第十九話
『オオォォォ…ッ!!』
咆哮をまた上げるので、向き直ると今度はコッチに走りこんで突進して来た。
アラバは横っ飛とんで逃げたが、レフィーユはその場を動こうとせず、そのままサーベルで切りつけるが、怪物は止まる事なくそのままレフィーユに向かって突進をする。
『ゴアアッ。』
それは標的を確実に捕らえて、突進を繰り出して相手を絶命させたように見えた。
だが何故か憶測を誤って、怪物は壁に頭を激突させていた。
「さすがに怪物は、私の事を知らんようだな。」
自分の残像をその場に残して、あらかじめ決められた動作を再生する事によって自身で多重攻撃を可能にする。レフィーユの東方術による付加能力であった。
「この技が噂の『ミラージュ・ストライク』…。」
「フッ、さすがにお前は知っていたようだな?」
「特番で名前を募集してた技でしたね。」
「…そんなしょうもない事を良く知ってるな。」
「それはイワトに進められて、自分も応募しましたからね。」
「ほう、どんな名前で出したんだ?」
「確か『シャドウ・ストライク』でしたね。」
「お前がこの名前を考えたのか!?」
「この名前って、名前が違いますよ?」
「いや、そうじゃなくてな。
ホントは、その『シャドウ』になる予定だったのだがな。
主催側に『シャドウは駄目だ』と言われて、『ミラージュ』になったのでな。
まさが、お前が考えたネーミングだったとはな…。」
無視されたのが癪に障ったのか怪物がさらに雄叫びを上げて、今度はコッチに飛び掛ってきたので、それを左手と闇で受け止めて、闇を纏った右アッパーがアゴを捉える。
そしてアッパーでかざした右手を開いて闇の放出させて吹き飛ばして浮いた怪物をこちらに引き寄せて背負い
「ふうっ。」
息を吸い込むと同時に一気に脇を絞めて投げた。
「ほう、綺麗に投げるモノだな。で、今の技は?」
「私は貴女とは違って名前なんてないですよ。」
「なるほど、じゃあ私が付けてやろうか?」
「お断りします。」
ゴロゴロと転がりながら悶絶している怪物を見ながらまるで緊張感のない二人に向け口を開けて、怪物はまた火の玉を吐いてきた。
当たると思ったのだろう、狼は更に走り込んで獲物の追撃を狙う。
だが、それは適わない。
その火の玉は真っ二つに切り裂かれて後方の壁が爆発を起こす。
中から出てきたのは、サーベル持った麗人、ただ怪物目掛けて自身の残像より早く駆け抜ける。
慌てて体勢を立て直そうするが、自分の影が突然抱擁してきた。
彼女の後ろにはもう一人いる。
その名を『漆黒の魔道士』、人類に唯一の『闇』の西方術の使い手。
そして放つ術は、闇の抱擁…。
抱擁が捕縛に変わる時、その瞬間をレフィーユが見逃さない。
「はああっ!!」
サーベルが怪物の顔面に向かって伸びる。
身を守ろうと身体を傾けようとするが…。
「があああああっ!!!」
もう遅い、右目を直撃して後頭部を貫通した。
レフィーユは鈍い音と一緒にサーベルを引き抜いて距離をとると、怪物は逃げるように階段を飛び上がっていった。
「ぎゃああああっ!!」
「いかんっ!!」
今の叫びは上の階へ逃げた誘拐犯の声だった。
二人は慌てて追いかけようと階段に差し掛かると、下の階から声が聞こえてきた。
「おい、さっきの音は何の音だ?」
「これだけ騒いだから、他のヤツラに気付かれたようだな。」
レフィーユは舌打ちをして足を止めてこう言った。
「お前がここにいると色々問題があるだろうから。
すまないが先に行ってユカリを頼む。ここは私にまかせてもらおう。」
彼女は自分の立場を利用するためにそう言ったのが分かった。
だから、それに応えるために自分は出来る事をする事にした。