第一話 誰ですか?
暇だ。家に引きこもってもう二年もたった。親はもう俺の事を諦め、最近は部屋の前にカロリーメイトと水が置いてあるだけだし、俺にはすでに友達と呼べる奴なんていない。皆俺のもとを去っていった。
「俺、このまま死ぬのかな…」
俺は、ベッドに大の字になって寝転がりながら呟いた。第一、この国がおかしいんだ。前の会社を二か月で辞めたというだけで社会は俺を屑扱いだ。どの会社の面接官も、理由を聞こうとはしない。履歴書にそう書いてあるだけで、
「君ねぇ、もうちょっとこらえないと社会でやってけないよ?」
とか、
「…これだからゆとりは」
とか。
そんなことを考えていると、タンスの一番上の棚から光が漏れ出ているのに気づいた。
懐中電灯でもスイッチを消し忘れたまま入れていただろうか?いや、もし入れていたとしても、俺は最近あのタンスをいじってはいない。何故電池が切れていないのだろう?
俺は、様々な事を考えながら原因を探ろうとタンスに近づいた。その時だった。物凄い勢いで引出が飛び足してきたのは。
「パンパカパーン!おっめでとーございまーす」
一昔前の言動と共にまるでテレビに出ているモデルの様な女性が、引出の中から飛び出してきた。そう、例えるならば某青狸ロボットが時間移動装置(タイム〇シン)から飛び出して来たかのような。
「っ!?だ、誰だ!どうやって!?」
俺は、戸惑いながらも得体のしれない女性を撃退できるよう、部屋の片隅にあった木刀を持ち上げようとした。だが、二年間引きこもって衰えてしまった俺の筋肉はその動作を素直にさせてくれなかった。木刀を持つ腕はプルプルと震え、ビリビリとした痛みが身体中にジワリと広がる。
「あぁ、そりゃ自宅のタンスからこんな絶世の美女が出てきたらてんぱりますよね~♪」
俺の驚きをよそに、女はなぜか嬉しそうにそう言った。
「いや、絶世の美女とまでは…。ってか、お前何処から入ってきたんだ?」
女の素っ頓狂なセリフを聞いて、少し警戒心が薄れた俺は、女に尋ねた。
「私は、メスタシア・ヴィ・ミスチル。あなた方の世界で言うところの女神さまっていうやつです。」
女神…?こいつは頭がいかれてるのか?いや、でも現にタンスから飛び出してきているから、嘘だとも言い切れない。
「失礼な男性ですねぇ、こんな美しい女性の頭がいかれてるわけがないでしょう」
「!?…まさか、思考を読んだのか?」
「造作もない事ですよぉ~だって私め・が・み・サ・マですしぃ~?」
妙にいらいらする言い方だが、もう疑いようもないだろう。
「分かった。あんたが女神だという事は信じよう。だが、最初に言っていたおめでとうってどういう事なんだ?」
そう、それなのだ。俺は所詮ただの引きこもり。女神がわざわざ話に来るような存在でもない。
「あぁ、それはですねあなたが異世界への文化発展大使に選ばれたんですよ!」
…もう驚かないぞ、俺は。
※この作品の登場人物のセリフの最後には『。』を打っていません。
これは仕様です。何か作者のこだわりのようなものです。気にしないでください




