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喪女の日常と習慣と就活3

大輔が食べ物に対してワガママな理由。

これを話すとなると、ウチのことも話さないといけないだろう。


我が家は父と母、その一人娘のあたしの3人家族である。

父も母もそれぞれ働いていて、父は自宅の一階で内科医院を開く医者。母はここから車で30分くらいの場所にある大きな駅ビル内でお料理教室を開いている料理研究家で、それ以外にもテレビで毎週お料理コーナーを頂いている。

あたしは小さい頃から二人の忙しい姿しか見たことがない。


あたしは寂しさから父の病院によく出入りし、常連の爺婆サマに可愛がってもらった。

父の仕事仲間でもあったお隣のおじさんも、もちろんその中の一人だ。


そうしてあたしが4歳になった頃、お隣には大輔が産まれた。

周りに大人しかいなかったのもあって、あたしは大輔が可愛くて仕方なかった。

迷惑も考えずに毎日毎日会いにいっては抱っこしたりオムツを替えさせてもらったり、おばさんと三人で近所に散歩しに行ったりした。

よちよち歩きであたしの後ろをついてきたときは、きゅんきゅんして黄色い悲鳴をあげながら抱きしめたのを覚えている。


それくらい大事で可愛い弟分の一家が離婚することになったのは、あたしが中学2年生、大輔が小学校4年生のころだった。

いつから二人の仲が良くなかったのかなんて、子どものあたしにはわからなかった。

それでも中学生なりにわかったのは、おじさんの家に残ることを決めた大輔が寂しがっているってことと、この男二人では家事の人手不足だろうってことだった。


母からの要請もあり、あたしはおじさんの家の家事を手伝い始めた。最初は買い出しとかお皿洗いとかだったのが、そのうちに大輔のためにおやつを作るようになり、そのころにはあたしは自然と母の隣で料理を手伝うようになった。

けれど、娘相手とはいえ、さすがはプロの料理研究家。素材の鮮度の見分け方から、基本的な切り方、下処理、仕込み法、調理法、盛り付けまで、一切の手抜きなく教え込まれたのである。

ちなみに母のポリシーは「NO保存料! YES手作り!」なのでマヨネーズなんかも自家製だったりする。味噌とかはさすがに買ってるけど。

そうして母から太鼓判を押してもらえるようになった高校生のあたしは、さらに忙しくなった母に代わって両家分の夕飯係に任命された。

そうして、大輔の家の離婚から数えて6年。

あたしが夕飯係になって4年。


プロの料理研究家と自分(大輔)に甘いその弟子に餌付けされた大輔は、立派なグルメ舌をお持ちになりやがった。



それが、大輔がワガママな理由。


ヤツ、高校生なのにファーストフード店入ったことないんだぜ。

そもそも外食すら嫌がって行かない徹底ぶりなんだぜ。


ちなみに、あたしはファーストフードもフツーに食べる。毎日はさすがにキツイけど、友達と出かけたときとか、手軽で便利だと思う。ポテト好きだよ。マスタードと合うよね。


…あれ、なんかいろいろ余計なこと考えてた?

うん、いいや、頭の中にしまっとこう。


過去の回想と共に鬼まんじゅうを飲み込むと、あたしは玄米茶を飲み干した。

さて、おやつタイムは終了です。

壁掛けの時計を見ると、既に5時半を過ぎていた。ちょっとゆっくりし過ぎたなぁ。


「大輔、食べ終わったらお風呂洗ってきてね。7時には晩ご飯にするから」


立ち上がりながら言うと、大輔は鬼まんじゅうを頬張りながらこっくり頷いた。


わふぁっふぇうをー(わかってるよー)


そんな返事を聞きながらキッチンに入る。

えぇと、何にしようかな。

昨日買って下処理しておいたサバがあるから、みぞれ煮にするか。

あとはほうれん草とカボチャの味噌汁と、あ、頂き物のベビーコーン茹でて温野菜サラダにしよう。それとあとは…。


黙々と準備を始めたあたしは、ふっと視線を感じて顔を上げた。

ダイニングから大輔がこっちを見ている。

それも、なんだかちょっと恨みがましい眼差しで。


「…なにかな?」


ばっちり目が合ったので聞いてみる。何かご不満でも?

ファーストフードは嫌いだけど、食材で嫌いなものはないでしょう、アンタは。


「おれが彼女と長続きしないのって、モコちゃんにも原因があると思わない?」


「ゔっ…」


自分でもちょっと思ってるもんだから、否定出来ずに言葉に詰まる。

過保護でちっちゃいころは溺愛してたのは認めるよ。でもグルメ舌なのはあたしのせいじゃ…ない、よ?うん、お母さんのせいだよ?


「ここまで育ててもらったんだもん、感謝してるよ? さいっこうにうまいもん、モコちゃんのメシ」


大輔がにっこり微笑む。あぁ、すみません、あたしも同罪ですよね。褒められると心苦しいです、はい。


「おれ、恵まれてるなぁって思うもん。弁当だって毎朝全部手作りだし? お菓子作るのもうまいしね? ウチの家事だってモコちゃんいなかったら回らないよ」


大輔の褒め殺し!智子は60のダメージ!


「や、朝はお母さんが作ってるし。お弁当も朝とか夜の残り活用してるし…」


智子は反撃した!


「でもおれモコちゃんのメシが好き」


大輔のカウンター!

智子は39のダメージ!


「ソ、ソウデスカ…」


智子は瀕死になった!



うわあぁあぁ!!

なになにやめてよ!現実逃避しきれなかったし! 背中むずむずする!なんか恥ずかしい!


「なのにさぁ」


急に大輔の声が低くなる。

あ。この流れは。最近よくある感じだ。

できれば回避したいんだけど、今お鍋火にかけてるし、サバに小麦粉まぶしてるので逃げられません。


「なんでおれのこと置いてどっか行っちゃうわけ?」


このセリフ、もう何回聞いたかなぁ。

うぅ、言葉がちくちく刺さってるって。まだ怒っていらっしゃいましたか。

ちろ、と横目で大輔を見ると、その目が不機嫌そうに細められるのが見えた。


「しかもフランスって。どゆこと?」


6/16、編集しました。

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