表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第二章・死にたくなけりゃ、さっさと戻れ
38/48

xxv――予定通りだよ

「……これでも、駄目だっていうのか」

 水平線を睨み続ける直人。少し遅れて結衣菜からの通信が入る。

《〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉五分の一消滅っ! ロジャーさん、蓄電率六十六%です、そのままの状態で待機して再装填(リロード)です。直人さん、即座に続いて下さい》

「了解、万能重用型〈突偽〉、装置主題(システムテーマ)・〈(ジン)〉展開、陣形・〈(レイ)〉展開許可を」

《了解、〈(レイ)〉展開要請……了承》

「了解。おい、外道ッ! てめえらゴミ屑を、この僕が涅槃(ニルヴァーナ)に導いてやる、ありがたく思え、その足りない脳みそで精一杯感謝しろッ!」

《いつも通り、か……》《慣れないなぁ……》《何が彼をこうさせるのですか》《知らん》

 直人は不敵に笑い両手を前に突き出すと、その体に巻き付く緑の蛇がのそのそと苦しそうに這いずり回り、べりべりと体から離れ、真ッ直ぐに天に昇って行った。その先で、飛散し、空の色と交じり合ったかと思うと、空には七色に光り輝く巨大な球体が現れて、それがゆっくりと敵陣めがけて飛んで行った。

 敵の群はお構いなしに突っ込んで来る。

 やがて、〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉とその球体とが重なり合う。するとその七色の球体は縦にびよんと伸びて、中心がねじ曲がって、バチンと切れて二つの球体に分かれて、その間をばちばちと電撃が走り、やがて左右に広がって、辺り一面に電流が蜘蛛の巣の様に広がり、群を襲った。

 雷が走り、落ち、覆い、ばりばりと敵の群を無残にも食らい尽す。

 水平線は、ロジャーと直人の絶え間ない攻撃によって水蒸気がもくもくとたちこめいる。

 が、それもすぐに強風でかき消される。

 その晴れた先にあったのは……殆ど量の変わらぬ〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉の群である。

「分かっちゃいたけど、堪えるなぁ……」

 自然、直人の肩が下がる。そこにスズシロの慰めるような声が注ぎ込まれる。

《直人、目視じゃ分からんだろうが、初めの規模の三分の一にまで、ちゃんと数は減っている、安心しろ。それより、お前の蓄電率は三十二%だ、そのままでは危険だ、一旦下がれ。ミアが迎撃にまわる事になるが……決して焦るなよ。何度でも言う。ある程度の侵攻は想定・許容している。ロジャーも、送電量を上回る行動は厳禁だ。必要最低限度の助力(サポート)に徹しろ。いいな》

「《《了解》》」


《〈突偽〉使用認可はまだですか!?》

 スズシロらの許に届く、聞き慣れない男の太い声。

 すでに街に待機している〈突偽〉装備の五人の増援部隊。全身を纏う黒いタイツは、しかし今のままではただの珍妙な仮装衣装(コスチューム)でしかない。許可が下りなければ、彼らに電力を送電し、その〈突偽〉の機能を備えることが出来ない。これは決してスズシロらの融通が利かないからではなく、また罰則を恐れているわけでもなく、プログラムとして始めからそう組まれているのである。

 超法規的措置が出来ないように、予めしっかりと統制されているのである。

 スズシロらも、事実焦っていた。街の崩壊どころか、今のままではここ避難所の豊橋さえも危険にさらされることとなる。

 ――まさか……見捨てられた?

