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Oh My Mayonnaises

作者: 日谷 月彦

 「人の食事には様々な好みがある。その好みにより、時に人は味付けの道を見失ってしまう。この私がその一例だ。しかし、間違っているとは思わない。私はマヨネーズが大好きで、世間一般でいう典型的な『マヨラー』なのだ。ついでい断っておくが、自称は『私』、だが男だ。」

 一日の始まりは、6時に起き、軽くシャワーを浴び、さっぱりしたところで朝食だ。メニューは『目玉焼き、ウインナー、サラダ、パン、インスタントスープのコーンポタージュ』というごくごくありふれたような朝食なのだが、私はさらにマヨネーズを加える。

 まずはどこでもやりそうな、パンにサラダとウインナーをはさみ、そこに『黄金に輝いているような黄色いマヨネーズ』、略して『マヨネーズ』をウインナーとサラダが覗いているところに「こっちみんな」と言わんばかりにマヨネーズを塗りたくる。後はかぶりつくだけだ。『黄金に輝いているような黄色いマヨネーズ』とは、この私が付けた敬称なのであって、断じて単なる厨二病にかかっているわけではない。どうだろうか、ここまでは大概皆もやってはないだろうか。ついでに言っておくが、このような『当然の食べ方』に異論は認めない。次に食するは目玉焼きなのだが、当然マヨネーズはかける。マヨネーズをかけるとき、下の卵が見えるようにマヨネーズを波打たせるのが『マヨネーズかけ目玉焼き』をうまそうに見せる秘訣である。これには分からず屋が現れるがそんなことはどうでもいい。そして極めつけはコーンポタージュにマヨネーズをかけることだ。あらゆるスープにマヨネーズをかけて飲み比べた結果、私にとってこのコーンポタージュがフィットした。ここで素朴な疑問が浮かんだのだが、なぜマヨネーズに合わない食べ物が存在するのだろうか。この疑問を友達に聞いたのだが、みんな苦笑いするだけでどうしてか答えてはくれなかった。

 こうして私の一日は始まりを告げる。今さらながら自己紹介をしよう。私は下宿をしている大学生、間宵マヨイ 加根数カネカズ。いつもの朝を迎え、大学に登校しているところだ。カバンの中にはいつもチューブ式マヨネーズを持ち歩いている。ついでに、キューピー派かピュアセレクト派のどちらかといわれるとキューピー派だ。

「よし、準備が整って、あとは携帯用マヨネーズを取り出すだけだ。」

私は高まる鼓動を抑えつつ、マヨネーズの棚を開けた。だが、マヨネーズが見当たらない。あのかわいらしい赤ん坊のイラストがまるで見当たらない。私の中で何かが崩れそうになった。いや、まだ方法がある。スーパーに買いに行けばいいのだ。

「ただ今、約7時。登校時刻にはまだ余裕があるな。」

私は素早く支度してスーパーに向かったが、スーパーの開業時刻は朝8時からだった。そこで私は挫折というものを味わった。そして私は自分自身の未熟さを恨んだ。

 私はカバンにMyマヨネーズがないまま登校した。カバンにMyマヨネーズがないこと、これはマヨラーあるまじき行為に他ならない。つまり、今の私に「マヨラー」を名乗る資格がないことを意味していた。大学でもその悔しさは尾を引いていた。その時のことを人々は、「今までとはまるで勢いが違う。まるで血に飢えた野獣のようだ。」と語っていたが、私は血なんかに飢えていない。マヨネーズに飢えているのだ。そこんとこよろしく。

 とにかく私は午前中の授業を自分自身に悔しさをぶつけるように受けた。その時の授業を受け持った教授は後にこう語った。「え、君そんなに頑張ってたんだ。知らなかったわー。」これが、この大学の教授の実態である。

 こうして午前中の授業が終わると、一つの関門が現れた。昼食である。マヨネーズのない昼食など、私には想像を絶する出来事だった。

「マヨネーズがない、マヨネーズがない、マヨネーズがない、マヨネーズがない、マヨネーズがない、マヨネーズがない、…」

こんなこと初めてだ。でもどうする、この大学はできたばっかりだから近くにスーパーはない。学食にマヨネーズかけのなんたらがないことは知っている。近くのコンビニには、当然マヨネーズなんて代物は扱っていない。しかし、かといって昼食を抜いてしまうと、午後の授業では確実にばたんきゅーになる。どうする、どうするんだ私。

 こうして午後の授業が始まった。

「昼食、ぬいちゃった、テヘペロ。テヘペロじゃねぇよ。しかも、なに自分でぼけて自分で乗り突っ込みいれてんだよ。なんでほかの登場人物ださないんだよ。作者、しっかりしてくれ。私のみじめさがだんだん増幅していくじゃないか。」

ということを本当に口に出してしまったため、心なしか周りの人間が離れていくのを感じた。そして私はまた自分がみじめに思えた。

 案の定、私は昼食を抜いたことでエネルギーが欠乏し、ばたんきゅーになっていた。

「ま、マヨネーズの消失が…こんなにも人間を苦しめるとは…うかつだ。」

午後の授業の1つがやっと終わると、私はよたよたと歩き出し、次の教室へ向かおうとした。その時、天使が舞い降りた。私の前に一人の女性が立っていた。顔立ちはそこそこ、太っても痩せてもなく、体の形も悪くなかった。そんな女性が一声かけてきた。

