vii ――宇宙人の事情
〈騒音〉――地球外生命体。〈妖精〉を使役し地球人類を脅かす存在。地球人類と同じ、二つの腕と二つの足、直立二足歩行、身長も人類と同程度、肌の質も地球の哺乳類のそれと同じ。しかし異なる所はそれ以上に数多。緑色の髪、金色の瞳、背中には蜻蛉の様な羽、両性具有の生殖器は隠すことなく顕わにしている。肌の色は白・黒・黄色から緑・赤・橙色まで様々だが、褐色の肌を持つ個体は一つしかいない。
褐色の肌を持つ個体――〈女王〉ただ一つである。
『〈女王〉、件の〈天使〉の存在でありますが、地球軍の連中は何も知らない様子です』
地球人類から〈騒音〉と呼ばれる所以である、人間には雑音としか思えない、ガマ蛙の鳴き声の様な声で、口を忙しく動かし、青色の肌の二メートル近い大柄の個体が、やや小さい褐色の肌の個体・〈女王〉の後姿に話しかけた。蜻蛉状の羽は、青色の個体は小さく折り畳んでおり、褐色の個体は、最大限に、威厳を誇示するように開いたままである。
背を向けたまま〈女王〉は口を開く。
『それは確かか?』
『はい。音声解析の結果からも確定的です。主要国の主要な重役にコンタクトを取りましたが、誰も何も知らない様子です。如何しましょうか……地球に〈天使〉はいないのでは』
〈女王〉は振り向いて、その金色の二つの目で青色をはっきりと見て首を横に振った。
『そんな筈はない。あそこ以外にはないのだ。あそこ以外で可能性があるのは中立国である〈模倣〉だが、あそこが地球に接触したのは十五年前の話だ。まだ〈アレ〉が産まれる前の事だ。〈アレ〉が地球で姿を消したのは――』
『〈女王〉……どうか〈天使〉にその言い方は……』
青色の言葉に〈女王〉は眉間と鼻筋に忌々しそうに皺を寄せた。慌てて青色は両膝をついて、背中の羽を曲げて前に出し顔を覆い、彼ら流の平伏のポーズを取った。
〈女王〉は溜息をつく。
『分かっている、分かっているのだ。〈アレ〉がどれ程の存在であるか、どれ程価値のある存在であるのか……しかし、あってはならんのだ。あの〈天使〉を産んだのが、あんなものであるなどという事は、あってはならない事なのだ』
〈女王〉は眉間に皺を寄せながら、じっと宇宙を見つめていた。
台所のガスコンロの上で、大小の鍋が火にかけられている。エプロン姿の女の子・夏美が、鼻歌交じりに夕飯を作っている。その後ろで直人の母がそわそわと見守っている。
「ああ、奥さま、どうなさったのですか?」
それに気付いて夏美は振り返り近付く。母は何か言いたげにもじもじとしている。
「どうぞ、待っていて下さいな。今日は直人さんと一緒にお召し上がりになれますので」
と夏美は笑顔で対応した。母はもじもじとしながら、やがて諦めたように台所を出て行った。夏美はその後姿に首を傾がせつつも、不意に鳴りだした電話の音に急かされて、火を止めて台所を出た。
「はい、金蔵で……ああ、あ、はい……あ、そうでございますか。……はい。大体いつごろお帰りになりますか? あ、はい。もう少し掛りますか。分かりました。ではもう少しお待ちいたします。……はい」
夏美はごく短めに対応して、電話を切った。やがてふうっと息をついて、
「うーん、もうちょっと掛るかー。……よーし、じゃ、もうちょっと頑張っちゃおっかなー」
と言って元気よく台所に戻った。




