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第四十五話

 いつもなら、この瞬間の勝利に酔いしれているのだが、アイツはこの感覚を味わう事はないのだろうな…。

 

 今度こそ、勝負が着いたのかと傷ついた身体で大きく息を吸いながら、倒れゆくアシェンを見送っていると、そんな事を考えていた。


 斬り伏せたとはいえ、斬り傷はない。おそらくアシェンも、とっさに防御本能で防いだのだろう。


 しかし、これだけはレフィーユの今までの経験上理解出来ていた。


 揺らぐ事のない勝利だと…。


 だが胸を押さえながら倒れているアシェンに対し、レフィーユの顔は、少なくとも『勝利者』の顔ではない。


 「怪人、狂人、生きてて良い道理のない男、か…。」


 アシェンの口にした三つの言葉を噛み締めるように呟いて、彼女は天井を見つめ目を瞑りながら深呼吸をした。


 そして、最後にどうしても小声になってしまう出来事が、彼女の胸を締め付ける。


 おそらくこの三つの単語は『漆黒の魔道士』を世間が証した言葉だろう。



 だが彼女にとってのそれは『キズ』だった。


 忘れてはならぬ目に見えない、大きなキズ。


 ―それは何の変哲も無い事件。


 当時の彼女は日々の積み重ねて来た成果を胸に自信にあふれていた。


 いつも通りのマスコミの対応、文字通りの豪語…。


 その時だろうか…。


 第一印象で彼を怪人と証したのは…狂人と指したのは、生きていてはならない犯罪の象徴のような男と言ってしまったのは…。


 ただ言えるのは、彼女の口から生まれた言葉だという事…。


 次に思い浮かべたのは、ほんの小さな油断に、間違えた人物に敵意を向けていた自分の事だ。


 それで起きた典型的なミス、押される爆破スイッチ、そして忘れもしない。


 彼から告げられた真実を口にする彼の目の中にある『怒り』。


 『…レフィーユさん、貴女は謝る必要なありません。

 ですから、早く漆黒の魔道士を逮捕して、私、いえ、私の家庭の問題じゃありませんね。

 私たちの無念を晴らしてください。』


 次は自分のせいで子供を失ったので陳謝に行った彼女を迎えたのは、目眩のする出来事の連続。


 ワケも解らず、理由を聞くと警察関係の人間がそう言っていたらしく、移動に使っていた車にあったテレビ特番もこう特集していた。


 『狂人 漆黒の魔道士、今度は子供達の悲鳴を求める』


 理解が出来るわけのない、字幕に頭が狂いそうだった。


 『私の判断ミスで、犯人の爆破スイッチを押すのを許してしまい、子供たちを犠牲にしてしまった。』


 確かに警察関係や自分の親にも、そう報告したのだ。


 なのに何故と頭の混乱を抑えながら、『信頼できる』警察幹部にどういう事か聞く。


 「この報告は、自治体や警察関係機関にも大きなダメージがあるだろう。

 キミのアルマフィーという家名を汚すワケにはいかないだろうから、大きく脚色させてもらったよ。」


 そこで聞かされたのは、いかに自分が『道化』に過ぎない存在であるのかという、丁寧な『説明』だった。


 怒っていたと思う…。


 あの後どう帰ったのか、あまり覚えていない。


 そんな心境の中で、日常が送れるワケも無く、彼女は学校を休む日々が続いた。

 その際に励ましてくれる友達もファンもいただろう。

 だが、最悪な事にそれが疑心暗鬼を引き起こし、どんどん荒んでいった。


 『もしかして、アイツがもともと仕組んだ事なのでは?』


 その時に沸き起こって自分を癒したのは、物事を自分の良い方に持って行こうとする。


 最悪な考え…。


 そんな考えの中で携帯に連絡が入る。


 次の光景は『期待通りの展開』を願っていた自分の哀れな姿…。


 私は半ば胸を躍らせながら、その展開に身を委ねた。


 だが、現実は今の現状を受け入れる事の出来ない女がそこにいただけだった…


 …襲い掛かる真実を怒りで誤魔化し、振りかざしたサーベルは、どれくらい惨めに見えたのか。


 「…!!」


 何を叫んだのかわからない、だけど、叫ばずにいられなかった。


 怒りに任せた剣舞は、命を奪えるワケも無く、簡単に漆黒の魔道士にあしらわれ無様に倒れた。


 「……。」


 彼は傷つけるために言ったのではないだろう。

 次に口を開いた言葉は今まで受けた事の無い、攻撃であり、一番の屈辱だった。


 しかし、怒りなど無く、自信も無く、自惚れなど何処にも無い。


 だが、そこには『唯一』の人物として、やらねばならない誰よりも気高い『志』があった。


 「…っ!!」


 筆舌し難い感情がレフィーユを襲い、逃げる様にサーベルで彼を一突きにする。


 とんでもないスピードだったのだろう。

 彼は首を動かす事しか反応出来なかったらしく、フードで覆われていた素顔をさらけ出した。


 …だがその一撃は、もう誰が敗者か決定的にしてしまったのだろう。


 彼女の顔には生気などなかった。

 ただ、蹲っていた…。


 ―そして、この物語は一部の終わりを迎える。


 彼女は、その人物の顔の記憶だけを頼りに調べに調べ上げ、ようやくこの学園を見つけ出し転校手続きをした。


 償い切れないかもしれない、償いの為に…。


 そんな昔の事を思い出し、レフィーユはアシェンを抱え上げた。


 おそらく今も『戦って』いるであろう。


 あの男の下に…。

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