第四十二話
電気系統が壊れビル一軒が停電したその一角で、刃同士のぶつかりあいが暗闇の中の二人の女性を照らした。
その閃光はまるでそれが切れた電線の様に火花を散らす。
『はあぁぁぁ!!』
青龍刀を手にした女の気迫がその周囲を緊張させて、サーベルを手にした女に切りかかる。
一際、大きく閃光が走ると同時に非常電源に切り替わったのだろう。
『ブォン』と低い音が鳴り、ほんのりと周囲を照らした。
「噂通り、コロウにはもったいないくらいの中々の腕だな。
だがアシェンと言ったな、相手が間違っているのではないのか?」
レフィーユが自分の手の平を見つめ明るさを確認しながら聞くと、コロウの秘書、アシェンは青龍刀を構えなおしながら言い返した。
「私はただ不法侵入者に対して、相応な対応をしているだけだっ。」
言い終わると同時に、上段から切りつける。
だが、レフィーユはそれをサーベルで綺麗に受け流して、すかさず打ち返した。
だが…。
「…驚いたな。
普通の相手なら、これで決まるのだが…。」
感心する先には、自分の必勝パターンをギリギリで避けて距離を取ったアシェンがそこにいた。
「ふん、褒め言葉として受け取っておこう。
だが、コロウ様には一歩も近付けさせんっ!!」
「だから何度言ったらわかる。
コロウごときに、興味はないと言っているだろう?」
「貴様、二度もそんな事をっ、ふざけるのもいい加減にしろ!!
だったら、お前は誰に会いに来たのだっ!?」
「私はただメイに会わせて欲しいだけ言ったのだが?」
「嘘をつくなっ、だったら何故お前は一人で潜入してきたのだ?
この機に乗じて、コロウ様を暗殺するつもりなのだろう。高官の犬めっ!!」
合計、三合ほど刃を交えて、レフィーユを怒らせるつもりでそう言ったのだろう。
彼女は一瞬、ピクリと反応しただけで、レフィーユは言い返した。
「勝手にそう思っていればいい。
だがな、アシェン、お前は思い違いをしている。
今のお前にとって、いや、私達にとって敵はキジュツだ。
私など相手をしている間に取り返しのつかない事になるのがわからんのか?」
「ふん、またそれか…。
キジュツ様が、コロウ様を殺す事ほど腕前などあるはずが…ないっ!!」
だが最初から武器を手にして敵意をむき出しに向かって来る相手に対して、話し合いで片をつけるのは、少し分が悪かった。
レフィーユのサーベルはいとも簡単に弾かれ、顔の前で青龍刀を突きつけられた。
「…どうしてそう言い切れる?」
「それは長い間、仕えて来た秘書として、主の事を一番良く知っているからだ。
そんな事より、危惧するのは漆黒の魔道士だ。
この騒ぎもあの狂人のせいなのだろう?」
「あれが…?」
刃物を突きつけられてにも関わらず、つい笑みを浮かべてしまったので失礼の無いように謝りながら答えた。
「言っておくが、アイツにこんな事は出来ないのだぞ?」
「ふん、流石だな。
それで証明してやるから、刀を納めろというのか?」
皮肉たっぷりに勝利を確信したから言えるのだろう。
だが…。
「別にそんな事しなくても、この通り…。」
暗闇の中で歩みよる人影にアシェンは一瞬、新手かと思い、刀を突きつけたまま、その人物に目を向けると、それは…レフィーユだった。
「なっ!?」
驚いて振り返ると突きつけたそれは、まるで壊れかけのテレビ映像のように崩れて消えた。
「欲にいう、ミラーというヤツだ。」
そう言って、澄ました表情でサーベルを再度作り直す彼女に苛立ちを覚えたのだろう。
「……。」
睨み付けたまま黙っていた。
「そんな目をするな、私とて手荒なマネはしたくないから、さっきから話し合いで決着をつけようしてたのだが…。
それは無理なのだろう?」
「何を言いたい…。」
「手っ取り早く言えば、これから私は本気で、お前の相手をしてやる言う事だ。」
そう言われた瞬間、怒りというより、嘲笑という感情がアシェンの中で生まれたのだろう。
彼女の今までの経験上、さっきの打ち合いは、いくら相手が、あのレフィーユとはいえ、あの反応は本気を出さなければ出来ないレベルだった。
「面白い、やってみろ…っ!!」
言い終わると同時にレフィーユが横に居合い抜いて来たので、アシェンは後ろに跳び下がり避ける。
文字通りの『本気を出す』に相応しいスピードだった。
アシェンは緊張し直して追撃を警戒するが、追撃に跳んできたのは半分に切れたドア、あの居合いでドアごと両断したのだ。
おそらくレフィーユは後ろで更なる攻撃を加えるつもりなのだろう。
ドアを半分切ったせいで彼女の走りこんでくる姿を隠し切れなくなっていた。
「はっ!!」
避けずにドアを縦に両断、走り込んでくるレフィーユを、今の体勢を利用して一突きにしようとするが…。
「っ!!?」
あまりにも飛び込み過ぎだと思ったので、それをやめて、突然感じた気配に天井を見上げて、向かってくるソレに構わず打ち落とそうとする。
だが…。
両方とも残像。
「さすがだな…。」
ぞくり、と、横をみるとサーベルを振りかぶったレフィーユがそこにいたので慌てて、青龍刀で斬り付けると『手ごたえ』があり、彼女が『仰け反った』のが見えた。
「もらったっ!!」
勝利を確信して飛び掛る。
だが…。
今までと違うのは、その残像は『質量』のもった残像…。
「あまいな…。」
着地の同時にアシェンの視線外からレフィーユが着地で降ろされたままの、青龍刀を叩きおった。
「ふっ…。」
この瞬間、アシェンは何もしなかったワケではない。
後ろに飛んで距離を数メートル下がるが、それを読んでいたレフィーユが体勢が直す前にサーベルを突きつけたのだ。
文字通り形勢逆転。
だが…。
さきに膝をついたのは、レフィーユだった。