第四十九話
長いよ。
とりあえず、ここまで書いておくよ。
おかげで、感想を返信する時間がなくなりました。
すんません。
不思議と長い時間だった。
人間心臓を貫かれたら。誰でも死ぬ。誰でも知っている事だ。
だが薬の影響だろう、もう身体は動かせないハズの身体は痺れただけだった。
だけど意識はあるので、その目で、つい自分の『所業』を見てしまった。
まあ、深々と刺さっているモノだね…。
おかげで、刺さっているトコロからの痛みが襲い掛かり、自分の『所業』を思い出す羽目になった。
施設で育った事、兄妹で仲良く団欒していた事、コロウという『兄』を恨む切っ掛けになった事…。
数々の走馬灯、その中に…。
「ショアン兄さん…。」
あの時の自分の『過ち』を犯した灯火があった。
…最初は確かにコロウを殺害するつもりだった。
競争意識の塊、負けた者に対しての嫌味、自身の奢り高ぶり…。
考えれば考えるほど、きりが無い。
だがそれくらい、その男の事が嫌いだったから、きりが無いのだろう。
その心境を表すようにどんな手段を使ってでも、殺すつもりで今まで生きてきたのだから。
その為の自身の性格の偽り、計画の知られぬよう、外見だけの無能な秘書を雇い入れ、表ではお下がりの地位でぶら下がっていると見せかけ、自身の身体能力強化の薬品を開発するための研究員も雇った。
復讐心の塊…考えて見れば、自分も醜い。
その醜さが、あの事件を呼んでしまった。
慎重に慎重を重ねるのと、同時に研究を続けること、数年間。
苦労がようやく実った。
その薬品は試作段階に入り、実験代わりにこう考えた。
―試作品の実験をするのなら、華中会に恨みを持っている組織がいると思わせるのが狙いでショアン兄さんに襲わせよう。
今思っても醜い…。
試作品という言葉が安心感を生んだのだろう。
それで慎重に事を進める事が出来なくなっていたのもある。
そして自分の研究員を使い、痛めつける事を目的に放った『試作』の怪物は…
最悪な結末を迎えた。
その報告を聞いた後、動揺してしまったのはいうまでもない。
計画通りに『コロウ殺害計画』を強引に進めようとしたのも口走ったのかもしれない、もしもの為に一旦、自分の下を離れた方が良いと言って、多額の金を持たせ、研究員には自身の護衛の為に人一人誘拐した方が良いと言ったくらいしか覚えていない。
そんな不安定な精神状態の中、漆黒の魔道士が出てくるという事態を迎え、どうする事も出来なくなり、とうとう先代に話す事にするが、そこで自分は『初めて』、先代とショアン兄さんの計画を知った。
いや、知ってしまった…。
「ぐおっ!!」
力一杯、鎌を引き抜き、出血が止まらない事とこれで助からない事を確認して倒れこむと、自分の血の臭いに力なく咳き込み。
あの時の自分が乗ったシナリオが頭をよぎる。
全てを話した後、自分は確かに死のうと覚悟していた。
だが、それは先代に止められ、次に先代の口から出た言葉は、自分の覚悟を通り越したシナリオだった。
『死ぬ覚悟だけはあるようじゃな。
じゃったら、その命、ワシの計画の為に使ってみんか?』
いつか感じた。厳しい眼光の中に威圧されながら、それを最初に聞いたときには、心のどこかで許してほしいという考えがあったのだろう。
頷いてしまった。
『その薬は完成しておるのか?』
研究資料は全て、焼却したのと同時に証拠として一本の注射器を大切に手渡すと『よろしい』といって、目つきを鋭くしてとんでもない事を言ったの鮮明に覚えている。
『でわ、お主はこれから従来の計画通り…コロウを殺してくれんかのう?』
理由はこうだ。
もうボスであったショアン兄さんがいないとなると、コロウが実質、力を持つ事になる。
その時、コロウがメイを邪魔に思うようになるとどうなるか?
メイはコロウを退ける事が出来るだろうか?
出来ないだろう。
だから、自分がメイを助けるためにコロウを殺せというのだ。
しかし、そんな過程を考える以前に一つ問題があった。
自分がコロウに襲い掛かるのは良いだろう。
コロウがいる場所にメイがいて、メイがそれを助けてしまうという可能性だった。
それを口にすると、先代は笑いながらこう言った。
『それがワシの狙いじゃ、お主はお主の悪意のまま動けばよい。』
どういう意味がわからなかった…。
おそらくその心境が表情に出ていたのだろう。
先代にもそれがわかり、整理するようにこう言った。
『遅かれ、早かれ、コロウはお主やメイを邪魔に思うじゃろう…。
そして事が起こってしまった以上、儀式を再開する名目でお主達を始末するじゃろうな。
あの男には、兄弟という絆がいまいち理解できていないようじゃ。
ヤツには、それが出来る。
それを止めるのは当然、ワシの役目なのじゃろうが、ワシも、もう若くないというのはわかるじゃろう?』
意地悪く『はい』なんて、答える事の出来ない質問をしてるのを理解しているのか、ほくそえみながらこう言った。
『ところがお主に頼みたいが、今のお主の実力では、コロウにかなわぬ。
今は…のう。
どうすれば対等に渡り合えるか、解るじゃろう?』
『自我を失わない身体能力強化および魔力を飛躍的に上げる薬剤』を作っていた自分にとっては、簡単な答えだった。
―ショアン兄さんを殺した、自分が今度はコロウの番と襲い掛かる。
コロウと自分が戦っているトコロにメイが現れ、自分を助ける時に力を発揮すれば周囲がメイの実力を認める事になる。
そうすれば、メイの地位は自然に不動のモノと言うのが先代の計画だった。
『そうじゃ、じゃがそれにはまだ問題があるのじゃ。』
心なしか哀しい表情だった…。
『メイは勘の良い娘じゃて…。
それゆえワシが動かぬ事で、仕組まれた事におそらく気付くじゃろう。
そこで、お主に頼みがある。』
それが何故だか、わかったのは…瞬く間。
『そのために邪魔な、ワシを殺せ…。
そしてお主は、その薬品の性能を確かめるために、ワシを殺したと言えばメイに気付かれぬじゃろう。』
理解の出来ない、そんな言動に戸惑う事…数秒間。
『お主は、死ぬ覚悟でここに来たのじゃろう。
その命をワシの計画の為に使うと言ったのは、嘘じゃったのかのう?』
頷いて、自分の腕に注射をして深呼吸するまで…数分間。
自分は覚悟を決めたのを見て、初めて先代も覚悟を決めていたのか、こう呟いた。
『餞別代りに、特別にワシの死に様を良く見ておくのじゃぞ…。
これはお主への戒めじゃ。』
昔から言われていた言葉だが、自分の攻撃は大振りすぎるらしい。
『!!』
…それが先代の覚悟を知る事なった。
防御本能による抵抗を感じさせず喉を斬り裂けた。
その覚悟の大きさに自分の復讐心がどれだけ小さなモノだったのか思い知った。
だから、先代の考えに賛同する事にしたんだ。
まったく、どっちが悪役なんだろうね。
だが、先代には一つ間違いがある。
それは、メイは誰も殺せない様に…。
自分はメイを殺す事が出来ない事だ…。
当然、コロウ兄さんも…。
だから、最後のひと時はみんなの『これから』の為に使う事にした。