第三十六話
『私は、卑怯なのだろうか?』
彼の証言を頼りに心当たりのある人物の下へ向かう途中、ふと考えてしまう。
もし私が彼だったら、あんな事を言われて何もしない事はないだろう。
私はただ彼を追い込むような事をしただけではないのだろうか?
どちらにせよ、おそらく彼にとって私はただの不器用な女に見えてしまっているのは間違いない。
まったく、格好の悪い。
ほかに手段は、あったのだろうか…。
つい、雑誌に書いてあった事を参考にしていまいそうだったが…。
もう遅いだろう。
「まったく気に入らんな。」
つい声に出して言ってしまう。
ホント、格好悪い。
「そうですね。やっぱり、レフィーユさんもあんな男の言いなりに動くのは気に入らないのですね。」
おかげで、この男に勘違いされてしまう。
そして一通り口答えした後に、いつものように自分の名前を言う、このしつこい男は何処に向かっているのか聞いていたので、軽く答えてやった。
「ああ、そうか言ってなかったな。
華中会のアジトだ。」
「…レ、レフィーユさん、なっ、何を根拠であんな危ないトコロに行くって、さらりと言っているのですか?」
この男の辛うじて持ちえる事の出来ている自我で精一杯、丁寧に答えたのだろう。
歩き方が下手なロボットダンスのようにカクカクして歩いていた。
「それはアイツが『チャイナドレスを着ていた少女に襲われた』と言ったからだ。
チャイナドレス、中華街、今話題、華中会、それが根拠だ。
きっと間違いないだろう。」
「そ、そんな理由で…。」
この男が呆れるのも仕方のないことだろう。
『メイ』は『チャイナドレス』を着ている。
この事は知っているのは、『私』と『アイツ』だけなのだ…。
おそらく、この男は今回の件に対しての重要性がわからないのだろう。
「仮にも相手はマフィアですよっ!?
何もあの男が、そう言ったからという理由でわざわざ出向く必要なんてありませんよ。
『きっと』見間違いですよ。」
『きっと』見間違いではない…。
そう言い返してやりたかったが、口を閉じた。
何を言っても何も知らない、この男の対しては『きっと』話が通じないと思った。
彼は事件に関しての意見を言っても、この男の様に『治安部でない人間が口を出すな』と言われ続けているのだろう。
なぜなら彼は『治安部ではない』。
それだけの理由だけでだ。
だが最も多くの事件に近くにおり、そのため多くの情報を持っている事はというのは、学園内では間違いなく私を凌ぐ人物なのだ。
そして、私はその男の情報に従うという事は真相に近付いているという事だ。
そう確信しながら、現場に着いた様だったので、まずこんな一言が私を出迎えた。
『ごらんください。
今、レフィーユ・アルマフィさんが到着しました。』
アジトのビルの周りには人だかりと中継、更に黄色いテープの貼ってあったので警察の車が数台あったのが確認できた。
最初に警察の方が私に気付き、代表が手を差し伸べながらこっちにやってきた。
「さすがに早いですな。」
だが、一つ言える事がある。
「これは、一体何の騒ぎだ?」
私は代表みたいな男は知らない。
だが、何かを期待していたというのは、ただ『きっと』間違いではないだろう。
「漆黒の魔道士が、ビルの中に飛び込んで行きました。」
そんな一言を…。