第三十七話 はい?
【注意】
今回のお話には『閑話 ホワイトデー』に登場するキャラクターが登場します。
あまり不都合はございませんが、疑問点がございましたら読み返して頂けるとさらに今話を楽しめるかもしれません。
三日間の長い馬車の旅を終え、俺とミリーナはアイネの街に到着した。
「ミリーナ。買い物って言ってたけど、どこに行くんだ?」
「あぁ、それなんだが、良い洋服屋があるんだ。そこへ行こう」
「了解した。お前がエスコートしてくれ」
俺がそういうと、ミリーナは腕を組んで来た。突然の事に俺が停止していると、ミリーナはにこりと笑って、
「今日はデートだからな♪」
と、言った。いやいや、デートだったっけ?しかも周りの目を見てくれよ。周りの男性たちが全員俺を睨んでるぞ。
だが、そんなことを言えるはずもなく、俺はミリーナに従った。
腕を組み、しばらく歩いていると、前方に大きな店が見えてきた。
「ヒロキ殿。あの大きな店だ」
ミリーナがそういうと、俺とミリーナは一緒に店に入る。
「いらっしゃいま…あら、ミリーじゃない」
店に入ると、すらっとした黒髪の女性が出迎えてくれた。眼鏡をかけており、教師風だ。
「おはよう、サキ」
ミリーナが挨拶をすると、サキと呼ばれた女性は俺の方を向き、見定める様につま先から頭の先までじーっと見つめた。
「…86点」
「え?」
まさかとは思うが、俺の点数か?
「あぁ、すまない。彼女は初めて会った人間には点数をつけるんだ」
なんじゃそりゃ。それは悪趣味極まりないぞ。
「ちなみに私は72点だったぞ」
「今は100点よ。それにしても、珍しいじゃない。ミリーが男性を連れて来るなんて。でも、その人強いの?」
「あぁ、とってもな。なにせこの人はあの英雄だからな」
「英雄って…あの?…失礼だけど、ちょっと信じられないわ」
サキがそう言うと、ミリーナはむっとした。
「嘘じゃないぞ?」
「分かってるわ。貴女は嘘をつくようなタイプじゃないものね」
サキは、肩をすくめながらそう言った。
「それで、今日は何の用?」
「あぁ、この人―――ヒロキ殿の服を買おうと思ってな」
な!?どういうことだ?
「え?」
俺の口から情けない声が漏れ、女性陣が苦笑する。
「なんだ?ヒロキ殿。私は何か変な事を言ったか?」
「い、いや、でも、買い物って言ったらさ、ミリーナの物を買うと思うじゃないか」
「だが、ヒロキ殿。ヒロキ殿が持っている服と言えば今着ている黒いロングコートぐらいしかないだろう?だからこの店で新しい服を買おうと」
なるほど、ミリーナは俺の事を考えてくれていたんだな。優しいな。
「そうだったのか。ありがとう、ミリーナ」
俺が感謝の言葉を述べると、ミリーナは軽く頬を赤く染め、こくんと頷いた。
「あのね、お二人さん。惚気るのならよそでやってくれるかしら」
サキが呆れたように言った。
「あぁ、すまなかった。―――それで、服の話なんだが、最高級品を頼む」
んな!?最高級品だと?
