男が勇ましく氷解を連続でぶつけるが、それを物ともしない怪物は歩み寄って、頭を撫でるように…。
『握りつぶした』
残った数人は最後の賭けにでたのか、突撃を掛けると左手でめり込んだままのボスを引っ張り上げて、まるでゴールキックのように顔面に脚を当てて身体ごとボスを蹴飛ばし、残りの数人にぶつけてまとめて倒した。
「おい、みんなしっかりしろ」
ボスの下敷きになって足掻いている手下達。
「うっ、うわ、来るな…。
来るなぁ!!」
それにゆっくり歩いて怪物に気付いて更に足掻きを強くするが…
「ぎゃーーーー!!」
数人の悲鳴がここまで聞いて
『がああああああああ!!!!』
咆哮をあげる怪物。
いつの間にか取引相手はその場から逃げたようだった。
「うわああああっ!!」
さらに別の悲鳴が上がったので見てみると、今度は警備員がその怪物を腰を抜かして発見した。
騒がしかったので、どうも様子を見に来たらしい。
更におたけびを上げ、怪物がドスドスとその警備員に向かってきた。
そして、逃げるつもりなのだろうが腰が抜けて思うように動けないのだろう。
後ずさりしか出来ないようだったので、
「よい…しょっと!!」
屋上にあった鉄パイプを『闇』で掴み、飛び降りながら射出して胸を貫かせたが、まるで小石にでも当たったかの様な態度で構わず刺さったまま前進をやめない。
さっきから、この怪物は痛みを感じる事はないのだろう。
そんな事を理解しながら、警備員の身体に闇をまとわり付かせて、遠くに投げ飛ばした。
『おおおおおっ!!』
まるでおもちゃを取り上げられて、怒る子供のように走って向かう怪物を見て思った。
「今日は、忙しくなりそうですね…」