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the Spree of the Naïve Honest  作者: けら をばな
第一章・愚人ども
11/48

xi ――守ってます③

 続く〈妖精(スプライト)〉の攻撃も楽々受け止めて、一撃で仕留める。そうすると相手も警戒するようになる。距離を取り陣形をつくる。直人はキッと睨みつけ、後ろで手を組んだ。そして〈妖精(スプライト)〉の突進に合わせ、後ろに跳んだと同時に指先を開いて体を回転させながら腕を左右前後に動かした。すると忽ちのうちに〈妖精(スプライト)〉は刀ですっぱり斬られた様にバラバラになった。青い、釣り糸の様な細い線が直人の指先から伸びているのが、光の加減によってのみ確認出来る。普段の戦い方より消費電力が段違いに小さいのでこちらを採用した。

 その器用な戦いぶりを目にしてたじろぐ表情豊かな〈妖精(スプライト)〉と、獣の様な瞳で睨みつける直人の対照的な視線が交わる。灰の〈妖精(スプライト)〉が白に向かってガマ蛙声で何やら指示(灰と白では灰の方がどうやら身分が高いらしいことが分かっている)。すると白の〈妖精(スプライト)〉は、一斉にがむしゃらに直人に向かって突進した。正に特攻。直人は先ほど同様四方八方に糸を張り巡らせ、白の〈妖精(スプライト)〉を全て切り刻んだ。これで、案外速く十二体を仕留めることが出来た。残りはたった三体。……しかし楽に終わらせてくれそうにはない。

「白色〈妖精(スプライト)〉、主題(テーマ)変更(チェンジ)、左から〈()〉〈(ジュウ)〉〈(ソウ)〉ですっ!」

《丁寧にありがと、結衣菜さん》

 太く長い両刃の刀を持つ〈牙〉と、名前の通りマシンガンを持つ〈銃〉、槍を持つ〈槍〉。

 直人は拳をぐっと強めに握った。緑色の光が、通常よりも光り輝いた。先ず始めに〈銃〉が遠慮なくぶっ放して来た。銃弾を避けながら後ろに跳びはね山を下り、その緑に光る手を前に出し開くと、直人の前に緑色に光る楯が現れ守った。そこへ〈牙〉が重そうな刀を振り下ろしてくる。咄嗟に楯で受け止めると、楯はパリンと音を立てて割れた。すぐさま〈銃〉がマシンガンを――とはいかない。直人はしっかりと〈牙〉を自分と〈銃〉の直線上に配置している。〈槍〉が勢いよく直人の後ろから鋭い槍先を向けて飛んでくる。直人は跳んで避ける。〈牙〉を眼前に見止めた〈槍〉は慌ててスピードを緩める。その隙をついて直人は青い糸を〈槍〉の〈妖精(スプライト)〉の体に絡みつける。そのままピンと引っ張ると、件の通り体を細切れにしてしまった。

 それを見ていた〈牙〉は刀をがむしゃらに振りまわし、直人の糸を断ち斬った。直人は糸で斃すのを諦め、両手で手刀を作り、斬る。がそれも刀で防がれてしまった。にやりと嗤う〈牙〉の〈妖精(スプライト)〉。羽で飛翔した〈銃〉の、上空からの掃射。仕方ないと、一時退散。そして、やがて街に着いてしまう。『街の一部くらいくれてやる』というスズシロの言葉が脳裏に浮かぶ。悪いとは思いつつ、建物を楯にして銃弾を防いだ。隠れつつ、好機を探る。

 弾丸の驟雨が止む。今だと飛び出す――すると〈牙〉が刀を振り上げて待ち伏せていた。

 しまったッ!! ――というふり。顔でもしっかりと表現。ちょっとわざとらしかったか? と考えたが、〈牙〉がにやりと笑った所を見るとしっかり油断してくれた様である。そのお陰で簡単に刀を避けられ、緑色に光り輝く拳で顔面に一撃。はじけ飛ぶ脳漿。

 一部始終見ていた〈銃〉は意地になって〈牙〉の死体ごとマシンガンをぶっ放してくる。直人は予め作っていた緑色に光る左手の楯で防御しながら、突進し、腹を右手の拳でぶん殴った。

妖精(スプライト)〉小隊、見事ここに殲滅。――しかし問題は寧ろここからだ。

《畜電力はッ!?》直人の通信。

「現在五十八%!」結衣菜が叫ぶ。

《くッ! ……やっぱり七十%は無理じゃ――》

「七十二%だ、直人。それまで許可出来ん。今は出来るだけ下がって、待て」

 じっと冷静にモニターの直人を見続けるスズシロ。直人はぎっと歯噛みして、一時撤退。

 櫓の様な鉄塔の上で、ただ待ち続ける直人。じっとモニターを見続ける面々と、カタカタと血眼になってキィを打ち続ける一部。モニターの蓄電率を示す数値は六十三%を指し示したまま一向に上がる気配が無い。やがて直人の耳にみしみしと木々をなぎ倒す音が聞こえる。

