王都到着
「アレがギリギスの王都か」
遂に俺達はギリギスの王都へとやって来た。
途中何度も盗賊に襲われたが、新兵器【綿剣】のお陰で敵を殺さず生け捕りにする事に成功し、そいつ等からも情報を得る事が出来た。
やはり犯人はリルガムで、俺達からエルダードラゴンの骨を奪えば高値で買うと約束してくれたらしい。
その値段が本当に高値とは思えんがなぁ。
「あそこには美味しい食事があるかしら? モグモグ」
メリネアの興味はその一点らしい。
まぁ人間のおしゃれとかは興味なさそうだしなぁ。
「王都ですから色々な店があると思いますよ」
行った事がないので気軽に美味い店があるとは言わない。
「楽しみだわ。モグモグ」
干し肉を束で口に放り込みながらメリネアが楽しそうに笑う。
いやまて、干し肉はそうやって食うものじゃない。
◆
「其処の馬車止まれ! ……いや馬車か?」
門番が俺達を静止するが、馬がいないのを見て馬車か戸惑ったようだ。
まぁ普通屋根や台所の付いた大八車は無いよなぁ。
「どうかしましたか?」
「うむ、近頃商人を襲って荷物を奪い、商人の振りをして町へ入り荷物を売りさばく盗賊が出現したという情報が入ったのでな。荷物を改めさせて貰う」
そりゃあおっかないね。
「分かりました。確認してください」
「うむ」
何か妙に偉そうな門番だなぁ。
門番は大八車の中を確認する。
「おい、このデカい骨と鱗の山は何だ?」
「それはエルダードラゴンの骨と鱗と牙です。旅の途中、運よく死んだばかりのドラゴンを見つけたので解体して運んできたんですよ」
嘘ではない。食中毒で死んだ所を冒険者に見つけられたのは本当だ。
「ほう。成程な」
確認が終わったらしい門番が俺の下に来る。
「中身は確認させてもらった。お前が犯人だ」
何ですと?
「ボタクール商店の荷物を奪った盗賊が居たぞ!! 捕らえろ!!」
ボタクール商店聞き覚えが……って、リルガムの親父の店の名前か!!
わらわらと現れた衛兵達が俺達を囲む。
「大人しく縛につけ!」
うわー、コレはまた。リルガムが裏から手を回して俺に荷物を奪われたと役人に泣きついたって所か。
だとすれば役人に手を出すのはまずいな。本当に犯人にされちまう。
けど大人しく捕まる手も無いしなぁ。
などと考えていると、俺の前に居た門番が剣を抜いて俺の首に刃を当てる。
「大人しくしていれば殺しはせん、だが抵抗すれば即死刑だ」
異世界の門番さん物騒すぎませんかね?
「勘違いされているようですが、私は盗んでなどいませんよ」
「黙れ、ドラゴンの死体が道端に落ちていたなどと言われて誰が信じるか!!」
ちょっと否定できんわ。
「この期に及んで言い訳をするとは見下げはてた奴め! 仕置きをしてやる!!」
門番が剣を持って居ない方の腕で俺を殴る。
「うがっ!?」
だが龍魔法で肉体を強化した俺には人間の拳など効きはしない。
寧ろ門番の腕の骨が折れてしまった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!! 腕が、腕がぁぁぁぁぁ!!」
「た、隊長!? 貴様抵抗したな! 殺せ、殺せ!!」
いや、俺何もしてないじゃん。よく見ろよ。
だが興奮した門番の仲間達は俺が門番を攻撃したと勘違いして襲い掛かってきた。
「闘うの?」
今まで黙って成り行きを見守っていたメリネアが拳を握って俺に確認をとってくる。
「メリネア様が闘うと間違いなく殺してしまうので何もしないで下さい」
「分かったわ、夫の活躍を見守らせてもらいます。モグモグ」
闘うなと言われたメリネアが干し肉をつまみ始める。
即観戦モードかよ。それだけ信頼されているって事かね?
「死ねぇぇぇぇ!!」
門番の仲間が剣を振り被り襲ってきたので、俺は剣を手刀で叩き折る。
「馬鹿な!? 剣を素手で?」
そして綿剣を軽く横薙ぎで振る。
「ぐはっ!」
門番の仲間が仲間達のいる方向へ吹き飛んでいく。
「まずは話し合いをしましょう。こちらは攻撃されなければ反撃はしません」
「嘘を付くな!!」
「2回とも先に攻撃してきたのはそちらです。それともこちらから攻撃しても良いのですか? その際は誰から攻撃を受けますか?」
次は誰だといわれて門番達が動揺する。
人間自分の身が可愛いもんだ。
「それで、ちょっと聞きたいんですが宜しいですか?」
「な、何だ」
攻撃されたくないのか、少し後ずさりながら門番が返事をする。
チキン過ぎるだろうコイツ等。
「いえね、ボタクール商店の荷物を奪ったとの事ですが、本当にこれがボタクール商店の荷物かどうか確認する必要があると思うのですよ。ですのでボタクール商店の場所を教えて頂きたいのです」
門番達が互いに顔を見合わせて相談を始める。
「連れて行った方がいいんじゃないか?」
「いや犯罪者かも知れん者を王都に入れる訳にはいかんだろう!」
「だが剣を折ったぞ、支給品を壊したら自腹で弁償しないといけないんだぞ」
「魔法か何かを使ったんだろ。全員でかかればいける!」
相談の終わったらしい門番達が俺に向き直る。
全員が僅かに腰を低く落としている所を見ると、交渉は決裂のようだ。
「犯罪者を王都に入れる訳にはいかん。どうしても入りたければ大人しく捕まれ」
そっちでまとまちゃったか。んじゃ仕方ない。
「そうですか、残念ですね。でも、1つ見てもらいたいものがあります」
「今更どんな言い訳も無駄だ」
門番達が少しずつこちらに近づく。
「いえいえ、直ぐですから、ねっ!!」
俺は龍魔法で強化した脚で勢いよく震脚をかました。
まるで地震のような振動が周囲に走る。
「闘うなら、この蹴りを受けてもらいますよ」
俺の足元には決して小さいとはいえないクレーターが出来、その中心から深さ1mはあろうかという亀裂が放射状に20mほど延びていた。
「まぁ待て、話し合おうじゃないか」
門番達は日和った。




