第三十一話
長くなりそうなので、この辺で切っておきます
白鳳学園の寮内の深夜、その女の子は寮に設置されてある自販機の前で何かを探すように屈んでいた。
この学園の寮生なら別に怪しむ必要はないだろう。
だが、その小柄な女の子はチャイナドレスを着ている。
この国でこんな服装で歩くのは、よほどのコスプレマニアくらいだ。
「こんな夜更けに何をしてるのですか?」
そして自分は何をしているのかというと、この人物がここにいる理由を作った手前、夜を更かして巡回をしていた。
「誰かと思えば、お主か、脅かすでない。」
メイは突然の声に驚いた様子で『散歩』と言い訳をしていたが、そこは自分がこの寮を抜け出す為の『通路』があるのを知っている。
だけど知らない振りをして『何をしてしているですか』と聞くと。
「ただの散歩と言っておろうに…。」
そんな感じで『そんな事は無い』と言って戻る素振りを見せていた。
だが、彼女にはここを離れようとしなかった。
「そのチャイナドレスで、ですか?」
「祖国出身のモノが祖国の服で歩いても別に何もおかしい事なかろう?」
「血が染み付いたチャイナドレスを着て散歩だなんておかしい事でしょう?
それにそんな妖しいドレスを着てレフィーユさんの部屋を出たという人を見逃すほど、私は神経が太くありませんよ?」
いくら自販機の光で照らされているとはいえ、ここからではそんな染みは見えるワケがない。
自分はこの血がどこで付いたのかを知っている。
そして、誰のモノであるかを…。
メイには悪いと思った。
だけど、これしか彼女を立ち止まらせる方法を考え付かなかったので、それを踏まえた上でレフィーユの血ではないのかとワザと指摘した。
すると、メイは向き直って、一瞬自分を『キッ』と可愛く睨んだが、ため息を付いた。
「これはワシが事件当日に付いた血じゃ、あやつの血ではないから安心せい。」
そういって彼女は静かに自分の脇を通り過ぎて、戻る素振りを見せていたが戻る気はそうそうないのだろう。
その場で立ち止まって、次にこんな事を言った。
「…まあ、気を失ってもらったがのう。」
「気を?」
「手荒な真似はしてはおらぬから安心せい。
あの者は、ちょっとした物音でも目を覚ましていたようじゃからな。
じゃから、眠ってもらっただけじゃ。」
「どうやって?」
「ワシはこれでも儀式の為に戦闘訓練を受けておったからのう。
手刀で、こう…。」
右手の指を揃え『シュッ』と自分の小さな手の平を下ろして、メイは身振り手振りに教えるが、明らかに説得力がなかったので即答で答えた。
「嘘ですね。」
「う、嘘ではない。
その証拠にさっきからレフィーユは来てはおらぬではないか?」
確かにメイの言うとおりなら『ちょっとした物音』で起きてもう今頃は自分たちを探し出しているだろう。
「メイさん、確かに貴女がレフィーユさんを『気絶させた』という事はホントの事でしょうね。
ですけど、そんな『技』じゃないでしょう?」
その一言で、メイは明らかに強張って、こちらを警戒しながらこう言った。
「…ぬし、どこまで『知っておる』?」
「『どこまで』って、七年前の事はレフィーユさんが部屋で報告した程度の事までしか、私は知りませんよ。
ですが、その当時使っていた部屋って、戦闘訓練が行なわれていたのでしょう?
それを踏まえて、当時の頭目のオキナが出てくるほどの騒ぎとなると、大体、大怪我か最悪は…って感じですかね?」
『なるほどのう…』とメイは関心を持って話を聞いてはいるようだが、まだ警戒を解こうとしないところを見ながら、さらに自分の推理を続けた。
「…その事で一つ気になる事がありましてね?」
「気になる事?」
「『加害者』がいる事は『被害者』がいるって事ですよね?」
そして彼女は以前のように、静かに目つきを変えてコッチを見ていた。
どうも彼女は隠し事がすぐに顔に出るようだ。
「で、ぬしにはわかっておるのか?」
この4人の兄妹は親も顔も性格もばらばらだった。
だが、一つの共通点が何かを矛盾させていた。
それは…。