反逆の魔法使い
俺の名前はバーザック=ダーム。
リタリア王国の宮廷魔導師筆頭にして、リタリア王国史上最強の魔法使いである。
だが俺の真の目的は、リタリアを裏から支配する事だ!
と、言うのがこの身体の持ち主、バーザックさんの記憶だ。
彼は海賊を雇ってギリギス王家に輿入れする予定だったリタリア王国第3王女を誘拐し、王女の死体をギリギス国と敵対するヴランズ皇国で発見させる予定だったらしい。
ヴランズ皇国はギリギス国と仲が悪く、結構頻繁に小競り合いをしていた。
今は小休止しているが、王女の死体がヴランズで発見されればギリギス国は何が何でも闘おうとするだろう。
さらにリタリアもギリギスに協力しての全面戦争が始まる。
そうなると理性的な連中が戦いを止めるべく動くのではないかと思うだろうが、まず一国の王女が他国で発見されると言う事はその国の関所などの監視体制が甘いという事になる。
コレはリタリアにとって攻撃理由として十分だ。
ギリギスはヴランズと闘うのは何時もの事なので国力的に問題が無ければ喜んで闘う。
しかも今回はリタリアが味方になってくれるので戦争をしない理由がない。
更に第3王女はよく言えばお転婆で、頻繁に城から抜け出して城下町に行き平民の子供達と遊んでいた為に国民の人気は高い。貴族らしく平民を見下したりしないのが人気の秘訣なのだそうだ。
つまり怒った国民が志願兵として戦場に赴く理由が出来るわけだ。
そうなると後はヴランズがどれだけ手を尽くして両国の大臣や貴族達に手を回してもらえるかだが、既にバーザックはヴランズにも手を回しており、ヴランズの密使が城を出たら人気の無い場所で襲う様に指示していた。
そして戦争が始まったら、あらかじめヴランズ皇国の城下町に潜ませていた部下達を動員して、騎士団の主力が決戦場に向かって戦力が落ちている王都を攻略、残った王族達を丸ごと捕らえる手はずだった。
そして宝物庫からバーザックが世界を支配する為の強力なマジックアイテムを回収しつつ王族をリタリアに誘拐してくる。
王族が人質になっていればヴランズの騎士団も動けなくなる為、降伏せざるを得なくなる。
そしてヴランズの王族を捕らえた褒美で貴族となって領地を得る。
それがバーザックの企むリタリア支配計画の第一歩だった。
まぁ、カジキに全て潰されたんですけどね!
バーザックの3年にわたる計画を邪魔してちょっと申し訳ないがお姫様が惨殺されなくて良かったわ。第3王女結構可愛かったしな。
●
と、いう訳でバーザックは証拠隠滅の為に俺達を始末しに現れた。
使ったのは転移魔法、ぶっちゃけゲームで有名なあれだ。
行けるのは一度行った事のある場所か、目印になるマーカーのある場所だ。
今回の場合は、海賊船に置いてあったマーカーを目指して転移してきた様である。
けど今回は海賊達が金目の物を手当たり次第に船から持ち出したから良かったわけで、もしも海賊達が着の身着のままで船を沈めていたら今頃海の底に転移していた事だろう。
運が良かったね。いや、俺に憑依されたのでヤッパリ運が悪かったのか。
まぁ今となっては考えるだけ無駄か。
一旦帰るとしよう。
◆
俺は転移魔法を使って王宮の自分の部屋へと戻ってくる。
バーザックは宮廷魔導師筆頭なので王宮に自分の部屋を用意されているのだ。
まずはリタリアの王宮を見て回ろうかと思ったのだが、妙に身体が冷たい。
なんでかと思ったら全身が血まみれになっていたからだった。
そういやバーザックが魔法で海賊の血を浴びていたっけ。
仕方ない洗うか。
「ウォータープール」
俺は空中に2m近い水の玉を作り、その中に飛び込む。
水の玉は冷たく、俺は水流を調整して水をかき混ぜ始める。
そうやって服に付いた血を洗い流す為だ。
暫く洗ったら水の玉から出る。
「ホットエアリング」
温風の輪を作る魔法で全身を乾かした後、血で汚れた水の玉を灼熱魔法で蒸発させた。
「一応着替えておくか」
洗いはしたが、血の匂いがするといけないので念の為服を着替えて外に出た。
リタリアの王宮は非常に明るかった。
何が明るいのかといわれるとよく分からないが、メリケ国の王宮と比べると随分と空気が明るいかんじがする。
特に理由も無く。王宮をブラブラした俺はリタリアの城下町に散歩に出る。
生前こっちの方には来ていなかったからなぁ。
リタリアは城下町も明るい。
コレは住民の気質の問題であろうか?
場所も良いし。暫くは魔法使いとしてのんびりするのもいいなぁ。
俺は近くの屋台で売っていた串焼きを購入して食べながら散歩を続ける事にした。
その時だった。
「バーザック様。首尾は如何に?」
突然後ろから声が聞こえてきた。
誰だなんていうつもりは無い。
この声の主はバーザックの部下の物だ。
さて、どう答えたもんか。
「奇妙な魚に妨害された。魚は何者かの使い魔の可能性が高い害虫は駆除してある。」
とりあえず部下にはある程度事実を教えておく事にしよう。
「魚を使い魔にですか?」
うん、言いたい事は分かる。普通魔法使いが使い魔にするのは利便性の高い生き物だ。好き好んで使い勝手の悪い魚を使い魔にするバカはいない」
「海の仕事を生業とするものかも知れぬ、暫くは潜め」
「はっ」
部下の気配が消える。
「参った。どうしよう」
新しい俺の新しい悩み。
それは、部下が侵略戦争する気満々だという事だった。




