第二話 喫茶Tea Coffee
チャイムが鳴り、起立・礼の号令のあと、今度は今年度の委員決めになった。僕は去年と同じ、文化祭実行委員にしよう、そう心に決めていた。
「……じゃあ次。文化祭実行委員!」
勢いよく挙手したのは僕だけ。委員会は二人一組という決まりだが、とりあえず希望したところに漏れた生徒が僕の相方になるということで進んでいった。その様子を見ていても面白くはないのでまた眠ろうとするが、先生の視線がそれを許してくれそうにない。仕方がないので全て決まるまで起きていることにする。
それから、つつがなく全員の所属が決まったので、今日はもうやることがないらしい。各クラスの担任の判断での解散でいいそうなので、田中先生は早々に退散命令を出し、最後の一人――僕のこと――が教室を出るまで生徒たちをせかし続けていた。
学校からの帰り道。早く帰ってもすることがない上に、どうせ昼食なんて用意してくれていないと思い、家より二駅前で電車を降りて、駅前の喫茶店に入った。一年間通い詰めた、もはや常連である。
「やぁヒロキくん。いつものでいいかい」
「お願いします」
中年男性の店長とバイトの男子大学生の二人でやっているらしく、決して掃除が行き届いているとは言い難いが、こぢんまりとした入り口と店内のほの暗い感じが気に入って通い始めた店だ。
「はいお待たせ。いつもありがとう」
バイトの学生さんが運んでくれたのは、『エッグプラントと卵かけサラダ』、『器用さの限界に挑戦、超ミニデコレーションのオムライス』、『コーヒーと紅茶のセット』の三品。ネーミングセンスがおかしい気がしないでもないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。オムライスのデコレーションは一度とて同じことはなかったが、今日のはいつもと感じが違いすぎる。
オムライスを不思議そうに見ていると、バイトのお兄さんが「気付いた?」と微笑んだ。
「今日はなんと、俺がデコレーションやらせて貰えたんだよ!」
「おめでとうございます。念願かなってよかったですね」
彼も以前は足しげく通う常連客の一人だったらしい。が、ある時店長が体調を崩していたところに「手伝わせてください!」と頼み込み、バイトとして雇ってもらったそうだ。デコレーションの繊細さにほれ込み、店長に任されるまでになってしまうとは、なんとも羨ましい限りである。
三十分ほどして食べ終わると、会計を済ませて、見覚えのある制服の女子生徒とすれ違いざまに店を出る。
今日もおいしい食事をありがとう、喫茶Tea Coffee。
同時投稿『キミトマドウ;深谷優子編』もよろしくお願いします。