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第三十四話

 

 「くぅ…。」


 気絶独特の痛みと頭のぼやけで目を覚ますと学園の医務室だった。


 「おう、目が覚めたか?」


 『がはは』と独特な笑い声のする方を向くとイワトが椅子に座って看病していた。


 「このまま目を覚まさないかと思って心配したわい。

 まあ、身体に異常はないようだから、寝とけ、寝とけ。」


 イワトは小指で鼻をほじりながら自分の布団を整えているので、目を細めながら見守っているとレフィーユが医務室に入ってきた。


 「遅くなって、すまない。」


 顔をよく見ると、少し気分が悪そうだった。

 無理もない、彼女も気絶をしていたのだから。


 「それで『何があったのだ?』」


 お互い、何が起きたのか知っている。

 だがレフィーユは、それを感じ取らせないためにイワトにわざと聞いていた。


 「どうも、正体不明の少女に吹っ飛ばされたそうですわい。」

 

 「少女、何だ、お前は子供に負けたのか?」


 そんな自分をあざ笑うかの様にレフィーユの隣から現れた。この男からすればよほど見っともない醜態だったのだろう。

 まるで小馬鹿にするように『情けないな』と言って来て自分を責めた。


 「コイツは治安部じゃないぞ、お前それは言いすぎじゃろうが?」


 「子供に負けたのだぞ、それのどこが情けなくないというのだ?

 大体、こいつは魔力の低いのは前々から気になっていたんだ…。

 …とんだ学園の恥さらしだ。」


 「なんじゃと!?」


 イワトが、その男に殴りかからんとする勢いで胸倉を掴み、感情のまま拳を振りかぶった。

 だが、それは寸前でレフィーユによって丁寧に受け止められた。


 「どうして、止めるんじゃ!?」


 「そんな事しても何の解決にもならない事くらい、わかっているだろう?」 


 「じゃがっ!?」


 イワトはそんな事を言われても、当然納得出来ていない様子で尚も食い下がる。


 だが…。


 「『だから』どうした?」


 レフィーユはただじっと見つめた。


 「…すいません。」


 それだけで、イワトは黙ってしまう。


 「納得出来ないのはわかるが、寝ている者の身になって考えてみるものだな。

 そして、お前もだ。

 確かにコイツは治安部の人間ではない。

 だが、ユカリを身を挺して庇っただけでも、お前はコイツの事をまだ『情けないヤツ』だと笑うのか?」


 あっという間に、騒然とした空気を入れ替えて静かにさせたレフィーユはさらにこう言った。


 「私はコイツと話がしたい。お前たちは出て行ってもらおう。」


 イワトはバツの悪い顔をしながら、空気を読んだのだろう。

 少し強めにトビラを閉めて出て行ってくれた。


 「で、ですけど、事情聴取がまだ…。」


 「出て行けというのがわからんのか?」  


 最後まで残るつもりだったらしい、その男はあっという間に医務室を出て行くのを見送って、今度はレフィーユがイワトの座っていた椅子に腰を掛けてしばらく黙り、唐突にこう言った


 「…しかし何だ。メイは気付いていたのか?」


 「何の事です?」


 「殺害した犯人の事だ。」


 「おそらく、気付いていたのじゃないのですかね?

 というより、レフィーユさんだって、気付いていたでしょ?」


 「まあな、あの時『私たちがいた』という要因を逆にしてしまえばおのずと、見えるモノだからな。

 お前だって、それなりに気付いていたのだろう?」


 「そうですね。一言おかしかったトコロがあったのでね。

 最初は、ワケがわかりませんでしたけど、気が付いた時にはもう犯人にしたて上げられてましたよ。

 メイさんも、そこらで気付いていたんじゃないのかと思いますよ?」


 「どうしてそう思うんだ?」


 「これは他人と違う力を持っているからわかる事なんですがね。

 一回、自分の力を恐れたら、極端に周りに気を配るようになるんですよ。

 それはもう、その地雷を探知する作業並みに気を使っていたんじゃないのですかね?」


 「…それはお前だけじゃないのか?」


 「そうかもしれませんね。

 ですけどね。メイさんは仮にも『華中会』って組織の人間でしょ。

 そして、その中で一番強い人物という事、兄弟達が好きだという名目、そして殺し合わなければならないという儀式。

 そんなのが重なって気を使わないなんて事はないと思いますよ?」


 その証拠に自分達と同い年なのに『幼い』のだ。 

 それはメイが今までそうして生きてきた証でもあった。 


 「…それを私はみすみす逃がしてしまうとはな。」


 「寝ていたのだから、仕方ないじゃないですか、こんなのがあっても逃がしてしまう、人物がここにいるんですから。

 そんなに自分を責めない方がいいですよ。」


 右手を黒く染めながら、あの時を思い出す。


 正体がバレてでも止める覚悟はあった。

 だが、突然ユカリがやってきたのが引き金だった…。


 「すいません、正体を隠す方を選んでしまいました。」


 「そうか…。」


 ただ一言、そう言って自分を見つめただけ、ずっと黙っていた。

 

 「やっぱり情けないですかね?」


 聞かずにいられなかった。


 自分は『ユカリを庇った』という名目でここにいる。

 だが、そのせいで『重要な人物』を逃がしてしまったのだ。


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