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the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第二章・死にたくなけりゃ、さっさと戻れ
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xxx――さてさて、どうしたものやら

「ええっと、これはどうすればいいんでしょうか?」

 椅子に座った私服姿の直人は、いくヱ、スズシロ、結衣菜、ロジャー、ミア、その他大勢を前に、堂々と絡みつく翼の生えた少女を指差した。少女は差された指を何故かぱくりと咥えた。

「……何故?」

「うに?」

 少女は不思議そうに首を傾げた。いや、なんでそっちがそんな顔するの? こっちでしょ。

「凄いな、日本では半裸の少女に抱き付かれても問題ないのか」

「いや、大問題ですよ、普通は……」

 ミアは結衣菜に突っ込まれた。

 因みにロジャーはすぐに病院送りだった。その搬送の際ミアは付き添ったそうだ。どうやら仲良くなったらしい。喜ばしいことの筈ではあるが、今の状況ではそれさえも腹が立つ。『あんたら単純だな』と言いたくなる。言わないけど。

「……こうもごろごろと懐いてるんじゃ、子供っていうか、まるで猫だな」

 スズシロは少女に触れようと手を伸ばすと、眉をしかめ如何にも嫌そうな顔で抱き付いたままぐるりと避ける。スズシロはその所作にイラッとし、無理矢理掴もうとした所を、ガキリと噛まれた。

「痛ッ!!」

 とスズシロが手を引くと、べーっと舌を出し、直人は自分の所有物だと言わんばかりに抱きよせて、頬に頬を寄せた。スズシロは涙目で睨みつける。

「……へえ、いい度胸じゃないか。……だが、私を本気で怒らせるなど、あまり褒められたものではないな」

「子供相手に本気にならないのッ!!」

 神室が溜息交じりの情けない声でスズシロを注意。

「でもさー、この子、どう考えても人間……っていうか、地球人じゃないよねー」

 スズシロらの後ろで、背もたれを前にして座る背の小さい男が気楽に非常識な事を言いだした。非常識だが、そう思わざるを得ない。地球広しといえど羽の生えた人間など誰も見たことないし、この少女が現れた時の、敵側の反応が何より気になる。因みにこの男は戦場にて軽口を叩き隊長に軽く怒られた者である。

「……どうすんの?」

 全員が黙った。どうすればよいかなど、もとより誰も分からなかった。不図いくヱが近寄って、そして直人を前にして屈んで視線の高さを少女と同じにし、作り物っぽい笑みを浮かべた。

「ねえ、あなた、どこから来たの?」

「ん? うーんと……ワカンナイ?」

「……ねえ、あなたひとりでいたの? 誰か、そうね……親とか、保護者とかはいないの?」

「オヤ? オヤ……ワカンナイ。デモ、ヒトリジャナカッタ。くらーくッテヒトトイタ」

「クラーク?」不意にいくヱは眉をひそめた。「その人は、今どこに?」

「ワカンナイ……サッキマデイタケド、ハグレタ……」

 少女はしゅんと項垂れた。いくヱは微笑んで、優しく頭を撫でた。それを見て来徒が、

「うーん、主に目が怖い。笑いながらもまんじりと探っていやがる。表面では温もりを表現しながらも、瞳の奥では冷静沈着に次の手を考えている……!!」

「聞こえていますよ」

 そっと呟くのを、いくヱは逃さない。しかしスズシロもいくヱの表情の機微を見逃してはいなかった。面白い事でも見付けたかのごとく、にやにやと厭らしい笑みを浮かべ、

「で、どうするんでしょうか? 安藤さん。何なら私めが上にご報告申し上げますが?」

「……いえ、こんな些細な事をいちいち報告する義務はありません」

「些細な事を!? ほー、へー、へー、そうですかそうですかー。そんじゃあそうしておきましょうかー。さてさてー、じゃあこの子はどうしましょうかねー。正体不明の生物を誰にも報告することなくここに置いておくってわけにもいかないでしょーねー。でもまさかいたいけな少女をほっぽり出すなんて鬼畜行為をするわけにもいかないでしょうけどー」

「……あなた、何が言いたいのです? 何を企んでいるのです?」

「企んでるなんて、まさかー。私はただですねー、直人君の家にこの子を預けちゃえばいいんじゃないかなーって思っているだけですしー、今提案しちゃったわけですけどー」

 にやりと不敵な笑みを浮かべて直人を睨んだ。標的はあくまで直人だった。


 どうしてこんな提案が通ったのか?

