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第十話

 自分の苦手な学園行事といえば、まあテストなどの勉学に精通した事はいうまでもない。

 そして、ここに自分の最も苦手…というより、神経を使う学園行事が行なわれていた。


 …スポーツテストである。


 「懸垂、53回。あいかわらず凄いですね。」

 「伊達に『腕力バカ』とは呼ばれておらんわい。」


 『ガハハ』と笑いながら、素直に自分の事をバカといえるこの男 ゲンゾウ・イワト。

 この素直さが彼の『いかつい外見』というマイナス面をゼロにしているのだろう。

 

 自分もこういったイワトの性格が嫌いではないので、よくつるんで話をする仲だった。


 「だがよ、今年に入って2回目のスポーツテストだから、あまり見栄えしないわな。」

 「『アレ』が原因ですから、仕方ないと思いますよ。」

 「『アレ』って、お前…。」


 二人の目線の先には『アレ』が今、走って飛んでいた。


 …まあ、走り幅跳びだ。


 走って


 『キャー!!』

 女子は色めき立ち。


 華麗に跳んで


 『オオーッ!!』

 男子生徒はいきり立つ。


 そして、自分を見つけて彼女は手を振り、全校生徒の大体は殺気混じりで自分を見つめなさる。


 ……。


 どうも彼女は一挙一動とても絵になるらしく、着地を決めている時には見ているイワトも釘点けにしていた。


 「もう一種のパターンですね。」

 「そのセリフは聞き捨てにならないな。」


 振り向いたら、髪を掻き揚げながら男がそこに立っていた。


 「キミがアラバ君ですか?」

 「ああ、はい、そうですけど…えっと、どちら様ですかね?」


 「私を知らないとはな。

 だが、これからキミと争う事になる事だ。

 治安部のソウジ・ジングウジという、良く覚えておけ。」

 「ああ、あなたが噂の…」

 「ふっ、さすがに知っていたか…。」


 自分の事をフルネームで言う癖がある男子生徒ですか…。


 「…これはどうも、ですが争うとは?」

 「とぼけるのが上手いのだな、わかっているだろう彼女の事だ。

 先に言っておく、彼女は私のモノだ。」


 「はい?

 いきなり何を言ってるんですか?」


 「どうもレフィーユさんは、お前に興味を持たれているようだからな。

 それを今日のスポーツテストでお前に勝ち、彼女に相応しい男は、このソウジ・ジングウジだと証明してやる。」


 「勝負にならないと思いますよ?」

 「ふん、随分と余裕じゃないか、いいだろうその自信を叩き潰してやる。」

 

 ……。


 「握力35、幅跳び3M15、何だ懸垂に至っては15回って。」

 「だから『勝負にならない』んですよ。」


 「ガハハ、これは一本取られたわいっ。」

 「わ、笑わないでくださいよ。」

 

 「騒がしいな、何をしてるんだ?」

 その大笑いを聞きつけたのか、レフィーユがこちらにやってきてしまった。


 「ああ、これはレフィーユさん。

 これを見てくださいよ。」

 ソウジが見せ付ける様に自分のテスト用紙も出して、レフィーユに見せた。


 「…まったく、治安部の女子より低いじゃないか。」

 「お恥ずかしい限りです。」


 だが本気を出すワケにはいかない理由を唯一知っている人物という事もあり、その辺はあまり突っ込んでこなかった。

 

 「それに比べて私、ソウジ・ジングウジの記録を見てくださいよ。」

 「まあそんな事より、治安部は普段から鍛えているからな、お前はお前でがんばればいいって事だ。」


 ソウジの自慢も『そんな事』の一言で片付けながら、かえってレフィーユに気を使わせてしまうようだったが、イワトの鼻をほじりながら自分を元気付けるつもりで言ってきた一言が次の波乱を呼んだ。


 「そうだ気にすんな、お前が治安部と張り合えるのは足の速さくらいなモンだ。」

 

 その一言が、彼女にとって明るい話題らしく、明らかに機嫌よく聞いてきた。


 「ほう、そんなに速いのか?」


 「まあ、そこだけは真面目にやってますから。」


 「なるほど、じゃあ次の100M走、私と競って見ないか?」


 とんでもない事を言ってきた。

 おかげで周りの視線を『また』集める羽目になり…。


 ザワザワ…。


 「なんでこうなるんですかね〜。」

 「それは私がお前に興味があるからさ。」


 『おお〜。』


 レフィーユのその一言に周囲の男女が更に騒がしくなる。

 

 「少しは落ち着いたらどうだ?」


 スタートラインに立つ両者、レフィーユは緊張をしていると勘違いしたのか、気軽に柔軟をしながら話しかけてきたが…。


 「それは分かりますけど、周り見てそんな事を言ってくださいよ。」


 自分に殺気混じりの視線が降りかかっているので落ち着く方が無理だ。


 「だが、そんな状況でもお前は本気を出そうとするのだろう?」

 「それは…、そうですけど…。」

 「フッ、それは良い心がけだ。

 これで私も力を試せるというモノだ。」


 その時スターターが『位置について』と、合図を始めたので二人ともスタートラインに付いた。


 『お姉さま〜、がんばってくださ〜い。』

 『おお、噂の走りが見れるのか〜。』


 そんなレフィーユの歓声に対し。


 『……。』


 自分の方に視線を向けている人たちは黙っていた。

 

 …何かしゃべってほしいですよ。


 おかげでスタートの姿勢が普段より低くなったのが、癪だったので…。


 「あっ、レフィーユさん。」

 「どうした?」

 

 『よ〜い。』


 出来るだけ粘って…。


 「靴…。」 

 「…ひもでも解けているのか、心配するなそれくらい確認したから。」

 「笑顔でそんな事言われたら、何も言えないじゃないですか。」

 

 そして『パン』となる頃には、二人は真面目に走っていた。


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