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the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第一章・愚人ども
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v ――守られてます①

 直人はいつもの詰め所に適当に足を運んだ後、すぐに父のいる病院へと向かった。

 直人の心は沈んでいた。医者に父の容体を聞いてから、その父の許へ向かっている途中である。父は、疲労の為に様々な所が侵されていた。一つ治れば二つ悪い所が見つかる。一向に良くなる気配はない。溜息しか出ない。

 完治する事は既に諦めている。諦めてはいるが、もし少しでも良くなればと常々期待している。そして、いつも裏切られている。

 元々あまり体が丈夫でない事を、後で聞いた。それなのに、自分なんかの為に。――

 ぎゅっと臍を噛んだ。病室の前に着いたので、笑顔を作ったが、自然である自信が無い。こんな顔を病人に見せる訳にはいかないのだけど。……

 コンコンとノックをすると、中から父の声で「どうぞ」と聞こえた。ガラガラと戸を引く。父の、こけた頬が見えた。一瞬直人の顔に陰が差す。が、すぐに父の嬉しそうな笑顔が目に入る。それを見て勝手に、直人の顔にごく自然な笑顔が浮かんだ。

 特に取りとめも無い話をした。それだけで体がなんだか軽くなった。


「おいこらしっかりしろテメエ! Dドライブ晒されてえのかオイゴルァ!!」

「精一杯やってますよこんなもんですよ僕なんてこんなもんですよ怒鳴らないで下さい!」

 直人がいつもの仕事場に行くとそんな怒号が飛んでいた。

 聞き慣れた、少年の様な声――直人はそれが女性でしかも年上であることを知っている。

 聞き慣れた、情けない男の声――直人はそれがスズシロよりも立場の高い人間であることを知っている。

 モニターやパソコンがそこらじゅうに配置され、小型デバイスがそこらじゅうに転がっている。中にいる人間は皆一様に白衣を着ていて、いつになく忙しなく動いている。

「おう、直人、来たか。スズシロ先輩はあの通り御立腹だ。コーヒーでも飲んでおけ」

「ああ、〈来徒(クルト)〉さん、おはようございます。どうしたんですか、あれ」

「俺もよく知らん。来たらあの通りスズシロ先輩と〈神室(かむろ)〉先輩が言い争っていた」

 来徒はよく響く低い声でそう言って、こげ茶色の髪をかき上げた。

 平田来徒――ドイツ人と日本人のハーフ。顔が濃い。胸毛とか生えてそう。もてそう。

 神室優――ひょろ長い。なんか特殊な趣味持ってそう。どうやっても絶対にもてない。

「「え、それだけ?」」

「え、ど、どうしました? なんの話ですか?」

 二人の訳の分からない非難にコーヒーをこぼしかける直人。二人とも言った後、何がなんだか不思議そうに首を傾げる。スズシロは直人にようやく気付く。

「ああ、直人、実はお前用に新システムを用意していてな、それで試運転と思ったのだが……予想以上に時間がかかっていてな。すまんが今日中に出来そうにない」

「あ、そうだったんですか」

「本当にすまん、私の所為だ。予めこいつらとよく話し合っておくべきだった。今日の所はお前の出番はないんだ。無駄足させてしまって、本当に申し訳ない」

 スズシロは済まなそうな顔で恐縮し頭を下げた。そんな事をされると直人の方が恐縮する。

 病室でされた横暴を忘れそうになる。直人はぶんぶんと首を横に振る。

「いえ、いいんです。……それにしても、どうしたんですか? 急にシステム変更なんて」

「いや、この間の戦闘で、お前の動きで気になることがあってな。もしやと思って、試して欲しいことがあったんだ。もしかしたら少しでも良くなるかもしれないと……」

 しかもどうやら自分の為を思ってやってくれたらしい。少なくとも、あの戦闘での不甲斐なさは自分の所為であるのに。病室でされた横暴を忘れそうになる。先日の言い争いが思い出される。これだけやってくれている人に、何を子供みたいに騒いで。病室でされた横暴を忘れそうになる。直人は反射的に「ごめんなさい」と謝りそうになったが、謝られている方が謝ると不毛な時間が際限なく続きそうなので、何とか飲み込んだ。

「で、私はすぐに別の用が出来てしまって、行かなくちゃならなくなって、それで……」

「分かりましたから、行っちゃってください! 僕の事なんか気にしないで!!」

 何度も頭を下げるしおらしいスズシロを宥める様に・諭す様に追い立てた。


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