その後の世界
第二部の始まりです。
エルフの森を出た俺は、旅をする事にした。
全ての元凶であるエルフとドワーフの国が事実上の崩壊をした事で、世界は平和になったかといえばそうはならなかったからだ。
異世界リ・ガイアの魔力枯渇現象の原因はなくなったとはいえ、向こうの世界の魔力が完全になくなる寸前まで行ったのだから、彼等全員が帰還できるまで大地の魔力の回復にはまだまだ時間がかかるだろう。
何よりこの世界の住人は他種族や他国と頻繁に戦争している。
まぁそれに関しては地球の中世もそんな感じだったのでとりたてて非難する事ではないが。
とにかく、大魔王を倒したからといって、エンドロールが流れて世界は突然平和になって国が再建し食料で満たされる訳じゃない。
後処理こそが重要なのである。
っつーわけで俺は世界をめぐる旅に出る事にした。
幸いにもこのスライムボディは潜む事に関しては天才的だ。
何せ僅かなスキマに潜めばそれだけで人の目を逃れる事が出来る。
何なら土の中に染み込めばよいのだ。
正に万能の隠密ボディ。
全長20mだけどな。
……20mだけどな。
いや、マジマジ。エルフとドワーフの死体と大量の魔力を喰らったスライムは、急成長と言うか体積を増やしてここまで大きくなってしまったのだ。
だが考えてみて欲しい、全長20m全高5mのスライムが居たら人間達はどう思うか?
当然討伐対象となるだろう。
未知の超巨大スライム現るとか言ってな。
ネトゲのレイドボス扱いですよ。
なので俺は、身体の大半を地面にしみこませて、先端の一部だけを地上に出して潜水艦のように地上を移動していた。
サブマリンスライムの誕生である。
◆
さて、そういう訳でこれからどうするか。
世界をめぐると一言に言いはしたが、別に俺は正義の味方では無い。
実際のところ積極的に戦争を終わらせたり人々を救おうという気は無いのだ。
強いて言うなら、今回のエルフとドワーフの様に世界を破滅に導くようなトラブルがないか確認する為といったところか。
何しろ俺には地球に戻る手段も、ましてや人間としての肉体すらないのだ。俺はこの世界で生きる以外選択肢はなかった。
つー訳で、俺が快適に暮らす為に余計なトラブルはなくしておきたいのである。
エルフの町にもまだまだ問題はあるが、とりあえず武器とかやばそうなシロモノは全て地面に埋めてきた。武器がなければ戦争はできない。ドワーフの地下都市から帰ってきたエルフ達は破損した武装を修理する事が出来なくて大弱りだろうな。何しろそうした技能の持ち主はこのスライムが全員喰らってしまった訳だから。
唯一の気がかりは、同胞であるスライムが入ったカプセルがそのままである事だが、あれは俺の身体では破壊する事も取り外す事も出来ないからどうしようもない。何しろ周囲の壁が全てよく分からん金属製だったので溶かせなかったのだ。
誰もアレを解放しない様に祈るほかない。っつーかそこまで面倒見る義理は無い。
もし解放してしまったのなら、それはもう解放した連中に何とかしてもらわないと。
ソレが自己責任というものなのである。
◆
さて、話が逸れてしまったな。
今後の目的地だが、まずは大陸に戻ろうと思う。
俺が今居る場所は島だ。と、言っても小さな島ではない。
北海道を5つくらい足した程のデカい島だ。
そして住んでいるのはドワーフとエルフの二種族だけだ。
あとは獣と魔物くらい。偵察の為に潜んでいる魔族は居るが原住民はそれくらいだ。
そしてドワーフとエルフはもう弱体化しているので暫く戦争は不可能。
何しろ俺が双方の軍事施設や魔法技術のしまい込まれた蔵書を破壊したからだ。
魔法の蔵書は捨てるのがもったいなかったので使えそうな魔法だけさらっと読んでから武具と一緒に土に埋めた。
幸い古参の貴族エルフ達が状態維持の魔法を掛けていたので、数百年は土に埋めたままでも問題ないだろう。
後で必要になったら本を掘り起こしにくればよい。
エルフとドワーフに憑依した事で彼等の書いた本の内容がある程度は理解できる様になっていたのがよかったな。
あれらの本に記載されていた魔法を使いこなせるようになれば、俺は世界最強の魔法使いになれる事だろう。
うん、また脱線した。
そう言う訳なので、暫くエルフとドワーフは戦争したくても出来ない。
只でさえ少ない人口が更に少なくなったのだから人手が足りなくて軍備に回したくても最低限の防衛力以外には回せないだろう。
なので大陸に戻って魔族と他種族の戦争状況の確認が必要となる。
余りにも片方が優勢な場合には俺がこっそりと介入して戦力のバランスを調整してやるのだ。
そうして、戦闘がしづらい均衡した状況を維持していけば、魔族達はいずれリ・ガイアの魔力が回復している事に気付き戦いをやめる事だろう。
希望的観測だが、それに期待するしかない。
つーわけで、大陸を目指して進みますか。
エルフの知識だと島の端から大陸までの距離は20Kmほど。
飛行魔法で飛べば問題なく移動できる距離だ。
空飛ぶ巨大スライム~。
うん、そんな怪獣映画なモノを目撃される訳には行かないから飛ぶなら夜だな。
俺は懐かしき大陸へと向かうのであった。
◆
寄せては返す波の音、それは異世界でも変わりはなかった。
這いずる事1週間、途中であった魔物達を溶かし喰らいながら、遂に俺は海へとやって来た。
さーて、今は夕方だから夜になったら飛行魔法で空を飛んで大陸へと向かおう。
●
そして夜、周囲が暗くなった事を確認した俺は、地面から身体をあらわす。
全長20mのスライムボディの出現だ。
そんな巨体を俺は飛行魔法で浮き上がらせ……浮き上がらせ……
浮き上がりませーん!!!
なんという事だ、この身体には魔法の適正がなかったのか!
俺は人間、魔族、エルフの飛行魔法を発動させようとするが、魔法が発動する気配は無かった。
だってスライムに口なんてないんだもん! 呪文なんざ唱えられねぇよぅ!!
これは迂闊。
これだけ身体に魔力を溜め込んでいるというのに、まさか魔法が使えないとは。
仕方ない。こうなったら泳いでいくか。
俺はずりずりと這いずって波打ち際へと進む。
そして久々の海水浴を……
キュゥゥゥゥゥゥン!!!!
ほわぁ!!!!
なんかキュンと来た!!
身体が搾られるって言うか、ヒリヒリするって言うか、なんかヤバイ。
俺は慌てて波打ち際から下がる。
と、その時一際大きい波が押し寄せてきた。
言いようのない危険を感じた俺は、慌てて陸に向かって逃げる!
だが速度は圧倒的に波の方が上!
俺はなす術もなく海水を全身に被ってしまった。
ギュキュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!
もぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
なんかギュッて来た!全身を雑巾みたいに絞られるような感じキタ!!
あまりの苦しみにのた打ち回る俺。
更に波の追撃!
ギュゥゥゥゥゥゥン!!!!
オギャァァァァァァ!!
俺は必死で陸へ逃げ出した。
はぁ、はぁ……なんて事だ。
俺の体は……海水に弱かったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
こうして、俺はこの島に閉じこめられる事になったのだった。