「分かったわ。ちょっと待っててね」
サキはそういうと店の奥へと消えて行った。
「おいミリーナ。俺が着るんだったらそんなに高い物じゃなくてもいいぞ?」
「いや、ダメだ。ヒロキ殿はフォルフ村の村長だ。ゆくゆくは王になる器。考えてもみろ、大勢の人間を束ねるものがみすぼらしい恰好をしていたらその集団自体が低くみられるのだぞ?」
ぐ、こういわれると何も言い返せない。王の器とかは置いておいても、フォルフ村の村長であることは事実。俺だけじゃなく、村の皆の評価も下がるとなれば、ミリーナの言う事も聞かなければならないだろう。
「ぐ…わかったよ。色々と考えてくれてありがとうなミリーナ」
俺がミリーナに感謝の意を述べると、ミリーナは満足そうな笑顔を浮かべた。
「っと、ヒロキさんの身長に会うぐらいで、かっこいいやつって言ったらこれくらいかしら」
サキは、店の奥から多くの衣服を持ってきてくれ、俺はその中から数着、ミリーナがかっこいいと言ってくれたものを購入した。
ん?金?金なら白金貨3枚でしたよ…。
この世界では、銅貨一枚10円程であり、銅貨が10枚で銀貨。銀貨が100枚で金貨。金貨が100枚で白金貨。となっている。
つまりだ、この服は合計で三百万円だ。恐ろしく高い。俺は、この前アワリティアを倒した時に王様から褒賞として白金貨10枚を貰っていたので払うことが出来たが、一般市民であれば払えないような額だ。
「またのご来店をお待ちしてまーす」
俺とミリーナはサキに見送られ、店を後にする。
「ではヒロキ。次は「ヒロキさん!王がお呼びです。王城へとお向かい下さい」」
店から出た俺たちを、ハインリッヒが呼び止めた。彼は激しく肩を上下させているので、俺の事を必死で探していたことがうかがえる。
「ハインリッヒ。どういうことだ?」
俺の問いに、ハインリッヒは首を横に振る。
「俺には知らされていません。ただ、団長が隊長とヒロキさんが火竜を討伐したという事を王に報告して、帰ってきたら、「ヒロキ殿を王がお呼びなので、探してこい」と言われまして」
「了解だ。ありがとうなハインリッヒ」
俺はそうハインリッヒをねぎらうと、王城へと歩を進める。
―――
王城へと到着すると、城門に駐留している兵士が、俺に王が謁見の間にて俺を待っていると伝えてくれたので、俺たちは謁見の間へと向かう。
謁見の間につくと、扉の前に宮中伯が立っており、中へ入るようにと言われた。
中へ入ると、中には王が玉座に居り、その傍らに若い男性が立っていた。
「ヒロキ・ヤマセよ。この度は―――っと、堅苦しいのはやめよう。この場にはそなたと儂。あとは枢機卿とミリーナしかおらぬのでな。ヒロキ。今回は火竜の討伐に関して、礼を言う。それと、そなたを刺した少年に関してなのじゃが、その少年は六芒星という組織の一員であると思われる。六芒星とは、この大陸に存在しておる機関じゃ。主に暗殺稼業を生業として居る連中なのじゃがな、各国の大貴族たちもその六芒星に関わって居るので、下手に手は出せんのじゃ」
なるほど、異世界テンプレってやつだな。
「なるほど。それは納得が出来ました。差し詰め、幼少のころから暗殺の教育をされてきたという事でしょうね」
「そうなのじゃ。―――まぁ、六芒星の話はまた後日として。今回そなたを呼んだのはほかでもない、そなたに爵位を授けようと思っての。子爵なのじゃが…受けてもらえるかの?」
「…はい」
俺は渋々であったが、この申し出を受けた。
いや、だって貴族だぜ?絶対ややこしい事に巻き込むよこの人。
「そうか!良かった。それでなのじゃが、今回の爵位を授ける際にフォルフ村とその一帯を領土として授けよう」
マジか!意外とすごい条件だな。
「はい、有難き幸せにございます」
「それで、なのじゃが」
今までの真剣な顔つきと一転、王はニヤリと黒い笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「フォルフ村―――もとい、ヒロキの領土に騎士団の隊を一隊、配属することにした」
―――まさか。
「神聖国騎士団壱番隊を配属する」
この言葉を聞いたミリーナは狂喜し、俺は、これから起こるであろう様々な出来事を考え、頭を抱えた。
その俺たちを見て、王がニヤニヤ笑っていたことは知る由もなかった。
いやー、ヒロキとうとう貴族ですよ?
どうすんのこっから?(笑)




