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「最近の徹也くんになんか変化は?」と服田が早苗に聞くと、「最近は笑顔も増えてきて、今度の夏休みにはデートに行く約束もしました」と早苗は目を真っ赤にして話した。そして、「もうすぐで、夏休みだったのに」と言い、テーブルに顔をつけて泣き出してしまった。
良明がそれを見て、服田と目を合わせた。服田は、もうあの事を言ってもいいんじゃないかとでも言いそうな雰囲気でうなずいたので、良明は自分たちが知っていることを、早苗に教えることにした。
「樋口さん。ちょっと、聞いてくれるかな」
良明の言葉に早苗がうなずいた。
「実は、僕たちはね、徹也くんは自殺じゃないかもしれないって思ってる」
「えっ?」
「だから、その…、君は彼の唯一の見方だったとして、樋口さんが彼を助けられなかった訳じゃないと思うんだ」と良明が言うと、横にいた服田も首を縦に動かした。
「本当ですか?」
「信じてくれないか?俺たちが全部解決してやる」
服田がそう言うと、早苗は何度も小刻みにうなずき、「お願いします。本当のことを教えてください」と言った。良明は、「当たり前です。任せてください」と早苗に伝えると、早苗も涙でぬれた目を、何度も拭い、「お願いします」という言葉を、幾度もつぶやいていた。
早苗と別れた後の服田は、なぜか機嫌が悪そうだった。彼女から、何か重大な証言が聞けるとでも思っていたのであろうか。何度も、「クソ!クソ!」と短い暴言を吐いていた。
「服田さん。彼女が何か手がかりでも知っていると思ってたんですか?」
「まあな。普通、大好きな人が死んだら、カメラに向かってインタビューとかできる神経もったやつ居ねえだろう」
「彼女は、いじめられていた徹也くんの味方になった。自分がいじめられるかもしれないのに。今日も、僕たちのご意向に答えてくれたんです。傷をえぐられるかもしれないのに。樋口早苗は、よっぽど図太い神経の持ち主なんですよ」
服田は「そうか、そうか。うらやましい奴だこと」と無神経な言葉を吐きまくっていた。良明は服田の姿を見ていると、刑事という国家権力は、このようなある意味、人格崩壊者じゃなければやっていけない仕事なのだろうかと思ってしまう。良明が高校生のとき、助けてくれた朝比奈という優しい刑事も居るわけなのだが。
「服田さん」
「なんだ?」
「でも、彼女に話を聞いて、収穫がなかったわけじゃないと思いますよ」
と良明が言うと、前を歩く服田は、「何度と」と言いながら振り返り、良明を睨みつけた。良明は、元刑事を舐めてんのかとでも言われているような感覚に陥ったので、両手を思いっきり開いた状態で、前に突き出しがら話し始めた。
「彼女が1週間前に徹也くんと付き合い始めたというのは、母親の証言とも一致していますよ。しかも、彼女はもうすぐ始まる夏休みに、徹也くんとデートに行く約束をしているんですよ」
服田は、鼻息を鳴らしながら前を向き、再び歩き始める。良明は、自分が何かおかしなことを言ったのだろうかと思った。それか、服田のプライドがやけに高いだけなのか。しかし、服田の口からは意外な言葉が出てきた。
「確かに、お前が言ったことは一理ある。あんなにかわいい女の子とデートに行く約束をして、自殺する奴はそんなにいないだろう」
良明は、あんなにかわいい子っていうのはどうでもいいだろうと心の中で思わず突っ込んでしまったが、「そうですよね!」と口では服田に賛同しておいた。
「でもな、まだそれだけじゃ遺書を覆す何かがいる。このままじゃだめだ。もう一度、徹也くんの持ち物とか調べよう」
「分かりました」
自殺ではないという可能性は高くなっていると良明は感じていた。おそらく、服田も同じ考えなのではないかと良明は考えた。2人は今後、山西徹也の荷物に焦点を当て、死んだわけが、自殺のほかに別の理由があるといった線で調査することに決めた。




