第三十七話
「やはり、ここでしたか…。」
今はもう使用される事のない銃器のある部屋、ここがオキナの最後の時を迎えた場所だった。
そして自分が探していた少女は、最愛であろう人物が座っていた椅子を電気も付けず、ただ見つめていたがこちらに気付いて聞いてきた。
「何やら外が騒がしいと思ったら、お主か、どうしてここに来たのじゃ?」
「どうしてと言われましても、私はただ華中会の事を調べに来ただけですよ?」
よほどひねりのない言い訳だっただろう。返答に少女はつまらなさそうに即答した。
「嘘じゃの。」
「はい、嘘です。」
被せ気味に即答し返すと、緊張が解れたのか呆れた様に答えた。
「素直じゃのう。」
「まあ、関わった者の責任ってヤツですかね。
参加者だから、最後まで『見届けに来た』と言っておきますよ。」
「という事は、お主…。
やはりワシが全部知っておったという事を知っておった様のじゃのう。」
おそらく彼女も自分が気付いていた事に気付いていたらしい、悪ぶる感じも無くそっけなく聞いてきた。
「いつからじゃ?」
「おかしいなと思ったのは、まあ、2回目あたりですかね。」
「2回目?」
「怪物と戦った時の事ですよ。
確かにあの時、怪物を作った人たちは亡くなってしまいましたが、もしあの時、私とレフィーユさんが来なかったら、と想定したら。
狙いはコロウさんですよね?
メイさんはどの辺で気付いていたのですか?」
「ワシも、2回目じゃのう?」
「2回目?」
「これ、ワシと同じ返答をするでない。
ワシの場合は、お主が2回目に来た時の事じゃ。
そのモノは気になる事を言っておったからかのう…。」
彼女は今どんな心境なのかわからないが、変わりに自分でも心当たりのある事を言ってあげる事にした。
「『経過報告』と言ったのに『結果報告』と答えた、兄上の態度…ですか?」
メイはため息を付きそっけのない態度をとっていたが、窓が閉まっているはずなのに風が強く吹いた。
気持ちの整理がついていないのだろうか、一つだけ気がかりだったので聞いてみた。
「…出来るのですか?」
その一言でメイは椅子をきゅっと握りしめた。
今知っている事は、最愛を失ったこの彼女が何をしようとしているのかだけ、それも慕っていた兄弟に向かって。
間違いを正す事は悪い事ではない。例えそれが目上の人間であっても…。
だが、その時に必要モノは一つ、それは自分の意思の強さだ。
メイは確かに兄たちを慕っていた。
それは『慕っていた』と言うより、『抑え込まれていた』というのが正確な見解だろう。
儀式を行なう事のなくなったあの日、一番安心したのはおそらくメイだが、その事で何かのバランスが明らかに崩れた。
その後もメイは今まで自分の意思が必要とされていた会話、育む機会が何回かあったかもしれない。
しかし今までそれは彼女の中で抑え込まれて来ていたのだ。
当然だ。
バランスを示す『儀式』というモノが無くなったのは自分のせいだと思い込んでいたのだから。
「無様…というモノを晒すかも知れぬのう。」
『どんなに逃げても、その時はやってくる…。』
それはある歌詞の一説のようだが、正に彼女の今の心境に当てはまるモノだろう。
『今まで抑え込んで来たものを吐き出す。』
彼女はどれくらい吐き出すのだろうか?
自分の意思、言葉、感情…数え切れない。
そして、ここにいる自分は何が出来るというのだろう。
「…笑いませんよ」
ただこれだけしか言えなかった。
「おぬしは、優しいのう」
メイはニコリと笑い、ただそれだけ言った。
そして闇に覆われて世間に忌み嫌われいる。
この手を両手で握りながらしっかり目を見て言った。
「こういうのは兄やお爺様以外に言うのは初めてなのじゃが。」
そう言って、心なしか緊張しながら何かを言おうとするが…。
「ふん、騒ぎを起こして、こんなトコロに隠れていたとはな。」
そういえば、この部屋は盗聴器が仕掛けられていたのを思い出す。
眼鏡を掛けなおしながら、コロウ、そして、キジュツがこの部屋に入ってきた。