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天使の微傷~殺人鬼の真実~  作者: 高見 リョウ
とある自殺の話
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1-3

 久米良明がコンビニを出ると、なまぬるく暑さを感じる空気が体中を包んだ。福岡の夏は今年も蒸し暑く、過ごしづらい。コンビニは寒さを感じるほど冷房が効いていたので外に出ると余計に暑く感じてしまう。かけていた眼鏡もその気温差のせいなのかくもってしまった。

 今日も天神の昼間は人通りが多く、街全体があわただしく感じてしまう。久米良明は、人通りが多いところに来ると気分が悪くなってしまうほど人ごみが嫌いであった。自分で東京では生きていけないと考えていたほどだ。この街にいては、一人だけ世界から取り残されてしまいそうである。

 良明が幼いころはほとんど外出して遊びに行ったことはなかった。良明の家は母子家庭であり、母親は仕事が忙しい。良明の母親は元はというと福岡県警の刑事であったが、その後警察をやめて探偵業務を始めた。主に依頼はというと不倫調査、不倫調査、不倫調査の連続で、その手の捜索に関してはとても優れている探偵事務所である。なぜなら、母親が探偵事務所を開いたきっかけが良明に父の不倫であったからだ。

 従業員も5人しかいない探偵事務所の中で不倫調査を多くかけ持ちをするのはとても忙しくなる。というわけで、良明は幼いころよりほとんど外に遊びに行ったことはなかった。

 外出経験が少なく、いくら人混みが苦手だからと言っても大学に行くにはこの街を突っ切って行かなくてはならない。野崎文音との約束があるからだ。

 良明が文音と仲良くなったのは2年前。大学2年生の夏のことである。2か月間、お昼ご飯を食べに行くのを誘い続け、何回目かでようやく仲良くなることができた。

 良明は2人でではなく、同期の何人かでお昼ご飯に行くことを提案していたが、文音が「2人でならいいよ」と言ってきたのは意外なことであった。良明は文音が自分のことを好きなのじゃないかと勘違いしそうになったほどである。しかし、仲良くなった後も文音が良明のことを好いているという言動などは見られなかった。

 良明は文音のことを1年生で大学に入学した時から知っていた。文音は人づきあいこそ悪いがかなりに美人なのだ。良明が1年生のころから知っていたというより、学科の同期の間では文音の美貌は噂になっていた。

 良明は文音とは仲がいいとは思っているが、実のところは文音の家族構成や生い立ちなどは全く知らない。知っているのは、文音の好きな音楽や好きな食べ物、そして現在一人暮らしと言うことくらいである。これは反対によく知っている方なのであろうか。

 良明はそんな文音にけっこう救われている。2年生の前期まで落としまくっていた単位も文音と仲良くなってから落としていない。課題のレポートや試験勉強など学科主席の文音が全てサポートしてくれるからである。

 なぜここまでしてくれるか分からない。もしかしたら本当に文音は良明のことが好きなのかもしれない。たまに良明はこんなことを考えるが、ただ文音がやさしいだけだと考えなおすのであった。

 文音のことをぼんやりと考えながら歩を進めると、良明の右手に大きな建物が見えた。良明と文音が通う福岡産業大学である。

 大学の中に入ると今度はひんやりとした空気が良明の体を包み込んだ。今は涼しいと感じているが、時間がたつとともに今度は寒いと感じてしまうのではないかと考えるほどであった。


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