第二十六話
「…お主、ホントに何者なのじゃ?」
「はい?」
食事も終わったので食器を片していると、後ろからメイが聞いてきた。
レフィーユはシャワーを浴びてくると言って自室のシャワールームにいる、だから今この部屋にはメイと2人になっていた。
…というより、健全な男子がここにいるのですよ。少しわきまえてほしかった。
「―成績平凡、運動音痴…それでお主、西方、東方どっちの使い手じゃ?」
「西方術の『風』使いです。」
「なんじゃ、ワシと一緒ではないか。」
「まあ、自分は1M先のロウソクを消すのがやっとな劣等生ですけどね。
メイさんも、風使いなのですか?」
ちなみにそんな事を言っているが、正確にはロウソクの影に紛れて火を消しているだけの正体がばれない様にするための処置であった。
「ワシは、竜巻を起こす程度じゃ。」
「えっ、竜巻って、上位形成ですよね?」
西方術の風における教科書を自分は持っていたので、メイの返答には驚いた。
この学園の先生すら風の刃を3枚以上、飛ばす事が限界に対して、メイは竜巻を起こす事が出来ると言っているのだ。しかも『程度』と語尾につけて。
「あっ、ま、まあ、気にするでない。」
「メイさん?」
「気にするでないと言っておろう。お主、何だかしつこいぞ。」
「メイさんが、始めた話題でしょう…。」
何だか自分のせいにされた。
「…じゃが、それなのに、レフィーユに頼られるとはのう。」
「別に頼られてはないと思いますよ?」
「だとすれば、お主に『お前はどうするのだと』聞いてくる事はないと思うぞ?
それでお主はこう言ったではないか、『自分なりに動くだけ』じゃとのう。
お前の『動く』とは、何を差すのじゃ?」
意外とメイは鋭いようなので、ここは受け流すように応えるのは言うまでも無い。
「ただ治安部の動きの中で行動するだけですよ。」
「お主は治安部ではないとレフィーユから聞いておるぞ?」
「テレビやら雑誌やらを見て」
「それでは、主婦と代わりないではないか。」
「じゃあ…」
「『じゃあ』って、お主は何を誤魔化そうとしておるのじゃ…」
ため息を付きながらメイは言って来た。
「…お主、何だか気味が悪いぞ。」
「『気味が悪い』ですか、酷い言われようですね。」
苦笑しながら、洗い物が済んだので、お茶を入れてメイに差し出して自分もテーブルで足を組んで、少し聞いて見た。
「メイさん。もし自分が他人が持ってない能力を持っていて、それが世間にとって、とても危険なモノだと判断されたらどうします?」
「何じゃ、それは?」
「まあ、例えばでいいですよ。
そうですね。この寮を爆破できる程の爆弾を作る事が出来たらどうしますか?」
「どうしますと急に言われてものう。
そんな事しても、何の特にもならんし、作って置いておくだけでも十分危険じゃから、どうもせんじゃろうな。」
そう言ってメイはお茶を啜り『お菓子はないのか?』と聞いてきたが『無い』と言うと少し残念そうな顔をするが、話を続けた。
「…じゃが、黙っておくじゃろうな。
そんな事が出来る事を言ってしまえば、友達も危ない人間と思って離れていくじゃろうからのう。
それで、これがお主の隠し事と何の関係があるのじゃ?」
「ああ、自分の情報収集の仕方は、少し法に触れましてね…。」
もちろん、これは嘘だ…。
「レフィーユさんは、この情報は役立つから感謝されてますけど…。」
自分が『漆黒の魔道士』とバレない為の予備工作みたいな問いなのだから…。
「なるほどのう、世間にそれがバレといろいろと不味いという訳か、お主も色々と苦労しておるようじゃのう。
じゃが、それでお主はどうするのじゃ?」
「どうするとは?」
「いつまでも世間に隠し通しておく訳にはいかんじゃろう?」
メイはそんなつもりで聞いてきたのではないだろう。
だがその問いはまるでこういう風に聞こえてしまう。
『いつまで漆黒の魔道士として隠し通すつもりだ?』
…と。
「そう言われれば、そうですね…どうしましょうか?」
当然、自分の出てくる答えなど『わからない』だ。
「…質問を質問で返すでない。」
『じゃが…』と、そう言って自分の顔を見つめるメイは幼い顔つきではあったが、同い年、相応の目つきをして言った。
「隠して周りの者と仲良く過ごせるのなら、それは隠し通して良い事もある。
こんな正解もあると、ワシは思うておる。
でなければ、ワシは…。」
「メイさん?」
そして、またメイに誤魔化され、自分のせいにされて、うやむやにされてしまったが、今後の行動方針が決まった様な気がした。
何だか彼女もいろいろ問題を抱えているようだったから…