ドワーフの国
地下都市に戻ってきた俺は、医務室に送られて魔物から受けた傷を治療していた。
感染症対策に消毒を行い、傷口は治癒のマジックアイテムであっさりと治療する。
その後検査魔法のマジックアイテムで異常がないか確認し、健康体で有る事が分かったら即解放された。
とってもシステマチック。
「君、治療が終わった後で上司に報告に向かう様にとの伝言だ」
医務室を出ようとした俺に対し、医師が伝えてくる。
「ありがとうございます」
医師に礼を言って医務室をでた後、俺は上司に報告する為に執務室へと向かった。
◆
「…………疲れた」
ドワーフの記憶を読んだ俺は、執務室まで大した距離ではないと思って歩いて向かう事にした。
だが、ドワーフの身体は俺が思う以上に貧弱で、半分の距離に到達する前に疲労困憊で壁にへたり込んでいた。
ドワーフの肉体はとても貧弱で、ポニンや鎧を併用して生活するのが当たり前だった。
日々の様々な雑事はマジックアイテムに頼る事で解決し、都市内の遠い場所への移動には、転移装置を使って移動するほどだった。
その光景はある種の未来都市と言えるだろう。
だがその未来都市は便利すぎると言う弊害をドワーフ達に与えた。
身体を鍛える事で優れた身体能力を得て魔法と筋肉でバランスをとったエルフ達と、ひたすらマジックアイテムで利便性を追求したドワーフは非常に対照的な存在だった。
もしかしてそれが両種族がいがみ合う原因だったのだろうか?
まぁ、それはともかく……一旦移動用のポニンの置いてある格納庫まで向かおうかな。
このまま何度もへたれ込みながら向かうよりは、その方がよっぽど早そうだ。
◆
「なんだありゃ」
格納庫にやって来た俺が見たモノは、とんでもない大きさの鎧だった。
目算だが10mは有るだろうか? ドワーフの小柄な身体から見ると尚更大きく感じる。
っていうか巨大ロボット?
「おお、怪我は治ったのか? ドラゴンに連れ去られたんだって? 災難だったな」
などと話しかけてきたのは、ドワーフ達におやっさんと呼ばれている整備主任だった。
「ええ、コンテナごと引っ掛けられてしまいましたよ。幸いドラゴンはルビーに夢中だったんで、物陰に隠れていたらやり過ごせました」
「そりゃあ運が良かったな。いや悪かったのか? まぁドラゴンに殺されなくて何よりだ。あのトカゲ共俺達を目の敵にしてやがるからな」
これがドワーフ達のドラゴンに対する『正しい』認識だ。
相手は力が異常に強いだけの空飛ぶ蜥蜴、自分達の方が優れた生物だと。
国を滅ぼされた現実がある以上、それは悲しい逃避なのだが、なまじ優れた文明を持っている所為で相手の自分より優れた部分を認められないみたいだな。
「所でこのデカい鎧は一体……」
俺が馬鹿デカい鎧を指差すと、おやっさんはうれしそうに笑う。
「おお、コレか? コイツはな、対エルフ用に開発された最終兵器『スサノオ』だ」
「スサノオ?」
明らかにニホンジンのネーミングセンスだな。
「元々複数の部署で分割建造していたんだが今回の襲撃計画が成功した事で上もコイツの実戦投入を決定。んで、一番広い格納庫であるここに集めて最終組立てを始めたって訳よ」
成程、機密兵器って訳か。道理でドワーフの記憶に無い訳だ。所詮前線に出向く一般兵レベルの情報か。 いやまぁ怪しい最終兵器の噂くらいならあったみたいだが。
「井戸を破壊されて守りの全てを失ったエルフ共をコイツで一網打尽にするって寸法だ。コイツの武装を全て開放すれば。あのデカいだけがとりえの森も一瞬で灰にできる。今から楽しみだぜ」
そう言って高笑いするおやっさん。
まぁ確かにこんなデカいもんが実際に動けば、それだけでかなりの脅威だろう。
けど、コレだけデカいと動かすのにどれだけの魔力結晶が必要なのだろうか?
「コレを動かすのにどれだけの魔力が必要なんですか?」
「ん? 魔力か? ……そうだな」
俺の質問におやっさんが考え込む。
「普通に溜めたら……ざっと5年分の魔力だな。魔力結晶ならおおよそ50個分といったところか」
「5年!?」
それってとんでもない魔力量なんじゃね!?
「普通に溜めていたらとても使えたモンじゃなかったが、今の俺達には『井戸』がある。あの無限に魔力をくみ上げる事のできる井戸さえあればスサノオを何体作ってもおつりがくるぜ」
5年分の魔力を文字通り湯水の様に使っていたのか。そりゃあリ・ガイアの魔力も枯渇するってもんですよ。そういやエルフ達も森の結界なんかを常時発動させていたしなぁ。
双方共に魔力の使いすぎだ。
「早くコイツを動けるようにしてやりたいぜ。なにせコイツは俺達の技術の結晶なんだからなぁ」
それはエルフを滅ぼせるから嬉しいのか、それとも自分達の優れた技術を見せ付ける事が出来るのが嬉しいのか、おやっさんは本当に楽しそうだった。
見れば周囲であくせくとスサノオの整備をしている整備員達も、整備用の鎧で顔は見えないが楽しそうな雰囲気ではある。
種族単位で憎みあうとこういう風にゆがんでしまうんだなぁ。
現状、無限に魔力を生み出していた源泉を失ったエルフのダメージは大きい。
普通に闘えばドワーフ達の勝利であろう。
何しろここは天然の地下要塞。更に最新の鎧イカヅチを始めとしたパワードスーツがそろっている。
何よりドワーフ達には無限の魔力を供給してくれる井戸が健在だった。
このまま戦いが長引けばエルフ達に勝ち目は無い。
だが、エルフ達がこのまま何もせずに滅びるだろうか?
そして今の勝利に浮かれているドワーフ達は危機感が薄いのでは?
勝利を確信した時こそがもっとも危険だと、騎士団長であったエイナルを始めとした戦士達の記憶がささやく。
「エルフ共を皆殺しにしたら、次はドラゴン共だ! 俺達を地下に閉じこめやがって!! 俺達が勝利した暁にはドラゴンステーキにして食ってやるぜ!!!」
その言葉がきっかけとなったかの様に、地下都市が激しく振動する。
「何だ!?」
一歩遅れて警報が鳴り響く。
『緊急事態! 緊急事態! エルフが都市内に侵入! 既に第三階層までの侵入を確認したとの事! 全市民は戦闘用鎧を装着してエルフを殲滅せよ!!』
ほらやって来た。
エルフ達の逆襲の始まりである。




