弟子と弟子
魔王四天王、水のマズロズ。
強力な水魔法で攻撃も防御も出来る恐ろしい敵だ。
しかも魔法系かと思いきや接近戦も出来る。
コイツの防御魔法を何とかしないと、味方の魔法援護が防がれてしまう為、俺が相手をせざるを得なかった。
だがそうなると魔法使いとしての本分である後方からの援護が出来ない。
というか、そもそも魔法使いは後方援護が本分な訳で、ボスと一対一で戦うのは勇者とか騎士の仕事だ。
しかしイドネンジアの戦士達は冒険者ギルドの傭兵も含めてそれほど強くは無い。
というかそこまで強い傭兵なら大陸でもっと稼げるからだ。
こんな僻地の島国に居るのは大した力の無いヤツか、何か理由があって大陸から逃げてきたヤツ、もしくは俺の様に気まぐれで来たヤツくらいだ。
イブン達の親兄弟も初級魔法が1つ使える程度なので戦力にならないし、そもそもこの国の魔法使いって何もない所から火が出たスゲー! っていうレベルなんだよな。
今までは魚が美味いだけの僻地な事もあって大した争いが起きなかった。
だから戦士達も時折現れる魔物を退治できる程度の力があればよかったんだ。
それが成立しなくなったのが魔族の襲撃。
彼等がこの世界の住人に対し手当たり次第に攻撃を始めた所為で、イドネンジアも戦場となってしまった。
それでも僻地であった事から魔族の戦力もたいした事は無かったのだが、何故か前回の戦闘で四天王なんてヤツが参戦してきた。
低Lvモンスターと闘ってる冒険開始直後にラストダンジョン付近のボスキャラが現れるようなもんだ。
一体なんでそんなヤツがこんな僻地に?
まさか左遷とか……いやいや幾らなんでもそれはないか。
ともかく、まずは依頼どおり子供達を一人前に育てないとな。
俺は今日も砂浜で待つ子供達の所へと向かうのだった。
◆
マズロズを追い返して数日。
子供達の訓練の為に砂浜にやって来た俺は、先に待っていた子供達の姿を見て手を上げ……
「貴方達、この辺りでバーザックっていう男の人を見なかった?」
地面に伏せた。
ちょっと待って、今誰かスッゴイ知り合いの顔が見えた気がする。
そーっと匍匐前進しながら進んでいくと、メチャクチャ見覚えのある顔が複数居た。
「お姉さん達先生の友達なの?」
生徒達が話しかけている相手は、俺の部下だったNo2少女リナルだった。
そしてその横には判定魔法の使い手のミイナ、それに風魔法使いのタズマにマーカー魔法の使い手マインだ。完全に俺を捜索する為のメンツである。
コレはまずい。
あそこにノコノコと入っていけば間違いなく捕まる。
おそらく先日のマグロズとの戦いで力を発揮しすぎてしまった所為だろう。
それをマインがマーカー魔法で感知して、急いで追いかけてきたと。
まずは状況を確認……
「ちがうわ。私達はバーザック様の妻よ」
何言っとんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
思わず立ち上がって叫びそうになったが何とか我慢した。
コレはアレだ。俺が突っ込みを入れる為に姿を現すのを待っているに違いない。
「妻ってお嫁さんの事!?」
アトラが興味津々で質問する。
「そうよ」
そうよじゃねぇよ。
「達って事はお姉さん達も?」
バルザが危険なセリフを言うが、流石にあの2人はそんな事言わないだろう。バーザックの記憶を思い出す限りあの二人は真面目でパパ大好きっ子だからだ。
「「そうですよ」」
お前達もかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
くそ! 否定したいけど否定できない。どうすればいいんだ!?
「じゃあお姉さん達もネリメアさんと同じなんですね」
「ネリメア?」
イタカの言葉にリナルの目が剣呑なものになる。
「は、はい。先生の奥さんだそうです」
「奥さん」
ヤバイ。
「コレはバーザック様に質問しなければいけない事が増えたみたいですね」
よし逃げよう!
「それで貴方達はバーザック様とはどんな関係なの?」
只の弟子ですよー。
「はい、私達は先生の弟子で、この国を襲う恐ろしい魔族を倒す為に修行をつけて貰っているのです!!」
「っ!……」
イブンの言葉に逃げようとしていた自分の身体が止まる。
そうだ、俺の依頼は子供達を鍛えて魔族と闘えるようにする為だった。
それを放り出して逃げる訳にはいかないか。
「そういえばこの国も魔族と戦ってるみたいだな」
あらかじめ調べておいたのだろう。
タズマが口を開いた。
「バーザック様は魔族を倒しに来た訳じゃなくお前等を鍛えに来たって訳か」
「その通りです!」
「じゃあ俺達の弟弟子と妹弟子だな」
「お兄さんは私達の兄弟子なのですか!?」
何かタズマが子供達と距離近い。
「ああ、俺はバーザック様の一番弟子、タズマさんだぜ!!」
え? 初耳なんですけど。どっちかっつーとお前6番弟子くらいですよ。
「タズマ、誰が一番弟子ですって?」
ほらー、リナルが反応しちゃったじゃないか。
しかし子供達はタズマの言葉に対し、素直に感動して大騒ぎを始めた。
「タズマさんは先生の一番弟子なんですか!?」
「タズマさんは強いんですか!?」
「タズマおにーちゃんは何魔法が使えるの!?」
「私達は何番弟子なんだろう?」
「俺は強いぜー。そして俺の得意魔法は風魔法だ!」
「私と同じだー!」
属性が被った事でアトラが喜ぶ。
逆にイブンは属性が違って残念そうだ。
「タズマ、先生の一番弟子だなんて嘘を付かない!」
俺はこの光景をみてある事を思った。
「コイツ等に教育と四天王退治まかせりゃよくね?」
それは天啓だった。
リナル達に教育と戦いを任せれば俺が姿を見せる必要は無くなる。
つまり尋問されずに済むって訳だ。
俺は急いで港町へと戻る。
「あれ? バーザックさん、4人組の男女がバーザックさんの事を探していたよ」
「知っている!」
通りすがりの傭兵がリナル達の事を教えてくれた。
4人と言う事はここに来たのは浜辺で出会った4人だけと言う事だ。
ならば宿には誰もいないだろう。
俺は即座に宿に戻り、短い内容の手紙を書いてテーブルに置いておく。
そして荷物を持って窓から逃げ出した。
子供達は直ぐに俺の部屋を見つける事だろう。
手紙にはこう書き残しておいた。
宿題
①子供達を教育し、リッパな魔法使いとする事。
②皆で魔王四天王マズロズを倒すべし(敵は手ごわい為、注意する事。仲間を呼ぶべし)
バーザックが世界征服をする為に育てた子供達だ。
全員が集まれば四天王といえど引けはとるまい。
「後は任せた子供達!!」




