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the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第二章・死にたくなけりゃ、さっさと戻れ
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xvi――正しい戦争の仕方

静穏(サイレンス)〉――地球外生命体。〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉を使役し地球人類を脅かす存在。人間と同様の、直立二足歩行、二つの目、それぞれ二つずつの手足、一つの鼻と一つの口、大体構造も人間のそれと同じ、であるが、耳が無い、皮膚が輝く程白い、体毛が青い、等の違いはある。そして彼ら〈静穏(サイレンス)〉は目立った個体差というものが無い。〈静穏(サイレンス)〉ひとりひとりの違いは人間では判別できない程に小さく、知能・運動能力に至るまで、ほぼ皆同程度の能力を備えている。

 結果、〈静穏(サイレンス)〉は、個人個人の生まれ・才能に人生を左右されない、完全に平等な社会を形作った。平等ではあるが、しかし年功序列の社会である。一分一秒でも長く生きた方が偉いのである。歳を取った者程尊敬を集め、年上の命令に逆らう事は並大抵のことではない。だからと言って彼らは、年下を戦争に駆り出させる様な真似はしない。〈静穏(サイレンス)〉は同種には慈悲深く、またそんな事をして未来のある若者たちを無駄死にさせてしまえば、自分達の種族に未来を失う事を分かっているのである。また個体差が無い為に、誰を戦争に連れていけばいいかという指標がまったくない、という事情もある。何にせよ〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉という強くて異種である便利な化け物を操ることが出来るのだから、その必要はないのである。

 そんな〈静穏(サイレンス)〉の二人が、白い壁と大きな窓しかない宇宙船の人部屋で、向かい合い、その〈静穏(サイレンス)〉の名のもととなった、音波でも電波でもない、人間には聞く事も観測する事すら出来ない、特別な信号で意思疎通をしている。

 ――首尾はいかがかな。

 色々のひし形模様の刺繍された、派手なポンチョの様な服に包まれた〈静穏(サイレンス)〉が、簡素な赤の格子模様の服を着た〈静穏(サイレンス)〉を前にして、赤の派手な椅子に腰かけている。件の通り、この二人は見た目も背格好も同じで、服装以外には見分けがつかない。

 ――はい、大老様の勅命通りに、第六十七島、第八十二地区、七十七地区、五十二地区、三十四地区、三十二地区、九地区に〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉大量派遣の後、波動の収束を測定した結果、八十二、七十七、三十二に〈妖精〉の陽性反応……駄洒落じゃありませんよ? 念の為。

 ――……最近の若者は年寄りに対する態度がなってないな。私の頃であったら考えられん事だ。

 言葉の通り、この派手な方が年上である。年下はやれやれとでも言いたげな風に溜息をついて首を横に振った。見た目こそ異なるものの、仕草は人間のそれとよく似ている。

 ――はいはい。それで、いかがいたしましょうか?

 ――はい、は一回。……しかし、そうか。三つまで絞ることが出来たか。案外速かったな。

 ――いやあまったくです。優秀な若者達のお陰ですよ。

 ――分かった分かった。まあとりあえず、一つに絞り込め。〈蟲〉の数を増やしてもいい。

 ――よろしいのですか? なんか地球側と約束事がありませんでしたっけ?

 ――構わん。あいつらじゃ、せいぜいぴーぴー文句垂れるのが精一杯だ。

 ――いえいえ、あんな奴らどうでもいいんですがね、問題は〈騒音(ノイズ)〉ですよ。必死になって奪いに来るんじゃないですか? っていうか元々〈騒音(ノイズ)〉のモノですし。

 ――あいつらとしちゃデリケートな問題だ。あんまり外に出したくないし、大事(おおごと)にはしたくない筈だ、〈天使〉の事はな。それに、今回生まれた〈天使〉はイレギュラーな存在だと聞く。益々大きく動けん。

 ――それならいいんですけどね。……でもそれって〈模倣(イミテーション)〉から聞いた情報でしょう? あんなやつらなんかを、おいそれと信じていいものでしょうかね。

 ――駄目に決まっとる。

 ――え、マジ?

 ――もっと言葉づかいをだな。……まあいい。おいそれと信じちゃならないのは、普段の事だ。今回は例外だ。奴らが我らに〈模倣(イミテーション)〉が情報を送って来たのは、要は我々をけしかけて有利な方向へコトを導きたいのだろう。大方〈騒音(ノイズ)〉と我々を交戦させたいって算段だ。

 ――ふーん。いいんですか? 随分乗ってあげてるみたいですけど。

 ――勿論良くはないさ。今の内だけだ、素直に奴らの思惑に乗ってやっているのはな。

 年上は人間と同じ仕草で、にやりと口元にいやらしい笑みを浮かべた。

 ――それを聞いて安心です。……しっかし、〈模倣(イミテーション)〉もおかしな奴らですね。我々や、〈騒音(ノイズ)〉だの〈地球〉だのと違って、やつらには闘争の理由なんて無いでしょうに。

静穏(サイレンス)〉はその徹底的な無個性と、彼らの住む星の豊富な資源(リソース)により、豊かでかつ絶対的平等の社会を作り上げた。しかしやがて恵まれた社会が形作られ、自然災害ほぼ完全に防ぎ被害を零にまで下げ、また天敵を退けると、次第に科学の発展に支障を来たした。

 だが、資源(リソース)に無限はあり得ない。科学技術は日々進歩しなければ、種・文化・文明の存続はあり得ないのである。

 この科学技術の頭打ちの原因は明らかで、彼らの好奇心と情熱が地球人類等他の生命体に比べ遥かに少ないからと、そして彼らは〈静穏(サイレンス)〉内での競争というものを極端に嫌っているからである。故に彼らには、他種族との闘争がどうしても必要になったのである。

 やけに熱り立つ年下に向かって、年上は肩をすくめ立ち上がり、

 ――さあな、それもいろいろあるんだろ。別におかしなのは〈模倣(イミテーション)〉だけじゃない。

 振り向いて年下に背を向け、つかつかと窓の側に歩いた。

 窓の外は、決して何ものにも照らされることのない真ッ黒な『無』と、その無を埋め尽くさんと、星と瓦斯が狂騒した様に爛々粲々(さんさん)と光り輝き、我を見ろと競争し、色鮮やかに協奏している。

 ――〈地球〉だって馬鹿ばっかですもんね。なんですか、同種で殺し合って、狂ってる。まあ〈騒音(ノイズ)〉程ではないですけど。あいつらの発想は斜め上を行きますからね。あいつらは、なんていうか『奴隷』とか言うんでしたっけ? 何でもかんでも己の欲望の為に同種を好き勝手使うの。もうね、吐き気を催す。

 ――ま、そう言うな。『大事な戦争相手』だ。あいつらも我々を利用しているが、我々もやつらを好きなだけ利用させて貰うさ。やつらが居ん事には、我々もなかなか発展が出来んからな。


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