xv――憎しみ
ロジャーは何故か昨日ぶつかって来たオヤジと同じ作業服を着て、何故か軍の制服を着て直立するミアに対し、ぐるぐると周りを回りながら偉そうに罵詈雑言を吐いている。悔しいし何とか反撃したい。それなのにミアは決して動けないでいる。
「いいか、俺は公平だッ! 人種差別は許さんッ! 黒人、白豚、イエローモンキィー! 俺は区別しないッ! いいか、――女は、――全て、――平等に、――価値が無いッ!!」
「うがぁああああッ!!」
ミアは布団を引っぺがして勢いよく起き上がった。
はあはあと肩で息をする。
夢であることが分かり、騒いだ自分が恥ずかしくなり、布団を出て洗面所まで歩き、顔を洗う。
そして窓を開け、服を、下着ごと全部脱ぎ棄てて、夢の出来事を打ち遣るかのように、真ッ黒で瑞々しい肌を朝の寒々しい空気に晒した。勿論窓の向こうには誰もいないことはわかっている。
そして不図思い出した、昔の記憶。
十五の頃付き合っていた白人男性の事。自分より背が小さくて太っていたが、頭がよく性根の優しい、穏やかな尊敬できる人だった。
しかしミアの集郡は彼と付き合う事を良しとしなかった。時にミアの事を裏切り者と誹った。性格の不一致から分かれた時の『それ見たことか』と言いたげな視線が、心に深く残った。
以来、そんな社会を抜け出したくて、必死に勉強した。
ミアは、決してロジャーの言う様な『恵まれた人間』ではない。努力は見事に実り優秀すぎる成績を修め、国の庇護を受けフランスの大学に留学した。望みが叶った。
――不図頭に擡げる、微笑んだ両親の顔。
いや、電話でも話すし、定期的に帰る事もあるし、決して懐かしい訳じゃない。第一今では両親ともに、もと居た所とは別の、所謂高級住宅に住んでいる。
それでも思い出したのは、子供の頃いた、貧乏な住処である。
……あれだけ抜け出したいと願い、忌み嫌っていた故郷。それなのに今ミアは、遠いこの地で、かの国の、かの社会を、少しだけ、確かに愛おしいと思ってしまった。