「あ、あの、ま、ま、ま…マヨネーズです。どどど、どうぞ。」

そういうと彼女はフィルム式のマヨネーズを私に渡してきた。

「あ、ありがとう。」

私はそういってマヨネーズを受け取った。彼女はぺこりと一礼すると、そそくさと次の教室へ行ってしまった。なぜ彼女は私にこれを渡してきたのか私にはわからなかった。しかし、どういうわけか胸がドキドキしている。マヨネーズの取りすぎだろうか、いや、そんなはずはない、あってたまるものか。素早くマヨネーズを補給すると、私は次の授業を受けたのだが、あの1シーンばかりが頭を離れずにずっとリピートされていた。おかげで、その授業の内容が頭に入らなかった。

「なぜか知らんがあの1シーンが妙に頭に残りおるんだ。」

ついに私は友人の一人に相談を持ちかけた。こやつの名前なぞどうでもよいから友人Aとでも呼んでおこう。

「ああ、あの子との対面シーンだね。まさかあの子、お前のことを…」

「あやつが、私のことをどうしたというのだ。」

ちょっと間が入り、友人Aは軽くため息をついた。

「やっぱお前は鈍感な方だな。」

「なっ、なにいっておる。この私が鈍感なはずがなかろう。何を根拠にお前はそう言い切れるのだ。」

私は少し焦った。まさか、友人Aからそういわれるとは思いもしなかったのである。

「それじゃあ正直に言うよ。彼女はお前に惚れているかもしれないんだよ。それから、お前は彼女に惚れちまったんだよ。このリア充め。」

「そそそそそ、そんなはずはなかろう。え、えっと、んん、な…ええ!」

この私がここまで慌てふためいたのはこれが最後だろう。

「とにかく、この際事実に確証を得るために、少しばかり彼女に近づいてみようじゃないか。」

「ななな、何を言っておる。そんなことできるはずなかろう。」

「なーにいってんだ。今日近づかなかったらいつ近づくってんだ。」

「あ、明日があろう。」

私は弱弱しく答えた。

「明日っていつさ。」

私は友人Aの容赦のない問い詰めに後ずさりしてしまった。私は心の中で『逃げるんだ。ここはいったん逃げるんだ。それから再起を測ろう』と考えていた。すると、もう一人ほかの友人Bがさっきまでの話を聞いていたらしく、口をはさんできた。

「逃がさないで、加根数を…、決して………。逃がしたら…身を隠される………。逃げる…気だ…。感じたんだ…今こいつが一歩退いたのを………。」

私は思った。

「だめだ、この私がここで逃げるわけにはいかない。この状況から逃げたら『誇り』が消える。私は『マヨラー』だ。私が目指すものは『絶頂であり続ける』ことだ。ここで逃げたらその『誇り』が失われる。次はないっ…。」

私は立ち上がり、あたりを見回し、見つけた。彼女はほかの友人たちとおしゃべりしている。

「あのマヨラーにマヨネーズやったんだってねー。」

こ…これは先ほどの私たちの話ではないか。

「うん、私のお弁当のが余ってたからね。捨てるのももったいないし、ちょうどあの人が忘れていたみたいだし、よかったと思うよ。」

友人Bが小声で私に喋ってきた。

「やった、彼女と共に歩むのは…マヨラーの『加根数』だ。」

しかし、友人Aは少し真剣な顔で今のセリフを否定した。

「い、いや、まだわからない。彼女はマヨネーズを捨てるのがもったいないという言葉を口にしている。それはただ恥ずかしがっているのか、それとも…。」

私は即座にそれを否定した。

「いや、違うっ。礼を言うぞ…わが友人よ。おまえが『逃げる気』だといった私に対する侮辱の言葉で、わが『誇り』を失わずに済んだ。退かなくてよかった。もし退いていたなら…」

私はそういって椅子に座り、友人たちに向かって話した。

「彼女の『趣向』を見過ごして、やり過ごしてしまうところだった。フフフフフ…フハ…フフフフフハハフハ…。この『マヨラー(マヨネーズ好き)』達の意外な共感を!!」

私の友人らはあっけにとられいたが、どういう意味かは分からんが「お、おう」というだけであった。私の感覚には、彼女は恥ずかしがっていたのだと確信している。なぜなら、彼女もマヨラーなのだから!


しかし、彼女たちのおしゃべりはまだ先があったのだ。

「でもさー、マヨラーってやばくない。」

「だよねー。ありえないくらいマヨネーズかけるしー。」

「さっきだって、私があげたマヨネーズをそのまま吸ってたんだよー。気持ち悪ーい」

「マジありえないんですけどー。」

私たちに思いっきり聞こえた。友人Bは肩を軽くたたくと、一言かけてくれた。

「す、すまん。俺がその気にさせてしまった。」

そういうと友人Bは前の方を向いた。友人Aは肩をがっしりとつかみ、慰める

「ホントにすまん。ぼ、僕の思い違いでこんな思いをさせてしまった。もう、今日のことは忘れよう。」

私は彼の手をつかんだ。

「今日、ちょっと頼みごとしていいか。」

「あ、ああ、いいとも、なんなりといってくれ。」


 その夜、私は友人Aに1リットルのマヨネーズを20個買ってきてもらった。

「ほら、いくら失恋したといっても飲みすぎだよ。」

「いいじゃないか。今は思いっきり飲みたいんだ。このマヨネーズを。」

となりで必死になだめている友人Aを無視し、私は右手に持っているマヨネーズを吸い続けていた。

「そんなに飲んだら体壊すよ。もうやめなよ~。俺が悪かったから~。」

「いいんだよ。くっ、このマヨネーズ酸味が強いな…酸っぱくて…涙が出てくるぜ…。」

こうして私は翌日、気分が悪くなって大学を休んだ。


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