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第四十八話

 

 「…意外に変なトコに目が行くものなんだね。

 それは、ただ老いぼれていただけさ?

 簡単に切り裂けたモンだよ…ごほっ!!」


 笑おうとしたが、いきなり膝をついて苦しみ出した。

 薬の影響なのだろう。


 『ゲホッ』と数回咳き込んで、顔を上げて、また笑みを浮かべながらこちらを見て否定した。

 

 「僕はただ…。」


 大きく息を吸い込み深呼吸すると心なしか爽やかに呟く。


 「コロウ兄さんを殺したいくらい、憎かっただけ。

 そして、このお話は今日ここでようやく終わるんだよ。


 まあ、そのメイはもう立ち上がる気配もない。だから、僕はこれから本懐を遂げるとするよ。」


 そういって歩みよる先にコロウがいた。

 本懐を遂げようとするのだろう。


 「コロウ様、お下がりくださいっ!!」


 アシェンがコロウを守るように前に出てくるが、キジュツは立ちふさがる前には、もうアシェンの目の前に立っていた。


 無傷なら避けられただろう、だが、痛みが動きを制限してキジュツの攻撃を受けて、転がり倒れた。


 「あのさあ、こんな兄でも守ろうとする、キミの姿勢は大事だろうけどさ。

 もっと自分を大事にしたほうがいいよ?

 どうするレフィーユさん、これで手助けをする気になったかい?」


 まだ倒れて気絶していたコロウを見ながら、いつもならそこで笑うのだろう。


 だが…。


 「残念だが、それは私の役目ではないようだ。」


 「どうしてだい?」


 「兄上、動かないでください。」


 レフィーユの指摘を遮るように、メイが言う。


 「これは…。」


 キジュツの足元には、2平方メートルを何かが波打っていた。


 「これで、終わりです。

 兄上、もうやめてくだされ…。」


 「やっぱり、メイ、君は今まで本気を出していなかったんだね?」


 キジュツは戦っている本人だからわかったのだろうか、そのままの体勢でおどけながら聞いていた。


 「今まで本気を出さず戦っていた、なんて失礼じゃな…」


 「出来れば使いとう、ございませんでしたっ!!」


 俯いたまま、メイの表情は伺えなかったが、ただ声だけで、どんな気持ちで、この攻撃をしようとしているのか何となくわかった。


 メイの次の技は決定的な殺傷能力がある。


 「これで終わり…か、で、どうするつもり何なのかな?」


 対照的に極めて明るく聞く兄に対して、妹は、ただ黙ったまま、右手を大きく、キジュツに向かって広げていた。


 「黙ってちゃわからないよ。

 何も無かったら、もういいかな?」


 『ヒャヒャヒャ』と笑う、キジュツは後ろを向いたままだが、メイは首を振っていたのがわかったのか、呆れた様に言う。


 「メイ、わかっているだろう。

 僕はコロウ兄さんを殺すために動く。それで、君の役目は?」


 「兄上を止める事です…。」


 「そうだね。メイ!!

 ヒャヒャハッ、大正解だよっ!!」


 大きく踏み込んで、前に飛ぶ。

 狙いは言うまでも無くコロウに向かって。


 その時、メイは『兄上』と叫んだだろう…。


 そして、右手を思い切り握り絞めた。


 「ぐがあっ!!」


 突如、苦しみ出し空中に浮かぶキジュツ、その苦しみから逃れるように足掻くが宙に浮いたキジュツの周囲を何重に折り重なっていたのだろうか、空気の膜が襲い掛かる。


 一撃、一撃と波紋が閉じるごとに、苦しみが増すのだろう。口から血が溢れていた。


 空気だけがその場で吸い寄せられて幕を形成させていくのをみて、前にメイの膨大な魔力量によって空気の減圧で気絶させられた。

 

 あの技ではない事がわかった。


 今度はその逆、加圧させて絶命させる。


 七年前、メイが当時の自分の秘書に使い、自分のいた部屋を『圧縮』させた技だろう。


 「ぐうううっ!!

 まだまだあ、これじゃあ、僕を止めたことにならない…よぉ!!」


 足掻きに足掻いてようやく足に地面がついて、まだ、キジュツは笑いと苦しみを混ぜながらメイに向き直った。


 「も、もう、やめてくだされ…!!」


 が彼女はただそう叫んだまま俯き。


 泣いていた。


 風の収束する音と、嗚咽が聞こえる中、キジュツの笑い声は聞こえなかった。


 「メイ、言ったよね。

 僕はコロウ兄さんを殺すために今までの計画をしたって…。」


 泣きじゃくりながら頷くメイを苦しみに耐えながら見たキジュツはそのまま続けた。


 「メイがこの技を解いたら、僕がどうするかっ、わかっているよねえ。

 それでもいいの…かなぁっ!?」


 答える代わりに圧力が加わったのだろう。


 さらに膝を付いて苦しみ出すキジュツ、しかし、メイは『殺せない』のだろう。

 

 「だったら、やる事は一つだろう!??」


 首を振る。


 「それしかないだろう!?」


 首を振る。


 「全ての元凶は、僕なんだよ!?」


 首を振る。


 「僕は君の大切な二人人間を奪ったヤツなんだよ!?」


 「それでも、兄上は、兄上は大切な家族じゃ!!」


 泣き顔のまま、そう叫んだ。

 その頃には、自分とレフィーユかどっちかわからないくらい駆け寄る。


 だけど、キジュツはそのままの体勢で、笑ってこう答えた。


 「あはは、メイ、ホント君は優しい子だね。」


 そう言った途端、握られたままだった鎌を振りかざす。


 狙いは…。



 「兄上ぇ!!」


 キジュツ自身の胸に…思い切り。


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