 どうしていくヱは、

「ああ、それはいい提案ですね」

 なんて言ったのか?

 おかしいでしょ。

 スズシロ先輩さえもきょとんとしてたじゃない。

 ねえ、教えて神様。

 直人の車に、スズシロといくヱとミアと結衣菜と、助手席には羽の生えた(適当な服を着せた)少女を乗せて、訳も分からず家路についた。

 というか、なんでこのメンバー?

「ハーレムルート突入か? しかし年齢の上下が激し過ぎる。マニアックにも程があるぞ」

「人生にリセットボタンが無いって学んだばっかりでしょうが」

 ルームミラー越しに見えるスズシロのにやにやした笑顔。いくヱはじっと窓越しに外を見て何かを考えている様子。ミアと結衣菜は何やらこそこそと話している。

「よかったのかい? 親御さんは心配しないかい?」

「ええ、大丈夫です、ちゃんと連絡は取りましたから。それに……むしろ私は直人さんの方が心配ですので」

 ああ、結衣菜さん、ありがとう、あなたはなんて優しい人だろうか。――

「結構押しと誘惑に弱いから、ちゃんと見張らないと」

 ――……ああ、神様、僕は何か悪い事しましたか。――


 ブロロロロとエンジン音を響かせて、家へと着いた。陽は既に暮れかかっている。

「着きました」

 と言う前にドアを開けて我が物顔で颯爽と出たのはスズシロで、溜息をつきながら直人が続いた。そしていくヱが出て、シートを倒し奥からミアと結衣菜を導いた。

 あ、男ならそういう事もしないと駄目なのかな、などと思いながら二三歩行った所で……褐色の少女が車の中から不思議そうな瞳で直人を見つめ、首を傾げた。

 ああ、そうかと納得し、助手席に周りドアを開けると、中から元気よく飛び出して、ふふんっと得意げに笑った。偉くも何もないのだが、ただ何となく、

「おお、いい子いい子」

 と頭を撫でた。少女はくすぐったそうに頬を染めて、羽を(服の背中を切りそこから羽を出している。そして何よりこの羽、かなり小さく畳めるようになっているようだ。それでも流石に人目にはつかれたくないが)ぴょこぴょこと揺らして喜んだ。――

 と、丁度そこへ夏美が元気よく玄関を開け、

「直人さん、お帰りなさい。ご無事で何よりでございます。お母様が心配していらっしゃいます、どうかお顔をお見せ下さ――」

 そこで絶句。

 考えてみれば当然である。夏美は見た、すらっとしていて可愛らしい女子高生と、ナイスバディな黒人女性と、何やら得体の知れない小難しい顔をした年上女性と、にやにやと厭らしい笑みをたたえる小さな女性と、翼の生えた少女……と、それを撫でる直人を。

「あ、え、えっと、あのね、これはね、えっと、なんていうか……」

 何とか説明しようとするが、言葉が出てこない。一応車の中で言い訳を考えていた筈なのだが、夏美の顔を見たら一瞬でその言葉が四散してしまった。

 ……というか、この状況である、そもそも理解させようというのが無理である。

 しかし、当の夏美は、スズシロが言う所のハーレムを素知らぬ顔で突っ切って、真っ直ぐに褐色の肌の少女の前に足を運び、何と、その場に(うずくま)り、片膝を付き、

「お待ちしておりました、〈天使〉様」

 厳かに、地に(ぬか)()かんばかりに頭を下げた。


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