第三十二話
四ヶ月たって言うのも考え物ですが、週を決めたいと思います。
適当に更新する中で、水曜日は必ず更新します。
詳しくは、自己紹介ページで書いてます。
「貴女は、秘書はつけないのですか?」
「ワシは一人の方が何かと気が楽じゃからのう。雇うてはおらぬ…。」
メイは自分を見つめて、『静か』に言い返した。
そのおかげでそれが嘘だとわかってしまう。
「そんな事はないでしょう。あなたは、仮にも女性ですからね。
貴女のお爺さんは秘書という名の世話係をつけたはずでしょう?」
「仮には余計じゃ…。
じゃが、そういうのなら昔、おったのう。もうおらぬが…。」
「今、どこへ?」
「そんなのぬしの知る事ではなかろう。大体それが何の意味があるのじゃ?」
まるで、番組終盤の犯人が最後の悪あがきだ。
メイにしてもそれを踏まえた上で、ワザとそんな事を聞いたのだろう。
観念しているのか、してないのか、暗がりに移動したせいで彼女の表情は伺えない。
メイは、そのまま自分の意見をただじっと待っていた。
「華中会の中で優れた世話係を選出する。
そうすると、ついでに…というより、ボディーガードというのも兼ねている事が条件になるでしょう。
そうなると必然的に最も武芸に卓越した人物で相応しくなります。
で、その事は後々の『儀式』を行なう際、メイの戦闘訓練の教官になる事を指しています。
それで、改めてメイさんに聞きますけど、そんな『最も武芸に卓越した世話係』は、今どこにいるのですか?」
「…さあのう、それは全部ぬしの妄想であろう?」
しばらく黙ったままの彼女が、ようやく話した言葉がそれだった。
「そうですね…。」
思わず笑ってしまった。
確かにここまでくれば妄想だ。
だけど、その妄想はあまりにもリアルで…。
導き出される答えは一つしかなく…。
「…ですけど、私は貴女がその部屋の加害者で、秘書が被害者だと思ってます。」
「……。」
メイも『そうなるのう』と認めたきり黙る。
その為に近くにある時計の秒針の音が聞こえるくらい静かな時間が流れた。
今、分針が動いたのだろうか、『ボツリ』という鈍い音に、メイはしばらく自分が黙っていた事に気付いたのか話を切り出した。
「…では、それを踏まえた上で聞こう。
ぬしはワシがお爺様を殺害した犯人だと思っておるか?」
そして当然、彼女には『オキナを殺す理由』など、どこにもない。
「いいえ。」
「そうか…では報道通り、『漆黒の魔道士』が殺害したと思っている?」
当然、『いいえ』と即答したかった。
だけどそれはここにいる『自分』は知らない事…。
まるで、同じ自分の姿、形をした別人を見ているような感覚に軽く眩暈を覚えたが、誤魔化すように目をつぶり、こう『静か』に答えた。
「わかりません…。」
「そうか、ではぬしもワシと同じ事を思っておるようじゃのう。」
「と、言いますと?」
メイは兄弟を慕っていたという事を踏まえて、ワザとそんなとぼけ方をする。
それはさっきとは逆の展開だったので、思わずメイの気持ちがわかってしまった。
「とぼけるでない、兄達のどちらかが犯人だと思うておるのじゃろう?」
「はい…貴女は…それを確かめるつもりなのですか?」
「この状況で『違う』と言えぬじゃろうな…。」
相手はオキナを抵抗も許さず、一撃で葬った人物。
正直、いくらメイが一番強い『何か』をもっていたとしても、命を危険を晒すマネをしてほしくなかった。
だけど彼女は決意を固めたから、レフィーユに手荒なマネをせず気絶させ、自分にすら伝えず何も言わず出て行き、今その場に立っているのだろう。
それを飲み込んだ上で、自分はどう止められるのだろう。
「危険過ぎますよ…。」
もっと、気の利いた言葉があっただろう。
だけど、こんな事しか言えなかった。
「…じゃろうな。」
廊下の支柱に手を当てたまま、メイは唐突にそう言って聞いてきた。