宝石令嬢
エルダードラゴンの尻尾、それを落札したのは昨日の勘違い男だった。
「他に入札者も居ないようですので、私が落札という事でかまいませんか?」
勘違い男がニヤニヤと笑いながら俺に伺いを立ててくる。
何か嫌な予感がするんだよなぁ。
そしてそれは俺だけではなかった。
「ちょっと待ってもらおうか」
商人の一人が待ったをかけると、他の商人達も頷く。
「金貨2000枚相当の宝石といったが、本当にそんな物を持っているのかね?」
つまり詐欺を心配している訳か。
だがそれ以上に気になったのは、この男がそれほどまでに疑われているという事だ。
確かバードナのバカ息子とか言われていたっけ。
「ははは、心配なら貴方達が確かめてみれば良いではないですか。おい、商品をお見せしろ」
勘違い男が命令すると、使用人達がテーブルに箱を幾つも置いていく。
「コレが金貨2000枚相当の宝石の指輪と金貨1000枚だ。好きなだけ鑑定したまえ」
「なんと大きな宝石だ。コレだけの宝石なら確かに金貨2000枚は堅いな」
「いやいや、ちゃんと調べない事には安心できませんぞ」
商人達が部下に命じて鑑定大会が行われる。
「あの男ってそんなに評判が悪いんですか?」
さっき鱗を落札してくれた商人に耳打ちする。
「ええ、ヤツはリルガムと言ってボタクール商店という店を営む大商人バードナの息子なんです。ですが親の力をカサにきて悪さのし放題。詐欺同然の商談を行ったり、脅迫を交えた交渉で無理やり格安の取引を纏める事で有名なのです。恐らく今回も禄でもない事を企んでいるでしょう」
なるほど、絵に描いた様なバカ息子って訳か。
俺は商人に礼を言うとリルガムを見る。
確かに悪事を企んでいる顔だ。
鑑定をする商人達を意地の悪い笑みで見つめている。
●
「異常は見当たりません。本物の宝石です」
鑑定士達が何もおかしな事は無いと断言する。
「馬鹿な、あの男が真面目に商売を行うだと!?」
「ありえん! 絶対に何かやっている筈だ!!」
商人達は今だ疑いの目を向け続けていた。
「鑑定士の方々が不正は無いと仰ったのですよ。これ以上無様に疑えば、あなた方の雇った鑑定士が無能だと証明する事になりますが宜しいのですか?」
「む、むぅ……」
そう言われると彼等も否定の言葉を口にする事はできなくなる。
「文句は無いみたいですね。それでは商談成り……」
「あら、そんな粗悪な品と交換されてしまうの?」
凛とした鈴の様な声が響いた。
「その様な品よりも、私の品と交換しては頂けませんか?」
人ごみの中から一人の少女が現われる。
その少女は真紅のドレスを着ていた。
そして太陽の光が反射してルビーのように赤く煌く髪。
爪はマニキュアでも塗っているのだろうか?オパールの様に透明に輝いていた。
そして真っ赤な姿の中、両の目はサファイアの様に輝いている。
まるで宝石が人間になったかの様な人外の美貌を持つ少女だった。
美少女などという言葉は生ぬるい。
本物の美が其処にはあった。
その場に居る全員がオークションの事を忘れて少女に見入る。
その中で少女だけが何事も起きていないかの様にこちらに近づいてくる。
「この指輪、なかなか面白い事をしていますけど」
少女が指輪を手に取る。
「お、おい君。勝手に触るんじゃない!」
リルガムが少女から指輪を取り戻そうとしたが、時既に遅し。
「えい」
何と少女は、指輪から宝石を無理やり外してしまった。
「なぁぁぁぁぁぁぁ!?」
驚愕の表情を浮かべるリルガム。
「き、君、何という事を!」
流石に見かねた商人達が少女を攻め立てる。
だが少女は何処吹く風。
商人達に宝石を突き出していった。
「よく見て御覧なさい、この宝石中身が空よ」
「「「え?」」」
商人達が宝石に顔を近づける。
「ほ、本当だ、この宝石中身が空洞になっているぞ!?」
「特別なカットを施して光を乱反射させる事で、中身が空洞だと気付けない様にしてあるみたいよ」
「何故こんな事を!?」
「……そうか、分かったぞ! 中身をくりぬいて、もう1つ指輪を作るつもりだったのか!」
「何だって!?」
「普通そこまでするか? 幾ら金の為とはいえバレたら信頼が失墜するぞ」
「いや、その前に指輪を買った貴族や富豪から報復を受けるだろう。もしパーティの最中に指輪が壊れたりすれば、大勢の貴族達の前で恥をさらす事になるんだぞ」
「それをするのがこの男だろう」
その言葉に商人達が納得を得る。
「どのみちこの様な詐欺商品ではとても金貨2000枚は無理でしょうな」
「欲をかきすぎるとこうなるという悪い見本ですな」
「お、おのれ。覚えていろ!!」
醜態を晒したリルガムは捨て台詞と共に逃げていった。
「コレであの男も貴族相手に宝石を売る事は出来なくなりましたな」
「想定外の利益じゃ」
「はははははっ」
商人達が愉快愉快と笑う。
「それではオークションの再開と行きますか。私の金貨2100枚と金貨200枚相当の宝石で皆さん宜しいかな?」
商人達が惜しいが仕方ないといった顔で彼の言葉を認める。
「お待ちになってください。私もオークションに参加させて頂きます」
「お嬢さんが? 悪いが、コレはお嬢さんのような女の子が買える様な物ではないよ」
「私はお金は支払いません。替わりに……」
少女が何処からか真っ赤な板を取り出した。
「それは?」
商人達が一体何かと怪訝な顔をする。
「コレは宝石龍の鱗です」
それは板ではなかった。
巨大なルビーで出来た鱗だった。
「なっ!?」
俺の脳裏に赤いドラゴンの姿が思い出される。
「私の鱗でその尻尾を譲ってはいただけませんか?」
赤に輝く少女が笑みを見せる。
「あ・な・た・さ・ま」