 いや、そんな筈はない。と全力で首を振って必死に否定する。単に情報がうまく伝わっていないだけだ、問題は無い(それはそれで本来なら大問題なのだが)。ずれた眼鏡を直す。

「まだだ。しかし……しかし心配するな、時間はある、前線のやつらが頑張ってくれている」

《……了解》

 人一人存在しない、取り残された僅かな犬猫と共にいる、静寂が隅々まで支配するこの街で、寂しく佇む五人を特に根拠のない声援を送った。


「獣攻型〈突偽〉、ミア・ミラーッ! 行くぞッ!」

 ミアはスズシロの言う通り、距離を取りながら敵を引き寄せて、両手から伸びる長い爪でもって、少しずつ落としていった。

 蜘蛛の巣状の焦げ茶色の模様が黒の体に刻まれている。跳躍し、躍動し、動乱させ、乱舞する。動作と共に乱れる長い黒髪、自在に動く長い手足、その姿はあまりに凄艶で、世界観のそもそも違う宇宙人達でさえも魅了しているかのようだった。だが、だからといって相手の攻撃の手が緩むわけではない。ミア自身に少しずつだが疲れが出て来た。

 それを目ざとく見つけて、戦闘中には珍しく苛々した面持ちで見つめるロジャー。

「俺の装填率は!? まだ前に出ちゃいけねえのかッ!!」

 声にも焦りが感じられる。スズシロはその機微に違和感を覚えつつも、その事に思考を傾ける余裕はない。

《何度も言うが落ち着け。蓄電率は七十五%まで回復している》

「十分だろう!」

《不十分だ、不安定だ。八十二%まで我慢しろ。無駄に焦って事を仕損じる方がコトだ。それに〈妖精(スプライト)〉が迫っているんだ、その時に力が残って無いんじゃただじゃ済まんぞ》

「くッ……!」

 遠くミアの姿は、力強く動いてはいるものの、矢張り多勢に無勢、じりじりと距離を詰められる。肩で息をするその姿を、ロジャーは狙撃で助力しつつ、やきもきしながら見守っていた。

 やがて敵の集団は海岸線にまで押し寄せる。そしてロジャーは一時海岸を離れ、ミアも少し敵と距離を取り、息を思いっきり吸って吐き出し、肩の力を抜く。

「ユイナ、〈(ジン)〉展開許可をッ!! 獣攻型〈突偽〉、陣形・〈(カイ)〉!!」

《了解、〈(カイ)〉展開要請……了承》

「よし、〈(カイ)〉展開!!」

 ミアの体を覆う焦げ茶色の蜘蛛の巣模様は、水色へと変色し、全身を、指の先に至るまで血管の様な不気味な網目模様へと変化した。そして前傾姿勢になって、

「〈(カイ)〉、発動ッ!!」

 と叫ぶ。

 背中から釣り針型の青い金属質な翼が生えて、瞳まで藍色に染まった。

 ぎりりと歯を噛みしめて、膝を曲げて、跳躍。

 速さが、鋭さが、間合いが、先程までと段違いだった。

 ミアがぴゃっと通った(くう)には、ぽっかりと穴が開いた様だった。螺旋状に細かく切り刻まれた〈(ヴァル)(ガー・クラウド)〉は、無残に、びちゃびちゃと音を立てて一斉に海に落ちてゆく。ミアはお構いなしに、ただただ一陣の風になって、嵐の如く、ただの破壊そのものになって、四方八方に乱舞する。その途方もない、圧倒的な殺戮の前に、感情のあるかないか分からない〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉でさえもたじろいだ。見惚れているかのようでもあった。

《〈(カイ)〉収束まで残り二分だ……応答しろ……聞こえているのか! 応答しろミアッ!!》

「――はい――」

 苛立ちを抑えきれないスズシロに、冷静に、無感情に生返事を返すミア。

 ――もう少し、もう少し――

 制限時間はおよそ五分間、それを過ぎれば途端に木偶の坊になってしまうかもしれないと言う、何とも危険な攻撃方法であった。

 が、しかしミアは少しでも、一匹でも多く殺す為に、ぎりぎりまで粘る気でいた。目まぐるしく動き回るミアの、その視界では、風景が、敵が、目まぐるしく上下左右に動きまわっていたが、心臓だけはとくんとくんと静かな音を立てて、一定の速さを保っていた。

