続第一章
私が現場に来た時にはもう、大勢の捜査員達が色々な作業をしている所だった。さすがに5件目ということもあって、お偉いとこから派遣されたであろう人もちらほら見えた。
実際、私が現場に来て出来ることといえば、現場で作業を終えた捜査員に何か手がかりになりそうなものを聞くぐらいだ。私に今出来ることは、特にない気がする。なるべく邪魔にならない様に、現場付近を歩き回ることにしよう。
爆発によって空いた、大きな穴。地獄への入り口の様にも見える、突如人間の住む世界に空けられた穴。私はその周りをぐるぐると歩くことにした。直径何十メートルもの大穴は、普段は地上から見ることの出来ない地下の様子を私に見せてくれた。
もちろん、地下も爆発によって無事では済まされていない。瓦礫が落ちた所には、血の跡も生生しく残っている。事件発生からまだ数時間しか経っていないのだ。もしかしたら、まだ瓦礫の下敷きになっている人がいるかもしれない……。
いや、それはないか。もしそんな人がいるなら、今頃救助隊が忙しく走り回っているだろう。しかし、あたりを見回しても、それらしき人は見当たらない。今、瓦礫の下にいる人間はいないようだ。
歩き回っている内に暇そうな(何か記録をとっている様だったけれど、)捜査員を見つけた私は、彼に事件の手がかりについて聞いてみることにした。
「爆弾は見つかったの?」
彼は迷惑そうに顔をしかめたが、私の質問に答えてくれた。
「いえ、今回もあまり回収できていません。爆弾の残骸も少しは発見したのですが、特に解決の糸口にはなれそうにもありませんね……。」
「死傷者は?」
「負傷者多数です。瓦礫の下に人があまりいなかったこと、場所が高速道路で通行人が少ないのも幸いしましたね。」
これ以上彼の仕事を邪魔するのはよくない。私は礼を言って、また穴の周りを歩くのを再開した。
どうやら死んだ者はいないらしい。こんな穴を空ける様な爆発で死者が出ないのは、奇跡だ。神様がいるとしたら、感謝しないといけない。
しかし人のいない所を狙うとは、どういうことだろう。犯人は人を殺すのが目的じゃないのかしら。爆発させることに意味があるのか……。
これまでの4件も多少は違えど、同じくらい大きな爆発だった。犯人の目的が大きな爆発をさせることだとしたら、場所がある程度絞れるかもしれない。絞れるといっても、大きな爆発なんて起こそうと思えばどこでも起こせそうな気がしなくもないが。
自分で出したアイデアを自分で否定した所で、私は穴の周りに集まった野次馬たちに気付いた。みんな携帯を掲げている。
どうやら穴の写メをとろうとしている様だ。電子的なシャッター音の大合奏が聞こえる。不愉快だ。人が死んでいるかもしれない場所で、非常識じゃないの。
私は注意しようと野次馬に向かって歩き出した。だんだんと野次馬たちの顔が鮮明に見えてくる。やっぱり、若い人が多いわ。これだから最近の若者は、とか言われちゃうのよ。
しかし私の目は、ある人物に釘付けになってしまった。携帯を掲げる野次馬の中で、一際目立つそいつ。
体格からして男なのだろう。背丈は160センチぐらいか。私よりも小さい感じだ。本来なら野次馬の中に埋もれてしまうようなそいつが、目立っている理由。
ガスマスクだ。顔をすっぽり覆う、黒いガスマスク。明らかに異常な光景だ。誰だってこんな街中で、ガスマスクを被った男を見れば不審者だと思うに違いない。
しかし、野次馬たちは目の前の特ダネに夢中で、ちっともガスマスクの男に気付かない。
その男がどこを見ているかは分からなかったが、近づいてくる私に気付いた様だ。くるりと穴に背を向けると、そのまま野次馬の中を歩いていく。
「ちょっと!待ちなさい!」
私はそいつを見失わない様に駆け出した。立ちはだかるのは人で出来た野次馬の壁だ。人が多すぎてなかなか前に進めない。
「警察よ!道を開けて!」
叫ぶ声がシャッター音や喋り声でかき消される。こいつら……、公務執行妨害で逮捕したい。
やっとのことで野次馬たちから解放された。あたりを見回してみる。さすが、東京。人が多すぎてなかなか奴を見つけることが出来ない。逃がしたか……。
いや、見つけた!地下鉄の駅への入り口を降りていく奴の後ろ姿が一瞬視界に入って消えた。急いで私も後を追う。
地下に降りると、地上より多くの人が視界に飛び込んできた。歩く隙間もないぐらいの人、人、人。さすがに多すぎるわ……。
現在、東京の地下は地下鉄に乗る人たちだけの場所ではなくなっていた。数年前から急速に地下の開発が進み、地下に商店街の様な通りが無数に張り巡らされた巨大な街のようになっているのだ。地震の揺れに耐えられる様な設計をどこかのお偉い研究者が思いついたからだとか。
そういうわけで、地下は毎日の様に賑わいを見せているのだが、瓦礫の落下が地下鉄の線路上で起こった為、地下鉄に乗れなかった人達も合わせて今日は特に酷い。これではガスマスクの男を見つけることは困難だろう。
そもそもガスマスクを外されているとしたら、私は顔を知らないので、手も足も出ない。なぜ、あの様な目立つ格好で事件現場に現れたのだろうか……。
犯人は現場に戻る、とよく言われる。あいつがまさか、ね。
結局、この日のシャワーとふかふかのベッドはお預けになった。 それから数日、私は聞き込みや目撃者探しで忙しいことこの上なかった。そのことは、疲れもピークに達していたこともあって、私からガスマスクの不審な男を忘れさせるには十分だった。
もちろん5件目の事件でも捜査はほぼ進展せず、東京の人々は不安な日々をまた送ることになったのだった。
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