《来ましたッ! 本当に……本当にヤバいッ! どうか許可をッ!》

「何度も言わせるな。待て。言った筈だ、街の一部はくれてやるってな」

《それでも……》

「なァに、お前はよくやった。大変だっただろう、後は背中を信じろ」

 スズシロの根拠の確認できない明るい言葉に……すっと直人の体が軽くなった。

 依然数値は六十三%を示し続けている。やがて〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉は山を越えて来た。

 のしのしとゆっくり侵食続ける、化け物の群れ。数値はそこでやっと六十四%を示した。

「システム修正ファイル作成終了! 転送許可をッ!」

「許可するッ! 結衣菜ッ!」

「はいっ! 直人さん、ちょっとチクってしますからねっ!」

 神室、スズシロ、結衣菜の連携。

 応答する暇も無く直人を襲う全身の痺れ。ちょっとチクっなんてもんじゃない。

「システム更新終了、異常は!?」「ありません、概ね良好!」「蓄電係数、三十%ですが、改善!」「引き続き蓄電を続けますッ!」

 言葉の通り、充電機能は少しだけ改善された。しかし畜電力率六十六%に至った時、〈(ヴァルガー)(・クラウド)〉は街に浸食を始めた。ぐちゃぐちゃと伸縮しながら、家々を踏み潰してゆく。

 直人はその光景を眺めながら、痺れが治まってもなおくらくらする頭を支え通信を入れる。

《スズシロさん……まだですかッ!》

「安心しろ、もう大丈夫だ」

 一分で畜電力率六十七%に達成。途端に安定して電力が供給され、六十八、六十九、七十とみるみる蓄電率が上がってゆく。しかし〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉も動きを止めてくれない。じわじわと、街並みが、店が、住宅が、化け物の色に染まって行く。畜電力率七十一に達した。数値が明滅を始め、七十一と七十二を交互に示して、安定しない。スズシロはそれをじっと見守る。

《スズシロさん、敵襲、目と鼻の先ですッ! このままじゃ、〈(ジン)〉を展開しても街が――》

「今の設定だと畜電力七十二%を閾値としてパフォーマンスに多大なる影響を及ぼす。待つんだ。いや、耐えるんだ。それがお前の、今の仕事だ」

 スズシロの静かな声。暑くも無いのに汗を垂らしながら、直人は待つ。

愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉はお構いなしに歩みを続ける。街の中でも巨大なビルが、押し潰され、ズズズッと倒れる。ぎゃあぎゃあとけたたましい叫びが街中に響く。恐らく、街の人間の耳にも届いているだろうと考える。

 ――畜電力七十二%に到達。

「〈(セン)〉の発現を許可する! 直ちに〈(ジン)〉展開準備!」嬉しそうに目を細めるスズシロ。

「了承っ! 〈(ジン)〉展開許可、いつでも作動できますっ! 直人さん、〈(セン)〉ですっ!」

《よっしゃ了解ッ! 万能汎用型〈突偽〉、装置主題(システムテーマ)・〈(ジン)〉、展開ィ! 陣形・〈(セン)〉!》

 直人は腕を前に出し、肘を曲げて手を天に向けて、祈る様に手を組んだ。

 先程同様、体の緑の紋様が、蠢き、這いずり回って、体から離れ、地面を蛇の様に走り〈(ヴァルガー)(・クラウド)〉のひしめく中を進んで、二股に、それが四つに八つに十六に分かれ、そして緑色の線で描かれた円形の〈(ジン)〉を張り巡らせた。

愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉は連帯を組んで規則正しく、遅いものに合わせながら進んでいた。

 故に〈(ジン)〉は、ぎりぎりだがすっぽりと〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉全体を包み込んだ。

《間に合った、ッてのか?》

「〈(セン)〉発動、五秒前、四、三――」依然緊張したままの結衣菜の声。

「よかったな直人」ざまあみろとでも言いたげなスズシロの声。

 文句も何も言い返せない直人。少し考えたが、

《……了解》

 と短く素直に応答。

 同時に爆発、閃光。

 七色の光は熱を伴い、渦を巻いて、高く高く空まで焼き尽くし、〈愚衆(ヴァルガー・クラウド)〉を包み隠した。轟々と音を立てる閃光。初めのうちは〈(ヴァルガー)(・クラウド)〉の呻き声が不気味に響いていたが、段々とそれは小さくなり、やがて空気を焦がす音以外は何も聞こえなくなった。そのうちに七色の光りは小さくなり、次第に明滅して、そうなるとあっという間に光は完全に消えてしまった。〈(ジン)〉が描かれた場所を見る。

 円形に、その内は何もかもが蒸発して消え去ってしまっていた。

 化け物も家も施設も生き物も無機物も何も、境なく全てを焼き尽くしてしまっていた。

 直人はそれをじっと見下ろしていると、立ち眩みがして、その場にへたり込んでしまった。


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