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the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第二章・死にたくなけりゃ、さっさと戻れ
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ii――「これは体罰ですか?」「いいえ、可愛がりです」

 舌打ちをして部屋に入って来た男は、直人を見止めると表情をころっと変えて、明るい顔で手を差し伸べ握手を求めた。

「あんたがナオトだろう? データを見た。やっぱり実際見ると随分と小せえな」

「えっと……」

「俺は、ロジャー・リーってんだ。ロジャーでいい。よろしく頼む、ナオト・カネクラ」

 直人は戸惑いながらもその手を取った。ミアは先程からずっとロジャーを睨みつけている。

「『渥美の孤虎』って呼ばれてんだろ?」

「そ、それやめてッ! お願いだからッ!」

『渥美の孤虎』とは、渥美半島を一人で守る事からつけられた直人の名だが(っていうか誰だよこんな名前勝手につけたヤツ。恥ずかしすぎるだろ)、この『孤』には『孤独』という意味以外にも『小』、つまり『小さい』という意味も含まれている。

 それを知ってか知らずか、ロジャーは直人の反応を見てにやりと笑う。

「なァに、俺は見た目で判断しねえさ。ちゃんと成績もチェックした。なんせ水準(レベル)5の規模の襲撃を、たった一人で撃退してるんだろう? それ程の腕の奴は本部にもそうそういねえ」

「あ、ああ、それは、どうも」

 顔では笑いながらも内心気不味い。ちらりと眦でミアのしかめっ面を確認。ロジャーと親しく接すれば接する程ミアとの距離が離れるのではないかと不安になる。今現在の心象からすると、出来ればミアの方と仲良くしたい。

 だいたい何だよ、いきなり小せえなんて。随分と失礼なヤツだな。

 あ、いや、ミアさんにも言われたけど。

「日本人と中国人とイタリア人の血が混じりながらもイギリス生まれで、何故かアメリカ人やってる。日本語も喋れるって言っちゃ喋れるけど、なんせ母語は英語だからな。おかしな所がありゃ言ってくれると助かるよ」

「ああ、そうなんですか。いえ、随分うまいものでびっくりしました」

「そうかそうか。お世辞でも嬉しいもんだ」

 ロジャーは子供っぽく笑った。アメリカ人のロジャー・リー、であるが日本語の使い方といい、顔の感じといい、むさい雰囲気はあるものの彫りが浅くアジア人の風貌を備えていた。

「お世辞なんかじゃありませんって。それに……ミアさんも、随分と達者で」

 直人はちらりとミアに目配せし、カマを掛けた。ミアはロジャーに一切目を合わせることなく直人に微笑みかけた。――やっぱり第一印象がアレ過ぎる。

「ああ、大学時代にな。専攻(メジャー)はフランス語学だったが、並行して幾つかの言語を習得した」

「あ、大学卒なんです――」

「ハンッ、いい所の大学出か。通りでお嬢様面してる訳だ」

 ロジャーが直人の言葉を遠慮なく遮ってミアに向かって棘と悪意のある物言い。ミアから笑みが消え、しっかりとロジャーを睨みつけた。直人はひきつった笑みがべったりと顔につけたまま二人を見ている。

 ――アメリカと日本では大学の意味が多少異なる。大体一般的に言われている事と言えば、アメリカの大学は入るのが簡単で出るのが難しい、日本の大学は入るのが難しくて出るのが難しい、など大体は日本の大学に批判的なものだろう。しかしそういう類の意味の事ではない。

 アメリカの入学試験というのは一芸入試や公募推薦などの割合が高く、様々な選考基準を持ち、留学生を受け入れる。つまりは、頭が適度に良いだけでは大学の門は開けない。頭が良い以外を育てる為にはどうすればいいか? 手っ取り早い話が、家が金持ちかどうかである。

