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良明は、服田に従ってその少女に寄って行く。少女がこちらを見たところで、服田が、「君、テレビでインタビュー受けてた子だよね」と話しかけた。少女は突然の出来事に、少し驚いた様子だった。
「ちょっと話を聞かせてくれるかな」と服田は、少女が少し引いていることもお構いなしといった感じで、強引に話を聞き出そうとしている。
「何のことについてですか…?」
「ほら、山西徹也くんのことだけど」
「そのことなら、もう話したくありません…。失礼します」
少女はそう言うと、良明と服田を振り切ろうとしているのか、足早にその場を立ち去ろうとした。
良明は無理もないことだと思った。彼女は友人を突然の自殺で亡くしているのだ。彼女もまた、被害者である。
「ねえ、待ってよ」
服田はまだ食い下がろうとしていた。その服田を、良明は制止しようとして、服田の右腕をつかんでこう言った。
「もういいじゃないですか。傷口を開くようなことしなくても」
しかし、服田は諦めない。「ちょっと待て」と言いながら、彼女の行く先に回り込み、進路をふさごうとした。良明も慌てて、服田を追いかける。
「ちょっと待ってよ。徹也くんは君の友達だったんでしょ」
「だから、もう話したくはありません…」
「徹也くんが自殺じゃないかもしれないとしても」
服田がそう言うと、少女は服田に対しての抵抗をやめ、目を大きく見開き、「嘘でしょ…」と小声でつぶやいた。
「あなたたち、誰なんですか?警察?」
「ああ、警察だ」
突然、服田が自分たちは警察だと名乗り始めた。良明は、「ちょっと服田さん」と服田に食い下がったが、服田が目で合図を送ってきたので、何も言わないことにした。服田さんは、何も言うなというつもりなのかと、良明は考えていた。
少女はその場で座り込んで、「嘘よ。徹也くんは、恨まれること何もしてないわ」と泣き出してしまった。それを見ていた服田は、「良明くん。とりあえず、場所を変えて話を聞こう」と言い出した。
良明は、泣く少女の腕をつかみ、優しく立たせた。
「大丈夫。僕たちは、君の敵じゃないから」と良明が声をかけると、少女は静かにうなずいた。
3人は、高校から少し離れた喫茶店に入った。この店は、服田が刑事であった時から常連だった店らしい。
店内は、良明たち以外に客がいない状況であり、洋楽が流れ落ち着いた雰囲気であった。泣いていた少女も次第に泣きやみ、話ができる状態になってきた。
「それじゃあ、できたらでいいけど、名前教えてくれない」
まず良明は、少女の名前を聞き出そうとして、優しい口調で質問した。少女の口からは、「樋口早苗です」と返ってきた。服田は、「かわいらしい名前だこと」と言いながら、その名前をメモにまとめていた。
「早苗ちゃんね、徹也くんは本当にいじめられていたのかな?」
服田がそう質問すると、早苗は首を縦に動かす。いじめられていたのは本当のことであったようだ。それから、服田の質問は容赦なく続けられた。
「どんな感じでいじめられてた」
「毎日、クラスの仕事、押し付けられてたり、暴力振るわれることもあった。しかも、リンチで…」
早苗の話を聞く限り、いじめはかなりひどかったようだ。良明は、こんなにいじめられていたら、死にたい思いもわかる気がすると感じた。
「それが苦になって、自殺したのかな?どう思う?」と服田の質問は続く。早苗から返ってきた言葉は、意外なものであった。
「そんなこと、ありません。もし、そうなら私は、徹也くんを許しません」
良明は許せないという早苗の言葉が妙に気になった。そして、次のように質問してみた。
「許せないって、どういうこと?」
「死ぬ1週間前から、私たち、付き合っていたから」
良明は、山西徹也の母親が言っていたことを思い出した。確かに、少し前に恋人ができたことを明かしていたのだ。その恋人が、今目の前にいる早苗なのであろうと、良明は感じていた。