《――――ッ!!!》

 頭の中でスズシロの声で何かが聞こえた気がした。

 と、突然背後から何者かの気配、間もなくその気配の主が到達。

 ロジャーの放った弾丸である。それは、敵に当たることなくミアの周りすれすれを通り、海に尽きていった。怒りの形相で「何をするッ」と言おうとしたその矢先、

《ミアッ!! 聞こえないのかッ!! 早く戻れッ!! 残り二十秒を切っているぞッ!! 死にたいのかッ!!》――脳内に響くスズシロの怒声。

 そこでやっと我に帰り、

「了解」

 戦闘を止めて、急いで出来るだけ後方に後退する。


 スズシロは、いつもとは勝手の違う臨時の指令室で、大きく安堵のため息をついた。へたり込みたい気分を押し退けて、しっかりと己の二足で地面を踏みしめて、画面(モニター)を凝視する。

「結衣菜、蓄電率の報告を」

「はい。ミアさん・二十七%、直人さん・六十七%、ロジャーさん・七十九%です」

「……増援許可は?」

「まだ……」

「……分かった。直人はそのまま、そしてロジャーは直人の許まで下がれ。そしてミア、お前は……街の北側まで下がって待機だ。そこで再装填(リロード)の後、迎え討つ」

 街を捨てる。――

 改めて覚悟を決める、直人らの前線と、指令室の一同。

《《《了解》》》

 各々の思いのこもった返答がスズシロらの許に届けられる。

 そしてスズシロは、

「後方部隊に回線を切り変えろ」

 と指示。

《スズシロ上官……》

 聞き慣れない男の声が、指令室内に虚しく響く。

「……車で街の北側に移動だ。そこでミアと合流しろ」

《……了解》


 いくヱは一人電話に向かって、怒涛のアメリカ英語で、ヒステリックと言える程に語気を強めながらまくし立てていた。

「何故だ、何故許可が下りない!? 分かっていないのか!? ただでさえ街が一つ犠牲になっているというのに、このままでは別の街にまで、下手をすればあり得ない数の死傷者が…………そんなこと知ったことか!! 何故許可が下りないかと聞いているッ!! 人の命をなんだと思っているッ!!…………何度も言わせるなッ! 報告の通り今の戦力だけでどうにかなる規模じゃないんだッ!!」


 或る青年が、腰かける碧眼白髪の老女の前に立って、一礼した。

「ミセス・クラーク、〈突偽〉使用者増員要請がニュージャージー、キューバ、日本から届いておりますが……許可しなくってよろしいのですか? このままでは一般人にまで死傷者が出てしまいますよ? ともすればあなたの進退問題にまで発展する可能性が……」

「〈ヤン・ツォーレン〉、何度も言ったでしょう、普段からミスやミセスではなく〈ミズ〉を遣いなさいと。でなければ正式な場で口を衝いて出てしまいます」

「はい、失礼しました、ミズ・クラーク。しかし、今はそれどころではありません」

「分かっています。しかし〈静穏(サイレンス)〉側からの要望です、粘れる所まで粘りなさい」

「いえ、そうはおっしゃいますが、特に日本は人口の多い都市が隣接しているらしく――」

「日本?」

 ヤンの言葉を聞くと、アンニ・クラークはあからさまに馬鹿にした笑みを浮かべた。

「あそこ程扱いの簡単な所はありませんよ。右であろうが左であろうが、適当に評価して適当に箔を付けておけば勝手に満足してくれます。やつらが、何を出来るというのですか、どうせ何もできないでしょう。いつまでも我々を追従することしか出来ないのです。多少の犠牲なら目を瞑るでしょう。……それどころか許可申請をありがたく思われるかもしれませんよ」

「……そうですか。ではおっしゃられた通り、粘れる所まで粘ります」

 ヤンは仰々しく一礼して、ドアを開けて廊下に出た。

「……ふん、強欲ババアめ、こっちが拾われモンだと思って、恩に着せやがって、勝手に人をてめえの右腕扱いしやがって、ふてぶてしいにも程がある。あんまり()()ってっと足元が見にくくなるぜ」

 忌々しく一人呟いた後、不図立ち止って気付いた様に首を傾げた。

「そういや、ロジャーの奴日本に行ったんだよな、どっか忘れたけど。……大丈夫か? まァ、あいつのことだ、多少殺しても死なんだろうが」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