 絶大な運動神経等の売りが無ければ、生半な頭の良さでは一流の大学へ入れない。

 要するに、批判されがちなペーパーテスト以外の門戸を設置したら、結局お金持が有利な方に転びましたとさ、ということである。

 なんてことは勿論直人には分からず、自由の国アメリカの人間同士がどうしてこうもいがみ合っているのか知る由もない。理由が分からないのであれば仲裁に入る事も出来ない。

 ロジャーはにやりと笑みを浮かべ、直人に向かって話を振る。

「なあ直人。全世界の〈突偽〉使用者の、男女比がどんなものか、お前は知っているか? 何と二百対一だ。……〈突偽〉使用者なんて都合のいい言い換えで誤魔化しているが、要するに兵士だ。二百人の兵士がいたとして、女の兵士はたった一人だ。……この意味が分かるか? ……なあ直人、〈突偽〉を使用する為に必要な事は何だ?」

「あ、ええっと……基礎体力と知識と技術、かな」

「その通りだ。だが基礎体力といっても、力よりも俊敏性などが物を言うからな。基本的に体重を増やして筋力をつける様な事は必要ない。適度な運動能力があれば〈突偽〉使用には差し支えない。もしそれで完全に振り分けられるなら、男女比は大体十対一になるそうだ。……でも現実はこの数字だ」

「貴様何が言いたい」

 ミアは怒気のこもった声でロジャーを威嚇した。ロジャーは意に介さず直人に続ける。

「結局の所、女が男をどう扱ってるかって分かるだろう。平等だって口先だけで言ったって、現実はこうだ」

「……私が女の代表として何を言う訳にもいかない。貴様が誰でどう思おうが構わん。だがここに私がいる以上、貴様を平等に扱い、貴様に平等に扱われる事を望む」

 ミアの言葉にロジャーは馬鹿にしたような笑みを浮かべ、手近な椅子にどっかりと座り足を組んだ。

「ハッ! 馬鹿言ってんじゃねえぜ。お嬢様は素直にさッさと嫁いで、パパとママを安心させてやるんだな。適当に金持ち見繕ってニコニコしてりゃ女は皆生きて行けるぜ」

「貴様ッ!! 他人(ひと)を売春婦かモノの様に見下すかッ!!」

「あん? 俺が何か間違ったことを言ったか? 俺と同じ扱いをしてやったんだぜ? 女って言うのは、いつもそうだ。男をモノの様に扱っておいて、てめえが同じ扱いされると烈火のごとく怒りだす。例えば、『美人を連れて街を歩きたい』と男が言うと、モノ扱いするなと総攻撃をかけるが、『女は恋で綺麗になる』なんてファンデーションがわりの物言いにはなぁんにも思わない。……なぁ、あんたはさっき俺と平等に扱えといったな。いいか、俺達は道具だッ! お前は自ら道具の様に扱われることを望むのかッ! 自ら道具に、捨駒に成ろうってのかッ!!」

「道具だ捨駒だと、貴様ッ!? 軍人としての誇り(プライド)はないのかッ!」

 ミアが上気した顔でそう怒鳴りつけると、ロジャーの顔から笑みが消えた。

「誇り(プライド)だァ!? だからあんたはお嬢様ッて言ッてんだッ! そんなモン生まれたときからありゃしねえよッ! ちっぽけな誇り(プライド)もすぐに宇宙人共の贓物に洗い流されちまったぜッ!『普通は』な、こんな所『仕方なく』来るべき所なんだよッ! あんたは何だッ! 選んできたんだろッ!? 偉そうに大学出て、どうせ偉くなってすぐ現場離れて俺達を道具扱いするって算段だろッ!! そんな奴平等に扱えるかってんだよッ! 馬鹿言いやがってッ!!」

「貴様ァ!」

 ミアは堪らず怒鳴りつけて首根っこを掴んだ。そんな二人を前に、

『ああ、お二人とも語彙が豊富でいらっしゃる』

 と現実逃避しかける直人。

 それではいけないと己を奮い立たせて二人を止めようとした所で、天の助けといわんばかりに、シュッと自動ドアが開いた。そこにあったのは神室とスズシロの姿。

 日本人二人は、そんなアメリカ人二人を目にして、片方はひきつった顔で手に持っていた書類をバタバタと落とし、片方は呆れたように双方を一瞥した後、(何故か置いてあった)竹刀を手に取り、問答無用で二人の頭に振り下ろした。


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