第四十一話
連休というワケで少し多めに書きました。
「くぅ…。」
自分達の落ちて来た後に続くように瓦礫が落ちてきたので、しばらく伏せてようやく立ち上がると、上の階で風を渦巻く音と何かが崩れるような大きな音がした。
聞いた事のある音だ。
メイが自身の竜巻でまた壁をぶち抜いたのだろう。
上の階も気になるだが、それより気になるのは、一緒に落ちたコロウの事だった。
あの部屋より薄暗く、一際広い部屋に出来ている瓦礫の上を見回すとコロウが意外と近くにいた。
「大丈夫ですか…?」
心配する気など毛頭ない。
だが、それを言えるくらいピクリとも動かず、ただ倒れた姿勢を利用して上を見ながら何かを思い出すように呟いた。
「…私が初めて、盗聴器というのを仕掛けた日の事だ。
あの部屋に初めて盗聴器を仕掛けて、機能をチェックした…その時だ。
『…それで良いのか、楽な話ではないぞ?』
私は知りたがる癖があってな。
その時、耳を傾けたのが…
『人生に「楽」なんて無いだろう。
それでみんな、いや、組織が丸く収まるんなら、俺は喜んでボスになるさ…。』
災いした。
理解出来なかった。
どうして、何故、何があってあんな言動も、態度も雑な兄がボスになるのだろう。儀式はどうするのだろう。
始めは何の冗談かと、半信半疑で聞くが徐々に談笑になっていってな…。
『しかし儀式を行なわずボスになる…か、今までに無い事じゃから困ったのう。
これからどうすれば良いか、わからんのう。』
そして、冗談ではなくなっていくのを自覚しながら…。
『笑い事かよ、俺もわかんねえよ。
まあ、今回、儀式をやる事は正しい事じゃねえって事で、いいんじゃねえの?』
その場から動けなくなっていたよ。
『ほほっ、想い人を手に掛けなくて安心したかのう?』
立ちすくむって、ああいう時の事を言うのだろうな…。
『やっぱ、知ってたのか…。
俺はメイの事は、他の二人に任せるつもりだった。
だけど、メイは誰も殺せない。
だけど、一番強いのは…。』
『ふむ…ワシを恨むかね?』
『恨んでない何て言ったら、嘘だな。
だけど拾ってくれた事は、俺も、メイも、みんな感謝していると思う。
この事もみんな理解してくれると思う。
だからその時まで、俺はメイのためなら喜んでボスをやれるんだ。』
あの時、何故笑い会えるのか、二人はただ伝統を守らないだけ腑抜けじゃないかと思っていた。
当然だ。
あそこにいる二人は、最も組織の事を考えている私のはなく、他でもないメイのために、組織を騙すというのだからな。」
『くっ、くっ』を笑っていると、何故か安堵したようにこう言った。
「だが、コレで全てが間違いであると証明される。」
メイの巻き起こす風の影響で窓ガラスがビリビリと震え、一斉にガラスが割れて少し涼しくなった。
この風通しが今の倒れているコロウの心境だろうか…。
「どちらかが倒れ、私は弱ったヤツを倒す…。
これで『儀式』は終わりだ。
どうだ、今度こそ聞くが私の部下にならないか?」
こんな非常時に自分を勧誘するこの男が、とても醜く見えた。
「一番弱い貴方の下にですか?」
「何とでも言え、この世でいくら魔力が高かろうが、体術に優れていようがな。結局生き残ったモノが勝ちなんだ。
あの時のキジュツにしてもメイにしてもそうだ。
一番弱いのが私なら、先に倒しておけば良かったのだ。
この甘さが今の状態だ。
これが後に命とりになるというのが解らないのだろうな。」
確かにマフィアという組織としての考え方の言い分としてコロウの言った事は正しいのだろう。
だが、ふと思った。
メイはこんな兄を守ろうとしたのだろうか…?
答えは簡単だ。
こんな兄でも守るべき兄弟だから、守ろうとしたのだ。
だが、このコロウという男は、そんな事もわからないのだろう。
キジュツの言った通りだ。
とても哀れ、いや…。
「もしかして今の二人、特にキジュツさんがそんなに怖いのですか?」
これが答えだ。
「何をバカな…。」
「否定できます?」
メイによって生み出された暴風と外野の音が良く聞こえるくらいの静寂がこの一室を襲った。
図星だったのだろう。
「さっき、この状況を、貴方は『儀式』と例えた言っていたけど、あの儀式って、戦いに加わってこそ意味があるでしょう?
儀式と例えるのなら、どうして貴方は、加わろうとしないのですか?」
「…コレは戦術だ。
儀式が何であるか詳しくは知らないだろう?
そんなお前に何がわかる?」
「そんな事知りませんよ。
ですけど、何故こんなハイエナような戦法をとるのかは、何となくわかりますよ?」
この皮肉に対してコロウは言い返してこなかったので、明らかに動揺を見せた。
そこで何となく自分なりに感じ取れた事だけを言う事にした。
「おそらく、あの二人が戦うとメイが勝つと思ったからでしょう?
ですけど、それは大きな間違いですよ。
メイさんは、負けると思いますよ。」
「何故だ。メイは一番強いのだろう?」
「何故貴方は、メイが相手だと大丈夫だと思っているのですか。
それは貴方が『メイは、誰も殺せない。』と言うのを知っているからでしょう?」
そして、そんなメイをこの兄は殺そうとしている…。
「大変ですね。
メイの次は貴方ですよ?」
「言い掛かりだっ、誰があんなヤツを怖がるかっ!?
私はただ儀式の正当性をもって…。」
「貴方はただ『儀式』という言葉を盾にしているだけでしょう?」
このままでは、こんな兄を助けるために命を張っているメイがあまりにも不憫だ。
「貴様、これ以上の私の愚弄は許さんぞ。」
なおもコロウは自分の東方術の『槍』を取り出して『許さない』睨みつけるが、凄みなど微塵も感じなかった。
「貴方は人を見下し過ぎなんですよ。
そのくせ、いざ見下されるとそれを許せない。」
槍の握られた手を微かに震えていた。
恐怖ではない、怒りでもない…。
おそらく、コロウは自分より年上で頭も良い方だろう。
だが、今の前に立って身構えている、この男はとても子供に見えたので…。
「黙れっ!!」
飛び掛ってきた悪ガキの相手をしてやる事にした。