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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

わたし親友が大好きなので、ドアマットにはなれません!

作者: マンムート
掲載日:2026/07/17


 妹が学園に入って来た時、ヤバいと思った。



 案の定、すぐやらかそうとした!


「きゃぁぁぁぁ! 転んじゃったうぇぇぇぇぇぇん!」


 なぜか王太子殿下の前でコケた妹を、いつもの癖で助けようと前へ踏み出しかけたら――


 隣から殺気が迸った。


 恐る恐る隣を見ると、親友が凍り付いた微笑みを浮かべて妹を見ている。


 こっちのほうがヤバい!



 妹はわたしからなんでも奪ってきた必殺の涙目で、王太子殿下を見上げて、


「ああ……すてきなおうじさ――」


 王太子殿下の護衛が、セリフをぶったぎって、妹を捕えて連行していった。


「どうしてっ!? ここは王子様が助けてくれるシナリオなのに!」


 呆然と見送っていると、親友がポツリと、


「あれ、次なにかしたら殺しますわ。ああいうのを害虫と呼ぶのですわ」


「え、あ、あの」


「いやなものみましたわ。お口直しに学園のカフェにいきましょう」


 天使のように笑ってくれる親友。



 ああ尊い。



 学園に入って、初めての家族から離れられた生活で、同室になった彼女。


 本来なら子爵家のわたしが交流することさえない、侯爵家の御令嬢で文武両道の天才。


 でも、寮生活の日常は壊滅的なお嬢様。


 放っておけずにお世話してたら、みるみる要領を覚えてくれて。


 わたしの助けなんて必要じゃなくなったら捨てられると恐怖していたのだけど。


 友情というのは、役に立つ立たないとは関係ない場合もあるらしい!


 あれからずっとわたしたちは友達で、いつもふたり一緒に行動して、親友と呼べる仲になった。



「どうかしましたの?」


 小首をかしげるそのしぐさ。あどけない笑顔、ふわふわっとした金髪。


 ああ、天使。


 でも、この人は、ヤル時には殺る人なのだ。


 以前、いじめっこ上級生を、家門の権力と自身の知力で張り巡らした陰謀と暴力で徹底的に叩き潰したのを見せつけられた。


 あの上級生、退学したけど、それ以降どうなったんだろう……。


 あの上級生のご実家の話も聞かなくなったなぁ……。



 親友の悪魔ぶりを見せつけられて、わたしは恐怖に震えた。


 天使の彼女のあんな姿を二度と見たくない!


「そ、そうね。春だからあんなのが出たのかしら―」


 ごまかす。


 アレはわたしの妹です! アホな両親にあまやかされまくったモンスターですなんて言えない!



「うふふ、あんな汚物のことをいつまでも考えていても無駄ですわね。それより! 新作のパフェがおいしいんだそうですわよ!」


「そ、そうなんだ……」



 アレはまたやらかす、絶対に。


 わたしのものはゴミまで欲しがるのはまぁいい。


 わたしを、下女並みにしか思っていないのもいい。


 大した手間でもないし、わたしが我慢すればいいんだから。


 だけど、王太子殿下狙いはヤバい……。


 いや、待て。


 わたしが我慢させられた時点で、親友は爆発する! 待ったなしだ!


 毒家族は駆除され、実家は更地にされ塩を撒かれる。確定。


 だけど、それよりもっと恐ろしいのは。


『おねえさまのおともだち! ちょうだい!』


 アレなら絶対に言う、親友は瞬時に悪魔になる。間違いない!


 ヤラレル前にヤルしかない!



「よしっ!」


 家でこきつかわれていた反動で、学園ではなるべく怠惰にすごしてたんだけど。


 こうなっちゃ覚悟きめるっきゃない!


「どうしたんですの? パフェがそんなに楽しみですの」


「うん。食べる前に、ちょっと気合をね!」


「あらあら。食いしん坊さんですわね。でも、わたくしもですのよ!」


 なにその、はにかんだ笑い!


 眼福過ぎ!




 こうして、わたしはドアマットをやめた。


 昔からわたしをかわいがってくれる祖父母に、妹のだめっぷり両親の毒親っぷり奉公人達のなめくさっぷりを手紙に書いて、その行動を仔細に書いておいたメモ帳と一緒に送ったら、怒り狂ったふたりが乗り込んで来て、毒家族は駆除された。


 こうなると、わたしが当主になっちゃうんだよね……。


 それが面倒で、やらなかったのに。


 でも。


 始末に走り回り、一週間ぶりに登校したら。


「ううっ。大変でしたわね……わたくし心配で心配で……」


 ぎゅっと手を握られて、涙にぬれた瞳で見上げられて。


 心の底から心配してくれただけで、面倒も吹き飛ぶ。


 ああ……握られた手がしあわせ!


「急遽、次期当主に決まったそうですわね。これからが大変ですわよ」


「……仕方ないよ。両親が突然急死しちゃって……」


 ということになっている。


 やれやれだ。


 妹もいつのまにか消えていた。最初からいなかったことになってた!


 貴族ってこわい。


 鬼になった祖父母怖かった!



 だけど、これで、親友が鬼になるのを見なくて済む!


 それがなによりもうれしいわたし。



 でも親友は、そっと目を伏せて、


「ごめんなさいね」


「え? な、なんで?」


「わたくしが貴女の家族を始末してもよかったのですけど……でも、わたくしが勝手にそんなことをしたら嫌われてしまうかも……そう思うと怖くて貴女の手を汚させてしまって……」


「!」


 なにその、しゅんとした表情! 


 キュンときちゃう!


 わたしの親友で天使で悪魔は……やっぱり天使!




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
なんで主人公はドアマットしてたんだろう? しめ縄のごとく神経が図太い上に、多少虐げられても動じない鋼のような鈍感力を有していた挙げ句、チマい嫌がらせごときにやり返すのも面倒くさいという山のような怠惰さ…
親友や祖父母が貴族の標準なのでは、って思ったり
手を下す人物が違うだけで結末は同じということが面白いです
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