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久遠の恋  作者: chihiro
3/7

イゾラとシスネ

「おいシスネ」


 がたん、と扉を開けてずかずかと進入してきた人物は、シスネの一番苦手な人物。子供の頃からシスネを苛め抜いてきた男でもある。


「……何ですか」


 地を這うような低音で答える。それが気に入らなかったのか、男は不機嫌そうに顔を歪めて舌打ちする。

 その舌打ちにシスネはびくり、と肩を震わせた。それを見た男の機嫌は更に下降する。開けた扉から一歩踏み出した男は、シスネの真横に立った。そこに立ったのは、机と椅子が邪魔だったからだ。そんな物が無ければ、シスネの正面を陣取っていただろう。それほどに彼は怒っていた。


「お前、どういうつもりだ?」


「何が」


「解ってんだろうが!」


「……だから、何が」


 埒が明かない、と声を荒げた。


「俺との結婚は嫌だと言ったらしいな!」


「死んでもね」


「何だと!?」


 その怒鳴り声は、シスネのトラウマを大いに刺激した。強気な姿勢と声音だが、シスネの心情は、今すぐにでもこの場から逃げ出したい、の一つ。

 彼、イゾラはシスネの恐怖そのもの。そんな彼からの意外すぎる申し出。イゾラとシスネを許婚にする、と言うものだった。

 嫌がらせも此処まで来ると凄いの一言に尽きる。自分の嫌いな存在を最後まで苛め抜くために、己の人生を投げ打つのだ。


「流石に、結婚は、ムリ」


「何でだよ」


「イゾラは私の『久遠』じゃない」


 その言葉はイゾラにとっては何よりも重かった。幼い頃からシスネを苛め抜いたのは、他の誰でもないイゾラ自身。シスネに良い感情を抱かれていないと理解はしていたが、それでもその言葉は心に突き刺さる。

 シスネにどう接していいのか解らなかった子供時代。シスネに恐怖されるほどの存在になっていたとは知らなかった。


「………シスネ」


「イゾラが何を言っても、ムリな物はムリ」


「俺の『久遠』はお前だけだ」


 その真剣な言葉にシスネは眼を見開く。この男は何をとち狂った事を言い出したのか、と考える。今まで何かあれば厭味を言ってきた人間が、今更、とも。

 苛立たしげに周囲を見回すイゾラ。伝えたい思いは唯一つ。ただ、どう伝えればシスネに曲解されずにすむのかが解らない。自分の語彙の少なさに嫌気が差す。


「お前だけが、俺を揺さぶる」


「え」


「お前だけが、俺の思考と感情を支配するんだ」


「え、ちょ、」


「俺の『久遠』は、誰が何と言おうと、お前だ」


 シスネ、という囁きは空気に漏れることなく、シスネの唇へと消えた。いきなりの事態に硬直したシスネにほくそ笑みながら、イゾラは納得する。こうすれば良かった、と。

 顔を青や赤に忙しく染めるシスネは文句無く可愛い。展開に付いて来れて居ない間に、取り敢えず身体から陥落していこうと決める。

 方向性を決めれば、行動あるのみ。シスネをひょいと抱えてイゾラが向かう先は、シスネの部屋にある簡素なベット。

 そこで愛を囁き、最終的には自分をシスネの『久遠』だと言わせればいい、と考えた。イゾラのそんな思惑にまんまと引っかかり、シスネは息も絶え絶えに、イゾラを『久遠』と認めた。




 苛め抜いた己の所業をシスネに謝り倒すイゾラが見られるまで、あと数時間―――。

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