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the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第二章・死にたくなけりゃ、さっさと戻れ
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iv――大人って何だろう

 何があろうが時間は過ぎる。

 敵襲をいつも通り観測。

 規模は未知だが、最近では大規模の襲撃が当たり前になっている。

 燦々と輝く太陽と眩しい海を正面に見据え、直人は丘に立つ。その丘は先日の〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉による襲撃で根こそぎ木々をなぎ倒されたその場所である。ほんの半年まで地表が剥き出しになっていたそこは、今は背の低い草花が辺り一面、元気に繁っている。……が、背の高い木は一本として生えていない。もう、元の通りに再生する事はあり得ないのだろうか。

 直人は海に背を向けて街を望むことは、山が邪魔になって出来ない。街はこの山の向こうにある。大分距離がある為、街が襲われた事自体が本来は滅多なことなのである。

 直人の視界の両端には木々の生い茂る元の通りの森があり、中央には一筋に通る、地球外生命体が通った、太い太い獣道が見える。

 この山の土砂崩れの危険性や、街の人口減少や復興作業の難航(家を建ててもまた襲われるのではないかという危惧)など、暗い話題が次々耳に入ってくる。

 無理矢理にでも明るい話題を探したいのだが、なかなかそうはいかない。

《直人、目標到達まで残り十分だ。ほぼ予定通り》

 思考をぶった切って直人の脳内に注ぎ込まれる、異性で年上の、少年の様な声。

「調子いいみたいですね、新しい装置」

 問題児達(ロジャー&ミア)と共に、最新鋭の機材がこの基地に入って来た。

 それによって約三十倍の敵襲の捕捉精度が実現でき、規模も速くに計測できるようになったとか。つまりそれだけ対抗策を講じやすくなった。

 いい事づくめなのだが、いかんせん職員が慣れるのに時間が掛り、今も万全の態勢かどうかは不明である。初の実戦とあり、直人の中に不安があるのは否めないが、――

《まったくだ。最初ッからくれよ。今までどんだけ苦労してきたと思ったんだ。ケチどもめ》

 スズシロの感情を伴った愚痴が脳内に注ぎ込まれる。その余裕のある言葉に少しだけ安心。

「まあ、きつきつの所に余裕が出来た事は嬉しい事ですよ。前線に出る人間含めてね」

《……直人、あの二人を信頼するのは時期尚早だ。未だ実戦訓練が出来てねえってのに――》

《二人とも、私語は慎みなさい》

 直人の脳内に注ぎ込まれる、もう一人の女性の声。結衣菜の声とはまったく異なる、落ち着き払った、相手を少し威圧するような、それでいて歳を召した声。

「あ、すみません」《へーい》

 二者二様の返答が合わさる。ふうッと感情のこもらない溜息が一つ。

《あなた方にはあなた方のペースがあるのは分かります。しかし『新体制』下、初の実戦です。体制だけではありません、列挙に暇がない程、実に様々なことが新しいのです。……こんな事は、私だって初めてです。どうか緊張感を持って。よろしくお願いしますよ》

 厳しさの滲みでる声だが、嫌みのない分好感はもてる。しかし固そうなイメージは払拭できない、というか実際そうなのだろう。

 スズシロの文句は続く。

《どーせなら、私もさッさとお役御免といく方が、今後の為にはいいんじゃないですかねー》

《その方が理にかなっているでしょうが、しかしこれは私の問題です。準備期間が殆ど無かったせいで、私があなた方に適用できていない。これは重大な問題でしょう》

《いやいや、ぬゎにを勘違いしていらっしゃるのか分かりませんが、私はまったくの素人(アマチュア)でっせ。あなた様の様なそれはそれは素晴らしい専門家(プロフェッショナル)様とは雲泥の差、月とすっぽん、二階から目薬、菜の花や、月は東に日は西に、そこのけそこのけ、お馬が通る》

《おどけないで。先程言った通り、どうか緊張感を持って下さい。……そうですね、確かに私とあなたでは経験の差、知識の差から、失礼ですが兎と亀です。しかし亀は未だ兎の前にいます。どうか私が追い付くまで、スズシロ、あなたが皆さんを導いて下さると助かります。私はちゃんとサポートしますから》

《……チッ、コイツ意外と食えねえな》

《……聞こえていますよ、スズシロ》

「……あのー、他人(ひと)の頭の中で喧嘩するのはやめて下さい」

 スズシロとその女の舌戦は逐一直人の頭に響いた。そこにロジャーからの通信が横入り。

《まったくだ。女の話は聞くだけ時間の無駄だ。なァ直人、お前もそう思うだろう》

「思いません。幾ら嫌でも、指示には従って下さいね」

 このロジャー、初めのうちこそ悪い印象が大半を占めていたが、会話をするうちに、知識とユーモアがあり、自分に対しては丁寧で、自分に対してはごく誠実で、自分に対しては偉ぶらず、自分にとってはいい人であることが分かった。……

 そう、あくまで自分にとっては。

《なんだよ、話の分かる奴だと思って期待したのに》

「そんな要素ありましたか?」

《……分かるさ。お前はどっちかと言えばこっち側の人間だ》

「それは――」

《おいコラ、ロジャーッ!! 貴様ナオトに変なことを吹き込むなッ!! ナオトは貴様とは違うッ!! 雲泥の差、月とすっぽん、二階から目薬だッ!》

 ロジャーの言葉に、内心ひやりとした思いだったが、ミアの遠慮のない言葉に救われた。

「この状況で『二階から目薬』は間違った使い方です。間違って憶えないで下さい。スズシロ先輩、あなたの所為ですよ」

《知らん》

 素ッ気ないスズシロの声。言い負かされて機嫌が悪いのか、二人を(なだ)めてくれる気配が無い。

《なんだヒス女か、邪魔すんなよ。だから女は嫌だ。なァ、ナオト》

「いや、知りませんて」

《ナオトはお前なんかとは違うだろッ! 馬鹿かお前はッ! お前の目は節穴かッ!》

「いえあのミアさんもどうか挑発に乗らないで――」

《そう思ってんのはお前だけなんだよ! お嬢様は黙ッてろ、ハナッから住む世界が違う》

「えー……」

無礼(ナメ)るな! 私は確かに貴様よりも経験こそ浅いが、信頼に足る成績は残しているッ!》

「あのー……」

《そういうこと言ってんじゃねえよッ! ッたく、だから駄目なんだよお前は》

「どうか僕の頭の中で喧嘩は……」

《うるさいッ! そういう貴様こそどうなんだッ! 必要以上に和を乱して、この問題児がッ! 今までよく無事でいられたなッ!》

「あー、確かに……」

《フン、言っただろう、あんたがどう思おうと俺達は所詮捨駒だ。数は多い方が良いのさ》

「もう、生きるか死ぬかって時にそういうモチベーションの下がる事は――」

《三人ともいい加減にしなさいッ! 目標到達まで残り二分を切りましたッ!》

 脳内に注ぎ込まれる女の怒声。それが聞こえると二人は素直に大人しくなり、漸く直人の脳内で繰り広げられるアメリカ人同士の日本語の喧嘩が終わった。

『僕も含まれているんですね』を飲み込んだ自分、偉い、大人。直人はぐっと右手を握った。


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